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第三幸その2「偽物の主人公と、本物の脇役」

 エンディックは目覚めると、すぐに異変に気付いた。


 彼の所持品の中で、最も価値の有る、『偽物の富』とヴァユンⅢの籠手。それを入れた袋が周りに無いのだ。彼は盗まれぬよう、袋の紐を手首に巻き付けているというのに。


「……ど、どこにいった! 俺の、俺のアレは……!」

「何かお探しですの?」



 ベッド横の椅子に座った人物から、声。エンディックが目を向けると、そこには派手な桃色のドレスを着た、緑髪の貴婦人の姿が。

 女は確かモレクとかいう、緑昇と一緒に居た悪魔だ。



 モレクは口を大きく開けると、大量の唾液が溢れ出す。それと共に転がり出る、彼の両籠手。

 無論、粘液まみれである。



「何食っとんだお前ぇぇぇええっ!」


「しばらく離れていた女が別の男のモノを頬張り粘性高い謎の白い液体を吐いている所を見せつけられる……これがNTRか!」



「エンディックん……そんな! 私という巨乳美少女が有りながら! 信じてたのに……」


 緑昇とシナリーが少年の悲鳴を聞き、部屋に来た第一声がこれである。


「エンディック……エンディック=ゴール、君達のことは装備も含め、調べさせて貰った」



「な……! 俺の本名をどこで……」

 エンディックはベッドの上で驚きながら、気付いたようにシナリーを見る。



 彼の幼馴染は眉尻を下げながら、申し訳なさそうに答えた。


「すみません、エンディックんが寝てる間に、この緑昇さんとお話したんです。私達の故郷のこと。それに黄金騎士、いえ、マモンのことも……」



「だがな、彼女は過去は知っていても、『現在』を知らなかった。それを君の口から聞く必要が有り、ここに見舞ったわけだ。黄金騎士……よ」



 緑昇の問いにすぐに答えられないエンディック。黄金騎士としての『顔』を、シナリーには知られたくないからだ。


「俺の正体を知ってるってことは……あの村の緑の勇者はやはりアンタか? 声といい雰囲気といい、そうじゃねーかとな」


「こちらも驚いた。まさか魔物に対抗可能な武装が、勇者鎧以外に有るとは……。さらに噂される黄金騎士の仮面の下に、子供が隠れていたことにもな」



「村であれだけ派手に暴れられては、ワタクシ達としても見過ごせませんわよ?」


 エンディックの横に座っていたモレクはそう言いながら、フッと息を吹きかける。

 すると彼が大事に抱えていた籠手から、湿りや付着していた粘液が消えた。



「探していた強欲の勇者が、この娘の父親だったと聞きましたわ。さらに貴方様が……『亜人との混血』だということもね」



「ち……そうだよ。俺とシナリーの父親達も……テメーらと同じ、異世界って所の人間だ」


 ライデッカーから、父親達は異世界の軍人で、戦友同士なのだと聞かされていた。エンディックの父は側近の部下だったとか。



 しかし最終的に、この二人は対立してしまうわけだが……。


 緑昇は答える少年を見る。耳も長くないし、角も生えてない彼は、普通の人間に思える。



「エルヴとマシニクル人のハーフとはな……。亜人エルヴは、ここシュディアーにおける機力の担い手だ。


 人に錬金術を伝えたのも、彼らと言われている。そんな二つの世界の機力の申し子……内包する機力的素養は計りしれんな。そんな天才の発明が、その籠手か?」



「いや……これは俺の両親の作品なんだ。ライデッカーがシナリーを連れてきた日に、この籠手を持ってきてくれて……」


 偽者の富とヴァユンⅢ。この二つを手にしたとき。友を刺し、その背に呪いを刻んだあの日から、エンディックの人生は決まった。



 仇を討つ為に、親友の悲しみの原因を失くす為に。そして養父の『言葉』を守るべく、彼は今も黄金を被っているのだ。


「おい……アンタは人のこと詳しいみたいだが、俺はアンタが勇者だってことしか知らない。緑昇、そっちこそ何が目的だよ?」



 エンディックは自己への追及を逃れる為、矛先を相手に変える。

 緑昇もそれに応答しながら、近くの壁にもたれかかった。



「……まあ、良かろう。俺達は現国王から依頼を受け、このクスター地方に来ている。


 ずっと所在知れずだった『強欲の勇者鎧』の、所在の把握及び回収だ。それが君が敵視している、マモン=グリーズという勇者だ。君はその『勇者』という言葉について、どこまで知っている?」



