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第三幸その16「救われなければ、ならない者は」

「娘は頑なに父親から離れませんが、せめてこの子だけはお願いします」


 母親に言われ、孤児院に預けられた男の子は思った。

(どうしてぼくは家族と一緒にいられないんだろう?)


 孤児院の外に出てみると、自分と同じくらいの子供が、両親に連れられて歩いていた。


(どうしてぼくは皆と違うんだろう?)

 一緒に生活している子供達。特に仲良くしているコルレとスクラは捨て子で、父母という概念を理解してなかった。



 つまり男の子の親は実在していて、存在していたのに、側に居ないのだ。

 彼は友達とも『違』った。



(ぼくには親が居ないんじゃない。元はいたのに、どうして今はいないの?)

 孤児院に大金が投げ込まれたらしく、男の子の世話をしてくれているサーシャは喜んだ。


 これで子供達を学校に行かせてあげられると。

 ちょうど学校に行く年齢だったキリーは、家族の元を離れて学校に通い始めた。



(どうして皆はぼくと違うんだろう)

 そこでキリーを待っていたのは、無秩序だった。

 比較的裕福な子供が、自分より貧しい子を従えるカースト。多数決が全てであり、発言力の有る子供がその多数を取り決め、その中では暴力も窃盗も許される。



 常識の有る子供は蔑まれ、その小さな社会の非常識に恭順しない子は、非人道な差別を受けた。

 更にキリーは信仰深い人々に育てられ、孤児院で暮らしている。


 そんな新参者を、悪虐に飢えた生徒達が放っておくわけがない

(ぼくが良い人間だから悪いんだ……。きっと皆より悪いことをすれば、認めてもらえる)



 そんな自己不定と非条理への嘔吐感に苛まれていたとき、少年はニアダと出逢った。

 家族の末路と姉の所在を彼から聞いたキリーは、一気に心の天秤を傾ける。


 ニアダは少年の怒りと悲しみに理解を示し、手を差し伸べた。


「その君の憤りをぶつける相手を紹介するよ。残念ながらこの世の中は、正しく生きられるほど、自由じゃないからね。

 

 だから確かめに行くのさ。空想の正義と現実の悪が戦ったら、どちらが勝つのかを」


 キリーは犯罪ギルドを将来の進路とし、計画を手伝った。

 そして思いのほか順調に事が進み、ついに勇者に致命傷を負わせることに成功した。



「悪かったな気付かなくて……隣人を不幸から救えなかったマヌケって点じゃ、シナリーを笑えないぜ」



 エンディックは己の無能さを嘆く。他所の他人を助けておきながら、そばに居た家族に気付かないとは。

 今は顔を隠していない少年は、現状況を推察する。



(この魔物はニアダ達が運び込んだのか? つまり魔物を暴れさせず、自分達でコントロールしてるってのかよ!


 それにリモネとキリー。リモネが顔に付けた物は、明らかに機力的な道具……まさかあれで操ってるっていうのか? 明らかに普通じゃない。


 とにかくこの至近距離で魔物に睨まれるのは、危険だ。すぐにあの魔物を殺さねーと)



 ギガースと呼ばれる魔物。

 巨大な箱型の鋼鉄の下半身に、前後に二本ずつの脚部が生え、地を強く踏みしめている。


 感覚器官となっている上半身は、腹から上が人間を入れた袋のような形状で、凹凸が無くのっぺりとした肌。


 首から上の頭が無く、体に斜めに空いた穴から青いカメラが覗いていた。武器は上半身から生えた、近接対人用ズキス・ガトリング。


 そして箱の前側の上半身横から伸びている砲筒、先程壁越しに撃たれた重光線砲である。今は冷却中となっている。


 装甲の色は橙色の迷彩のその異形が、ニアダ達の切り札だったに違いない。



(ただの戦士じゃ魔物に勝てねー。化物の飛び道具が人を寄せ付けないからだ。

 だが今、俺は近い距離に居る……。あとはどうやって攻撃を当てる安全を作るかだが)



 エンディックはおもむろに落ちている剣を拾う。

 それはニアダの手から抜け落ちた大剣。かなりの高温だったが、すぐに機力を流し、炎属性の魔力に変換し、冷ます。



「だけどなぁ、もうお前らはそんなことする必要ないんだよ……」

 エンディックは緑昇を庇うように、剣を構える。


 その顔は闘志というより、悲しみに染まった暗い顔だ。


「俺は事情を知った。なら俺が救う……! 俺がお前達を守ってやるから……こんなことは止めてくれ!」



 少年の訴えに、対する少年は殺意を宿した睨みと叫びで応じる。

「嘘だ! 僕は何も悪いことをしてないのに不幸になった! なら皆と同じように、悪いことして生きていくしかないじゃないか!


