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空白のアデア―空を継ぐ者たち―  作者: 月夜 ダイヤ
3章 勇者の目覚め
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91.嘘か誠か

 リトが薬を調合する。青い束が解かれ、それはどんどんと液状のドロっとした物体に変化していく。それは薬だ。ティティールは先ほどよりも苦しげに呼吸をしていたが、なんとかそれを喉に流し込む。心なしか、少しだけ呼吸が良くなった気がした。リトが神妙な面持ちで、椅子から立ち上がる。


「これで、いいと思う。あとはこの薬を飲ませ続けるしかないね」


「治す薬じゃないんだよな?」


 ロロが心配そうにティティールに目をかけながら、尋ねた。口に出さないだけで、彼女を気遣っていることは分かる。リトはそれを肯定するかのように、ゆっくりと頷いた。


「そうだね。あくまでも進行を遅らせる薬さ。あとは、本人の体力で病気を打破できるのかっていうところ。とりあえず、部屋から出よう。うつることはないけど……」


 リトが部屋のドアノブを回すと、真正面の部屋を指さした。そこのドアは開いていて、中には大きなテーブルがあることから、居間だということが確認できる。部屋と居間の距離は大体数メートルだ。


 部屋からはバチバチと火の音がする。これは暖炉の音だ。そういえば、この辺りは少し寒い。


 アーチェは少し迷っていたが、リトの後を追った。ロロも同じだ。


「……」


 ソラはティティールの額を撫でた。熱が出ている。まだ下がる気配はなさそうだ。菌で病気に感染するなど、そんなに高い確率ではないだろう。実際に、病気になったのはティティールだけだ。


 このことを彼女の父親にも魔道具で連絡したいが、余計な心配をかけるだけになるだろう。ソラは、はやる気持ちを抑え、部屋の外に出た。何だか嫌な予感がしたのは、気のせいでないのかもしれない。



テーブルに並べられた料理の山を見て、ソラは胸焼けを抑えた。そこには、胃に優しくないものが沢山並べられている。ロロはそう思っていないようだが、アーチェもソラと同じくその量に辟易していた。それは到底四人分の食事の量ではなく、十人前と言っても差し支えない。


 床ではドラゴン用に用意された生肉を、ヘリオがガツガツと食べていた。


 リトはお盆にティティール用のお粥を用意していた。お盆の上から湯気が立っている。


「すげぇ、こんなに食べてもいいのか?」


 ロロが目を輝かせつつ、もう複数にカットされた焼肉に手を付けている。彼は本当に食べることが好きだと、改めて思わせられる。まぁ、あそこでは碌なものなど食べられなかったのだから、無理はない。

  

 リトはロロの行動を気にした様子もない。ニコニコと屈託のない笑みを浮かべている。


「もちろん! 人間がどれだけ食べる分からないから、少し量が多くなっちゃったけど」


「僕にはこの量はきついかな。美味しいけど。ロロ、沢山食べてよ」


「いいのか?!」


 アーチェがゆっくりとジャガイモの料理を口にする。彼は種族上、あまり食べる方ではない。ロロが差し出された肉料理を見て、目を輝かせた。ロロは肉が大好物なのだ。


 その様子はまるで兄弟のようだ。実際に、二人の年齢差は二歳だ。ロロはなぜか、自分と空の年齢について、嘘をついていたがロロの年齢は十四歳。ソラの一個下であり、アーチェの二個下だ。


 それにアーチェが鳥人と人間のハーフということを踏まえると、二人の年齢差はもっと広がる。鳥人はシルバーブラッドと同じであまり寿命が長くない。必然的に精神年齢は年の近い人間族よりも高くなる。


 ソラは口にしないのもあれなので、少しだけ匂いが強い魚料理をつまんだ。匂いで味を楽しむことにしよう。


 二人は食事に夢中になっているせいか、リトの発言の違和感には気付いていない。彼は人間の食べる量はと言った。一瞬、ロロが話しかけたあとのことだったので、人間族限定の話かと思ったが、リトの話し方からして、ソラたち全体を指していた。