「確かアンタらは異世界ってとこから来たんだろ? 五年の周期に現れる『龍』っていうのを倒し、人々を救ったってな。本にもなってるぜ」



「君の言う通り、俺達は機力世界マシニクルから『結界門カーテンゲート』を通り、この世界に来た。


 俺達の世界には異世界と通じる古代遺跡が有り、この世界にも『なぜか』存在していてな。その転移装置ワープリングのような物を介し、シュディアーに来た第一次勇者部隊が龍を退けたのだ。


 君達の両親はその後、クスター地方のある田舎に住み着いたようだが……」


 緑昇の言葉の後、モレクが主の言葉に続いた。

「その娘からの話によりますと、勇者はその村の女と結ばれ、錬金術に惹かれていた部下の男は、山で出会った亜人を妻としたそうですわ。


 この二つの家族はしばらく平和に暮らしていましたが、勇者の男が病に伏せるようになると心身不安定になり、娘を『調整』し、強欲の鎧を継承させました。


 そのシナリーという娘が……貴方様の母親を殺した。これに間違いは?」



 エンディックは覚えている。母親に親友が懐いていたのを。それに父親や悪魔に逆らうには彼女は幼かったし、殺害する動機もない。


 それでもシナリーは、未だ自責の念を抱え続けているわけだが。


「有るぜ……大きなデマカセがな。母さ、俺の母親をシナリーに『殺させた』のは、マモンだ。あの悪魔がコイツを操ったに決まってる!」



「いいえ! 冴虚さんを殺したのは私です! だから私を……」


 少年の擁護の声に、反論するのは被害者。二人は互いの主張を認めんと睨み合う。


 まただ。友はまだ過去に囚われ、自分の殺意に懇願していた。

 彼女の望みは知っている。冴虚を殺した憎き己に復讐するのは、その息子で有るべきという拘り。これは彼女の、彼女自身への復讐なのだ。



 強制された、勇者という運命への怨みなのだ。

「シナリーは、何も悪くねぇだろ……。テメーがあの家に来たのは、助けて欲しかったからだろ? 


 勇者になるのが嫌で、悪い行いを拒みたかったから、俺の両親に会いに行ったんだ。父さん達は何でテメーを助けようとしたんだ? 何で俺達は友達になれたんだ? それは、シナリーが『イイ奴』だからだ……」


 エンディックにとって親友の願いなど、どうでも良いことなのである。

 彼にはそれよりも最優先にすべき、『教え』が有るのだから。



「シナリーは『これから』なんだ。もしさらに不幸になる未来しかないなら、オヤジが嘘つきだったってことになっちまう……。


 シナリーの未来と、オヤジの言葉を守る……それが俺の命の使い道だ!」


 拳を握りしめ語るエンディックに、緑昇は頭を振った。

「察するに君は、母と友の無念を晴らす為、両親の残した黄金の仮面を被り、悪魔となった勇者を追ってきたと。


 魔物と戦ったのも、本命前の訓練相手というわけか……。黄金騎士よ、勇者以外に打倒可能だと……盲信していると?」


「あ、ああ! この籠手は勇者を殺す為に錬金された傑作。どんな攻撃も避け、どれだけ硬い鎧だろうと、関係なくブチ殺せる、錬金術師の戦闘装備、その完成形だぜ。


 俺はこれで魔物を何匹も殺してきたんだ。あの金ぴか野郎も」



「現状では難しいだろうな」

 自信と決意を昂らせ、一人盛り上がる少年に、男は冷ややかに言い放った。



 大食の勇者は相手が言い返す間もなく、言葉を続ける。

「君の父も相当腕の立つ錬金術師だったと聞いた。記録によれば父親は、この世界の機力運用法に興味を持ち、今は無き王都錬金術師団と交流していたとある。


 その後、エルヴの女を師とし、二人で創り上げたのであろう。俺も錬金術について詳しくない。

 スレイプーン王が錬金術師団を厳しく罰して以来、錬金術は衰退した……その知識は各所に散らばった、生き残りの物だけになったと記録されているしな。


 しかし機力兵器の観点から言って、君の武装は『重大な欠陥』を有しているように見える」



「……欠陥? そ、そんなもん有るわけ」

「でも……ワタクシ達が見た限り、黄金騎士は戦闘の度に様子がおかしかったようですけど?」



 モレクの指摘に、冷汗を垂らすエンディック。彼には自覚が有った。

 籠手の使用中に生じる、吐き気や頭痛。それによる機力の操作ミスや動作不良で、危機的状況になることもしばしば有った。



「黄金騎士が今まで多くの犯罪者を捕え、魔物も倒してきたのは噂で聞いている。君の自慢の品は、対魔物及び勇者戦を想定しているのだろう? 

