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プロローグ③

【ガンティア山・ゴール家前】



 引き合わされた二人の子供は、少しずつ仲良くなっていった。同年代の友人がいなかったエンディックにとって、良い刺激になったのだ。

 

「エンディックん、配役はこうです。貴方がお母さん役で、私が奥さん役です。痴情のもつれから、他の男に取られそうになった妻を、貴方が取り返す場面を」

「お姉ちゃんの言ってることは、難しくて解んないよ……」


 エンディック少年とシナリーという少女は、すぐ仲良くなった。

 今も行動力の有る女の子が、気の弱い男の子を遊びに誘っている。


「シナリーお姉ちゃん何だか変だよ? どうして女の人同士の家族になってるのさ?」

「ううん、変じゃないです。愛の形には色々有るって、最近知ったの」

 勇者の役目からの解放を、ゴール一家に依頼をしたシナリー。


 その後、彼女は度々家に訪れては、男の子の遊び相手になっていた。シナリーはこの家に来てから少し明るくなり、持ち前の活発さを発揮して、エンディックを外に連れ出すようになったのだ。


 エンディックも塞ぎこんでいた心を開き始め、彼女の後を付いて回っていた。


 その子供達の遊ぶ姿を、家の窓から見ている男性が居た。


 彼はギデオーズ=ゴール。

 機力世界からの異邦人で、エルヴの女性と夫婦になり、エンディックの父親となった人物である。


「良かった……エンディックに友達が出来て。シナリーちゃんも良い子のようだね」

「け、下界の学校なんかに行かせなけりゃ良かったんだ……。このまま山で暮らしていりゃ良いじゃねぇか」

 ギデオーズと会話していたのは、妻の冴虚。


 人間より上位に存在するとされる亜人種族で、切れ長の耳と美しい金色の髪が特徴的で、ぶっきらぼうな話し方をする。


「恐らく……それもハウピース少佐の差金なんだろうね。この前村に降りたときの、あの村人達の態度……僕ら一家を目の敵にしているようだった。

 やはりシナリーちゃんが言うように、彼は変わってしまったのか……!」

「それなんだけどよ、あんた……悪魔憑きって知ってるか?」

 ギデオーズは知識として、勇者鎧に備わっている電子生命体のことは知っていた。

 シュディアーの言葉では、『悪魔デーモン』と呼ぶことも。

 だがこれもまた魔物の名前などと同じく、表現の仕方でしかない筈だ。


「それは本当に、悪魔なんだと思うぜ……。あんたの話し聞くとさ、それって王家で封印されてたんだろ? つまり……封印される理由が有る『良くない』物だったんじゃねぇか?


 あの娘の父親も村の人間達も、鎧に『取り憑いて』る悪魔に囁かれたんじゃねぇかなって」


「何だと? そんな何らかのデメリット付きの装備を、マシニクルが採用したっていうのかい? いや冴虚、どうして君にそんなことが解る?」


 ギデオーズの質問に、冴虚はバツの悪そうな顔をする。

「いや実は……故郷の、文献で見たこと有るんだ。エルヴの、な。うろ覚えなんだが、悪魔って存在とエルヴ族に、結構昔に関わりが有ったみたいでよぉ」


 それからギデオーズの妻は、驚くべき推論を出してきた。


 そもそも勇者鎧とは?

 王家に代々引き継がれてきた古代の秘宝であり、封じられた武具。スレイプーン王は国家の危機が迫りしときのみ、この封を開けることが許されると聞く。


 鎧には強力な魔力装置や、なぜか機力によって動く装備が備わっており、今の鎧はマシニクルの技術で改修し、近代兵器化した物である。


 シュディアーの龍と呼ばれる巨大物体は、人間とは比べ物にならない規模の魔力攻撃や防御能力が有るので、対抗するには機力と魔力双方の力を持った勇者鎧が良いとされた。


 二つの異なる動力制御は当然難しいので、これを鎧に内蔵されていた悪魔、電子生命体の補助によってコントロールしている。

 この助力により、空間内に保存された兵器の呼び出しや、技術銀行に保存された以上の力を発揮出来るのだ。


 さて魔力世界における、このオーバーテクノロジーの塊。

 元はどのようにして、『何者が』作ったのか?