 僕らを守る……? そんなの信じられない! そこのニアダさんと同じだよ……。

 悪くならなくて良いなら、勇者が助けに来るなら、ニアダさんのお母さんも、僕らの一家も、この世に不幸は存在しないってことじゃないの?


 そんなのないよね? だったら僕も……僕も!」



「リモネ……あんたはどうなんだ? その魔物で勇者を殺した後、今度は俺達を消すか? そしてアンタと何の関係もない、アリギエの人々を殺してみるか? その中には、アンタよりも不幸な奴だっているかもしれねぇ……。そいつも殺すか?



 良い人間と悪い人間を! いちいち仕分けして正確に殺せるもんなら、やってみろ!」



 それは緑昇も言えることだ。

 緑昇の殺した中には、不幸な者も居るかもしれない。


 仕方なく犯罪に手を染めた、目の前の彼らのような者も居るかもしれない。

 それらを人の物差しで、その手に持つ大き過ぎる暴力で、殺し分けられるのか?



「そうだよ……俺達は善悪を判断出来る。相手に情けをかけられる。同じ光に焦がれてる……なら、こうやって殺し合う必要なんかなかっただろ!」



 エンディックが今選ぶべきこと。

 それは緑昇を助けることだ。あの魔物がマモンの差し金ならば、それを破壊することで、敵の目論見を潰すことになる。



「それはアンタらに過ぎた玩具だ。その魔物を手放さないっていうなら、その勇者を……人を殺したいって言うなら、俺が取り上げる!」



 相手の戦意に対しリモネは、目元の操作機から魔物に指令。

 ギガースの主武装のギガビーム砲は冷却中のため、腹部のガトリングを相手に向けさせた。



「あたし聞いてるのよ……あたし達のお父さんを『殺した黄金騎士は、貴方だ』って」


「そうだ。あのときは俺の力不足のせいで、襲ってきた敵を殺すしかなかった。

 だがアンタの後ろにいる悪魔も、俺の母親の仇だ。

 俺もシナリーの友達だったリモネを、殺したくない」



 少年と睨み合うリモネは、目元の操作機から魔物に指令。

 ギガースの主武装のギガビーム砲は冷却中のため、腹部のガトリングを相手に向けさせた。



「エンディック、貴方あの乗り物に乗ってなければ、ただの人間でしょ? この距離で私の魔物に勝てると思ってるの?」



「……う、それもニアダやコルレ経由で聞いたってか?

