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滲むたこ焼き

作者: 沙華やや子
掲載日:2026/01/03

ランララ……どよ~ん……。

(今日はダーリンとお家デート。タコパするんだ~!)


 (べに)はダーリンがくる前に! といそいそと下ごしらえ。

(お粉と出汁に玉子を混ぜ、タコを切り、紅ショウガにおネギ。天かすに……とろけるチーズも入れちゃうぞ!)


 はりきっているが、今日の紅には気がかりが1つだけある。


 それは、いつもメインで使っている24個いっぺんに焼けるタコ焼き焼き機が壊れてしまっていて、穴が15個の機械を使うということ。


 別にそんなこと~、と笑われそうだが、紅はくいしんぼうなのだ。

 ダーリンがタコ焼きを竹串でダーリンの小皿に持って行く時、自分は残念がるんじゃないか、その気配をダーリンに感じ取られたら、卑しい紅ちゃんと想われそうで恥ずかしい……と、緊張しているのだ。


 ポニーテールにピンクのフリルのエプロン。紅は今、明るく愛らしい恰好をしているが、ハートの中はタコが吐いたスミのように黒く曇りがち。


 ピンポーン♪


「あ! 庸介(ようすけ)っ」お仕事を終えたダーリンがやって来た。


「ただいま~、紅! ちゅ♡」


「うふふ」


 チューで表情華やぐ紅は、キッチンへダーリン庸介と手を繋いで行き、パッとスペアタコ焼き焼き機の15個の穴を見た。その瞬間顔色が変わった。


「どうしたの? 紅? タコ焼きの準備で疲れちゃったかな?」


「う、ううん。大丈夫、なんでもない!」


                 *


(さあ、タコパ……開始! 穴! 15個! 15個……!)

 泣きそうな紅。


 ここは東京だが、紅は大阪暮らしが長かった。タコ焼き奉行は紅だ。

 それはそれで、気が重い紅。


(あたしは、自分の小皿に容易にいい塩梅に焼けたタコ焼きを放り込める。タコ焼きの美味しさに夢中になった場合、ダーリンそっちのけで、タコ焼きを独り占めしかねないかな……心配)


「紅? なんだかさっきからおかしいよ。具合が悪いのならオレが焼くから任せておいて、ね!」


(それはそれでいや! いつもより穴の数が少ないと言えども……庸介があたしほど上手に、ぜんぶ焼けるかな?)

 疑り深い女だ。


 けれども、紅は、タコ焼き焼き機の穴の数がいつもより9個少ないことが原因で、マジで眩暈を起こしフラッとした。


「紅?! 紅っ、大丈夫!? とりあえず、タコ焼き焼き機の火を止めよう」


「う……うん」


 紅は庸介に介抱されつつベッドまで歩いて行った。


 シクシク……。なんと、紅が突っ伏し泣き始めた。


(タ……タコ焼き焼き機、15個の穴が嫌!)悲しみが止まらない。


「体が辛いの? 紅、かわいそうに。風邪でも引いちゃったのかな……どんな感じ? のどは痛くない?」


 ……。ハッとして、紅は庸介ダーリンに抱きついた!


「うわぁああああ――――んっ!」

 ギャン泣きだ。


 紅は……紅は気づいた。


(何にも恥ずかしくなんかない。庸介にタコ焼きを取られることを気にしてるって気づかれても、おなかの音やつばを飲み込む音を聞かれても。ダーリン庸介になら恥ずかしくないんだ!)と素直に感じられ、涙は安堵の涙となった。


 そうして紅は何もかもを打ち明けた。ダーリン庸介に。大爆笑されること覚悟で。自分の食い意地を恥じていたことを。


 庸介は一つも笑ったりしなかった。


「優しいんだね、紅。紅は細やかで素敵だよ」と言いつつ頭を撫でてくれた。


 もう、『穴15個』なんて怖くない!


 タコパ再開。


 でも、ジャンジャン紅が己の小皿に良いやつを持って行き、庸介はあんまり食べられなかった。


 箸と幸せをかみしめる庸介がそこには居た。



ウフフ♡

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