 だが君が燃料切れで眠っている間に、体と籠手のデータを連れに取らせている」



「確かに坊やご自慢の通り、この籠手の技術は称賛に値する物ですわ。あらかじめ錬金術で武器を用意するのではなく、騎乗して走りながら、その場で錬金する設計思想。


 高速移動しながら安全に機力を練り、敵対者の装備に錬金術を施し、無力化する……。


 脅威なのは、この戦法が勇者鎧にも通用することですの。もしあの槍を、ワタクシの召喚装置で受けたら、どんな動作不良が起こされるか……。信じられませんが、本当に勇者に対抗する性能を秘めていますわ」



 少年は女悪魔の言葉を聞いて、鼻が高かった。親を亡くした彼にとって、その形見は拠り所であり誇りだったからだ。


 今までエンディックは、偽者の富とヴァユンⅢに何度も助けられてきた。まるで傍に居ることが出来ない両親の、両手の代わりのように。


 そして両親を愛しているからこそ、創られた作品には絶対の信頼を寄せているのである。



「でも坊や。わざわざ周りの材料を無理やり金に変え、それを連れ回して動いてるだけでも膨大な機力が必要でしてよ? さらにその状態を維持して戦闘行為をする。


 望むがままの速度で動き、限界を度外視した機力を消費……。

 この装備は勇者鎧並みの機力を要求しながら、それを『悪魔の助力無しで』制御させる……という不安定な実験機ですわ」



「やっぱり……エンディックんのアレは『完成してない作品』だったんですね……」


 悪魔の話に首を傾げていたエンディックだが、幼馴染の少女は納得したようだった。

 少年は焦り、シナリーに問う。


「え……完成してないって……どういうことだよ?」

「私もギデオーズさん達の作品は色々見てますが、その籠手のような技術は、見覚えがないんです。


 それにヴァユンⅢという型番から推察するに、創られた中でも古い方の作品なんだと思います。


 その両籠手は『悪魔の居ない劣化版の勇者鎧』を創ろうとして、実現しなかった未完成品なんだと思います」



「エンディックよ……勇者鎧というのは機力と魔力、異なる二つの動力が必要だ……。


 その複雑な力の制御は、人一人の脳の処理能力を超えている。ゆえに俺達は複合動力の補助制御装置として、この世界の言葉で『悪魔』と呼ばれている……電子生命体の助力を得ているのだ」



 緑昇はそう言って、右手の手甲を見せる。それは深緑色の下地に金十字の装飾が付き、四つのピンクの宝石がそれぞれ十字の先に飾られた物だった。



 少年はこのデザインに見覚えが有る。あの黄金の勇者の王冠にも、金十時に桃色の宝石が付いていたからだ。



「例え錬金術が……勇者や魔物に通用する力を発揮しても、それを制御する機能が欠けている。


 仇を取る前に自滅する武器を、何度も実戦投入してきたようだな? よく今まで……生きてこれたものだ」



 黄金騎士はこれにも図星であった。実際彼は籠手に機力を注ぎ込むだけで、全く性能を制御出来ていなかったのである。



 錬金円内での素材への機力循環、材質変更、形態維持、走行運動、瞬間的な機力注入。全てあらかじめ籠手の機能の範疇であり、それを少年の莫大な機力によって押さえ付けているだけだったのだ。



「俺は……評価しているのだ黄金騎士。君は金の装備を身に付けて、義賊的活動をしてきたそうではないか? 善良な人々を守り、犯罪者を捕縛ないし『殺害』してきたその所業。


 真意は問わんが、行いは事実だ。俺はエンディック=ゴールような若者が現れた事象を、嬉しく思う」

「な、急に褒めるなよ……」

「だからこそ、もう勇者や魔物と戦おうとするな」



 緑の勇者は少年の行動を肯定し、目的を不定した。そのどちらも同じ声音である。


「強欲の勇者は、俺の大食よりも『鎧の格』は上なのだ。俺でも苦戦する敵に、悪魔憑きでもなく、敵う道理無し……。安心しろ、復讐は俺が代行してやる」



「お……俺は……もう」

「魔物にしてもだ。今までは運が良かっただけだ。もし君の技が通用しない魔物だったらどうする? 