『やってみなきゃ解らない』ってヤツだぜ。物語みたいにそっちの飛び道具がなぜか当たらない……なんてことが有るかもよ?」



 エンディックは強がるも、剣を下げた。

 そして左へ歩き、緑昇への射線を譲る。


「確かに今の俺が魔物に勝てる見込みはねぇ……。無駄死にはごめんだぜ」


 そう言った少年は歩き続け、魔物の開けた穴の端より先に行き、リモネ達から見えなくなる。

 彼女は怪訝に思いつつも、改めて緑昇にトドメを刺さんと、魔物の武器を構えさせた。



「さっきの話だけどよぉ、さっきアンタが『やって見せて』くれたから、『解る』んだぜ……」



 エンディックが呟く先は、壁。

 その壁に左手を押し付ける。向こうにはギガースが居るのだ。

「魔言『HEAT』」



 先程剣から奪って溜めた熱を、炎属性の魔力を壁に記す。

 出来た赤い魔力円に右手の大剣を、力任せに突き込んで離した。



「村でのマモン戦と同じだ。目の前で人質を取られるってことは、敵にとって狙う方向が、勝手に二つに増えることになる。


 なら狙われてない、味方が狙われてる俺が!一方的に攻められるってことで良いんだよなぁ!」



 熱の技術により壁が溶け、魔力円を通過した剣は加速して撃ち出され、ギガースへ迫る。


 魔物は緑昇へ向けた銃を動かすも間に合わず、その上半身に高熱の剣が焼き刺さった。



 魔力の高熱を纏った剣は溶けかけ、だがその質量をもって魔物の内部機関を押し潰し、内側から発する熱で残りの精密機械も溶かし壊した。



「言ったぜ? 『壁越しの攻撃は有効かどうか、やってみなきゃ解らない』ってな……。


 それを証明したのがアンタだ。それに緑昇と違う方向から攻めれば、迎え討つのが遅れると賭けたぜ。


 名付けて……『巨人の熱剣ジャイアントヒートソード』ってな」



 エンディックにとっても、確実性の無い賭けだった。

 彼が移動中、緑昇がすぐに殺されるかもしれないし、飛ばした剣越しに銃弾が飛んでくる可能性も有った。



 だがそれでも、いつも通りに、真正面から戦うよりは勝率が高いと選び、行動したのだ。



「……そ、そんな! 嘘でしょ?」

 リモネはバイザー型操作機を動かすが、魔物は機能停止状態。


 トロールやギガースの上半身には脳機能が有り、ここのCPUが破壊されては、下半身が無事でも動けないのだ。



「こんなの嫌だよお姉ちゃん! これじゃ勇者殺せないじゃん……悪者になれないじゃないかぁ!」



 キリーとリモネは敗北の衝撃で倒れ込み、動かぬ魔物を見ていた。

「リモネ……アンタの舞台は終わりだ。魔物さえ無けりゃ、マモンに利用されなけりゃ、アンタは普通の人間だ。


 誰かを傷付けたり、傷付けられたりする人生とはオサラバすれば良いんだよ!


 アンタだって! 不幸じゃなけりゃ、こんなことに関わりたいなんて思わなかったはずだ!」



 エンディックは落ちていた槍を拾い、リモネに強く言う。

 村でのマモンの発言を聞いた少年にとって、彼女はシナリーと同じに見えた。



 周りに運命を決められ、負の感情で絡まってるその様子は、同情に値する。だから手を伸ばすのだ。


「アンタが今を不幸だと思ってるなら、明日は幸福にならなきゃダメだ。

 そうオヤジは言って見せたんだ。だから……それを嘘にしないために、俺にアンタ達を『助けさせて』くれ!」



 リモネは近付いてきた男を見上げる。

 目の前に出されたのは、鋼鉄に包まれた手のひら。


 そして少年は言った。自分を助けたい……と。

「騙されちゃダメだよお姉ちゃん!」



 キリーはエンディックに駆け寄り、姉と彼を引き離そうとする。

「今頃助けるなんて言ったって遅いんだよ! 何で僕らが苦しんでるときに来なかったんだよ? 僕らはこの憎しみを! 世の中が正しいって嘘を吐く奴らにぶつけてやるんだ!」



「じゃあ『今まで助けが来なかったから、自分を諦める』なんて、本当に出来るのかよ! 人間は身勝手な生物なんだ……。

 己が助かる為なら、何だってする。


 だから俺を頼れ! お前らは『俺と』出逢った! だから俺が助けてやる! 言っただろキリー……お前はもう、お前を諦めなくて……良いんだよ」



 黄金騎士は神でない。

 見えない範囲や、預かり知らぬ遠くの危機に駆けつけられるわけがない。



 だからこそ目の前の二人の不幸を、見捨てることはしない。


(そうだ……俺が黄金騎士になる理由は、シナリーのことだけじゃない。

 親父の言葉だ。アイツを嘘吐きにしない為に、俺は戦ってるんだ!)



「もう嫌……なの」

 寄りかかる物を求めるように、その手が伸ばされた。


「もう傷付けられたくない……もう悩みたくない……あたしは、もう人生疲れたよ」



 うなだれた顔は見えないが、声は泣いている。

 エンディックはリモネの手を取り、立ち上がらせた。


「リモネ……アンタに必要なのは、信頼出来る相手が側に居ることだったんだ。


 リモネにはシナリーっていう友達が居るじゃないか……だから頼れば良かったんだ。ただそれだけだったんだ」




△△△




(オープンカフェ『イカリャック』近くのお食事通り)



 騎士の格好をした男が、息も絶え絶えに走っていた。

 彼はジョイチ。シナリーに昏倒され、気が付いたら魔物が殺されており、不利を悟り、静かに路地から退散したのである。



 ジョイチは持ち前の俊足を活かし、ライピッツ会場近くから遠くの商店街まで、一気に逃げ切った。



「ちくしょー、見てろ……仲間の仇はうおっ!」

 足元を何かが横切り、驚いて転んでしまった。


 大きさ的に子供だろうか? 夜の暗さで接近に気付かず、蹴り飛ばすところだった。

「糞、どこのガキだ!」


 倒れたまま急いでその姿を追うと、相手もジョイチを見ていた。



 体に斜めに開いた穴なら、青い光で見返す、手足の付いた鋼鉄の箱。

 ゴブリンと呼ばれる魔物は、頭部散弾砲を使用した。


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