 人間族以外のことも、人や人間と表することは有名だ。動物を固有の名で呼ばず、動物と呼ぶことと何ら変わらない。


 リトの言い方では、まるで自分自身は人間でないと言っているようだった。しかし、言葉のあやかもしれないし、決めつけるのは早計だ。それに、人を疑うのにもいい加減疲れたものがある。


 ソラはそれを口に出すことはなく、紅茶をすすった。ハーブの優しい匂いに癒される。セザールの入れた紅茶と比べて、きっとこれは美味しいに違いない。


「それにしても、少し寒くない?」


 アーチェが自身の両腕をクロスさせて、撫でた。確かに暖炉があるというのに、少し寒い。温かい紅茶を飲んだというのに、少しも体が温まらなかった。


 元々、寒気を感じていたというのもあって、気が付くのが遅れた。寒さに強いアーチェが寒がっているとは、深刻だ。


「そうか? 俺はあんまり、寒くないけど」


 寒さに強いロロは不思議そうに言った。彼の食べている皿には、もうほとんどの料理が残されていなかった。リトも食事を口にしてはいるが、あまり量は減っていない。少食というわけではなく、彼は最初からあまり料理に口を付けていなかった。


 ローブを被っているので、食べにくいのかもしれない。食事の時ぐらいは外してもいいかと思うが、やはり妙だ。ソラは立ち上がると、料理を一瞥した。


「ど、どうしたの?」


 リトが突然立ち上がった、ソラに対して驚いたリアクションを取った。アーチェも何かを感じたのか、スプーンとフォークを皿に置いた。


「これなんだけど」


 ソラが先の言葉を続けようとした瞬間、家が大きく揺れた。立ち上がることが難しく、ソラは壁に手を付いてその場をやり過ごす。アーチェは同じくそうした。ロロは机に捕まると、揺れが収まるのを待った。リトだけは、立ち上がると何も体勢を崩すことがない。


 屋根を見る。しばらくして、何かを屋根に投げつけられたのだということが分かった。そして上からの激しい熱気。


「火事!」


 アーチェが呟くのと同時に、ソラは一番近くにあったタンスを窓に投げ飛ばした。窓ガラスが飛散し、外からの風が中に入り込んでくる。

 窓ガラスには、人一人分が脱出できるスペースが確保される。


「ティティールが危ない」


 ソラは咄嗟に呟いた。

 

 部屋に駆け出そうとしたアーチェをロロが制止する。


「俺が行く」


 非力なアーチェでは、ティティールを抱えることは難しい。できたとしてもかなりの時間がかかる。刹那、彼の瞳に傷付いた色が浮かんだが、すぐにその感情を打ち消したのが見えた。


 ティティールのことは、ロロに任せよう。ソラは未だに呆然としながら、動かないリトの様子に目を向けた。彼は何が起きているのか分からないという表情だ。ソラは波動を感知しようと、周囲に集中をする。

 

 数え切れないほどの、人々がリトの家を囲んでいた。正確に言うのであれば、ソラたちをと言うべきなのかもしれない。その人数は街の殆どの人口ではないかと、思われる。


「リト、君……!」


 アーチェがリトに掴みかかった。医者として二人が意気投合していたのはソラも知っている。だからこそ、そんな反応になるのは仕方がないことだ。そんなことをしている場合ではないのだが。彼の手が少し震えていた。寒気がしているのだ。


 てっきり、眠らせる効果のあるものだと思ったが、そうでもないようで三人共普通に動けている。少しだけ、動作に違和感がある程度だ。


「こんなことになるなんて、思わなかった……。兄さんが情報を漏らしたのか……」


「何を言ってるんだ?」


 アーチェが乱暴に彼を揺さぶる。その時、彼のローブが地面にふわりと落ちた。その姿にアーチェは思わず、手を離した。


 彼の容姿はとても人間と呼べるものではなかったからだ。


 あえて、いうならば――。


「そう、俺はモンスターなんだよ」


 

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ここまで読んでくださってありがとうございます!

面白かったと思ってもらえたら、ブックマークやポイントを入れていただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!





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