 ワイバーンのような、空飛ぶ魔物と正面から勝てるのか? この孤児院の者達は家族なのだろう? 魔物を倒すことで救える他人の命は、家族達が君を失った際に背負う、悲しみよりも尊いと? 家族の為にも、諦めてやれ」



「……もう、無理だ」

 緑昇の一連の言葉。復讐を『諦めてくれ』という願い。

エンディックは聞いたことがあった。


 あれは少年が旅立つ日の前日。

今まで育ててきた息子に敗れた男は、こう懇願してきたのだ。


「のう……やはり諦めてくれんか? あの子の心も……ワシらが治していけば良いではないか? これからも家族皆で、ここで生きていこう……。だから頼む……死にに行くような、危ない真似はせんでくれ……!」


 あのとき……自分はなんと言っただろうか?


「俺はもう選んだんだ。復讐するって……。あのハゲを拒絶したくせに、『何も成せなかった』自分なんて……許せるわけないだろう! あの悪魔は……俺が殺す!」



 エンディックの叫びには焦りが有った。そして瞳には意地が宿っていた。それは戦いで死ぬことよりも、己の選択を無意味とさせない、もう後がない者の目である。



「だがなエンディックよ、やはり俺達にとっては……邪魔なのだ。それに君が何を語ろうと俺は善良な者を救いたい。


 ゆえに……俺に実力を示せ。大食に勝てないようでは、強欲に勝てる道理はないからな」



 緑昇はエンディックを真っ直ぐに見つめる。明らかに挑戦的な眼差しで。

 黄金騎士も起き上がって睨み返そうとするが、まだ体が思うよう動かなかった。

「ち……テメェ!」



「今すぐではない。明日の朝、ヴィエル農園行きの街道を外れた……スキエル平原で待つ。それまでに休養するなり、逃げ隠れるなり……好きにしろ」





(孤児院の外)




「合わせてくれて、ありがとうございました緑昇さん」

シナリーは幼馴染に聞かれたくなかったので部屋を後にし、緑昇と孤児院の裏手に来ていた。



 礼を言われた緑昇は、それには及ばないと頭を振る。

「情報を得る……代わりの約定だからな。俺が現れた以上、君はエンディックをこの事件から遠ざけたい……。


 俺も一度『黄金騎士という脅威』を圧し折っておき、かつ勇敢な若者を危険から守りたい……のだ」



 少女は事情を話す前に、緑の勇者とある取り決めをしていたのだ。

 大切な親友を守る為、復讐を諦めさせて欲しいと。彼を死なせないで欲しいと。



 その代償として、彼女の意思を捻じ曲げ、己の命を差し出すと。

「敵の目標は君だ。君を生かせば、マモンを誘き寄せられる。


 そして奴の目の前で、その目的を殺せば、戦いの駆け引きに使えるだろう……。任せろ、君の命は俺が活用してやる」



「はい。こうなっては私の体が悪用され、家族が巻き込まれる可能性が有りますから……」



 シナリーが介錯の承諾をすると、緑昇の隣に居たモレクが補足する。

「マモンの狙いは、恐らく乗り換えですわ。あの方は『欲』を餌とする性質上、渡り鳥のように宿主を変えたがりますの。


 ハウピースという軍人の次は、その娘。そして今は……」



「それならば俺も覚えているぞ……。悪魔は憑いた人間の特定の感情を糧とする……だったか。


 強欲の悪魔である奴が集めるは、人の物欲。俺達の食欲と違い、集め難い物だ。

 さらに強欲という性格上、悪魔が勇者に求める業も僅かではあるまい。

 奴が最近になって現れた理由も、肥料となっている人間の、精神や肉体が限界になったからかもしれんな」



 三者はある程度敵の正体に感づいていた。

 今の黄金の勇者を着ているのは、勇者鎧に合わせた肉体調整を受けた者ではない。一言も喋らないのは、完全に悪魔に支配されているのだろう。



 だからこそマモンは慎重に立ち回っていたし、緑昇を消耗させようとしたのだ。

「私の緊急時の処断、エンディックんの復讐、どちらも緑昇さんにお譲りします。でも……先に教えて欲しいことが有るんです」


 シナリーの友人は他にも居る。緑昇らはそれを知っている筈なのだ。

「……リモネは、今どこに居ますか?」

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