「勇者鎧には機力も必要なんだろ? 魔力世界で機力が扱える連中ったらよぉ、俺達エルヴじゃん……。だから勇者鎧は、錬金術で生成されたんじゃねーかなって。


 俺が見た文献に、そう読み取れる内容が有ったんだよ」

「な、なら冴虚。あの悪魔という知性体も、君達が人工的に作ったのか? エルヴの技術は、人工知能を作れるほど……なのか」


 亜人種族はシュディアーの人間を超えた知性と肉体を持つらしいが、それが機力世界の科学技術に匹敵するとは、ギデオーズには考えられなかった。


 もしそれだけの力を有しているのなら、なぜ亜人は国と国との間である、国境地帯を領地にしているのか。

 むしろこの世界の代表は、彼らかもしれないのに。



「いや違うぜ。エルヴが作ったのは確かに鎧の方だ。でもよぉ、その用途は? 俺はそれこそが悪魔を封印する為なんだと思うぜ。


 もしかしたらよぉ、王家に封印したのはエルヴで、封印されてたのは勇者鎧ってヤツの方じゃなくて、悪魔の方なんじゃねぇのかな?」


「封じる技術を持つエルヴと、封じられる可能性の有る悪魔か……。そうなるとスレイプーン王が我々を処分しようとしたのは、帰れなくなった勇者の力が、自分達に向けられると恐れたのではなく…悪魔憑きが原因?」


 それほどの驚異とされる、悪魔とは何なのか?

 あれは人工的に作られた知性なのか? 高度に組まれたプログラム通りに動く映像なのか?


「悪魔は人の姿を映像として形取っているが……もしかしたら、本当に人間なのか……?」

 ギデオーズは頭に浮かんだ可能性を口にするが、そこには疑問も付随する。


 ならなぜ鎧に入って封印されていたのか? まるで囚人ではないか。

 そもそもなぜ悪魔……と呼ばれているんだ? 呼ばれる理由が有る筈。


 機力世界における悪魔とは、実際に存在しない空想の物。 頭の中だけの架空の化物。実態が無い。二次元的な想像。


 そしてこの魔力世界における悪魔とは、鎧の中から映し出される映像だけの人間。

 人に似た、人ではない種族。


 この異世界で、それを何と呼んでいただろうか?


「まさか電子生命体とは、悪魔と呼称されている……あ」

「村のことといい、あの娘の頼みといい、あんたの戦友とやら……と戦うことになるよな」



 ギデオーズは長考を止め、妻の言葉に答える。

「その悪魔が黒幕だとして、家に忍び込んで、勇者召喚前に装置を破壊する……そう都合良く行かないだろうね。きっと僕らは勇者と対決することになる。


 病に構わずベネト少佐が着てくるか、悪魔マモンに操られたシナリーちゃんとね」


 シナリーは望まぬとも、戦いに駆り出されるであろう。

 今まで反抗した人々を、金に変えてきたように。


 自分達は負けるわけにはいかない。これ以上あの幼い少女の手を、汚させぬように。

 もし己の意思でなくとも、親しい夫婦すら手に掛けてしまえば、彼女の心は今度こそ壊れてしまう。



「俺は怖くねーぜ。同じ親として、子供を正しく育てる責任を果たせねーような奴なんざ、頼まれなくてもブン殴ってやるぜ!


 それにこちとら錬金術の匠が二人も居るんだ。俺達エルヴが作ったかもしれねーなら、勇者とやらをガラクタにしてやるぐらい無理じゃねーってもんだ!


 太古の錬金術の勇者対、現代のエルヴの錬金術ってな。やるぜあんた。あの娘を傷付けず、悪魔だけを確実にブッ殺せる作品を作ってやるぜ!」


「あぁ、冴虚。僕らで作ろう。あの勇者の少女を救えるような、僕らの鎧を。

勇者を倒せるような、勇者殺しの装備を。そして、なろう。

 シナリーちゃん(勇者)にとっての勇者ヒーロー

にね」


 今後、夫婦は息子が人質や戦いに巻き込まれないよう、知人に預けることにした。

 知人はライデッカーという、今は聖職者をしている男。


 ギデオーズが王都で錬金術師達と交流していた頃、同じく錬金術に興味を示す変わり者が居たのだ。


 彼は新しい知識や文化を好み、異世界の話など最高の知識欲を求めるものだったのだろう。

 ギデオーズ達の王都脱出の手助けをした疑いが掛かり、エリートから外れてしまったとか。ライデッカーのような男なら、安心して預けることが出来る。

 息子には嘘を吐いた。事を終えて、今度はシナリーを連れて帰ったときに謝ろう。


 夫婦はそう考えていた。

 なぜなら彼らは、勇者に『勝つ』つもりだったのだから。勝てる確信が有ったのだから。

 完成した『ヴァユンⅩⅡ』は、勇者殺しの錬金術の傑作。


 いやエルヴによって作られたのなら、それは八番目の『勇者鎧』と言っても良いだろう。


 だが勇者vs勇者殺しの勇者の戦いは、起こらなかった。


 なぜ? 狡猾な悪魔は、冴虚以上に知っていた。

 エルヴの錬金術の強さを。勇者鎧のことを。夫婦が強敵であることを。


 だからマモンは安全と、己のかねてからの望みを両方達成することにした。


 マモンの選んだ策略は、『戦わない』ことだったのだ。

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