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空白のアデア―空を継ぐ者たち―  作者: 月夜 ダイヤ
3章 勇者の目覚め
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85.秘められてる力と恋、忍び寄る影

「こら! 駄目だってば!」


 アーチェがフードをヘリオに取られ、取り戻そうとしている光景がソラの目に入る

 ヘリオはあれからまだ数日しか経っていないのに、もう飛べるようになり、最近は体がぐんぐんと大きくなってきた。


 初めは片手で持てるサイズだったのに、今では両手でなんとか抱きしめられる大きさだ。


「キューキュー」


 ヘリオは楽しそうに声を上げる。彼女にとって、それは遊びであり、怒られているとは思っていないのだろう。実際、返すことを要求しているアーチェも少し楽しそうだ。


「ちぇ、仲良くしやがって」


 それを遠目で見ていたロロが不満を述べる。

 ロロはあまり、ヘリオに懐かれていないらしく、今でも自由にさわらせてもらえない。ちなみに、ソラとティティールにはよく懐いている。


 卵時代のことを覚えているのかもしれないと、ソラは少しだけ思った。自分のことを卵料理にしようとしていた人間にはあまり近づきたくないだろう。


「キューキュ!」


 ヘリオがアーチェの頭に飛びついた。彼の飛び跳ねた髪の毛を引っ張ろうとする。あの癖っ毛はあの人譲りなのだろう。よく見れば、あの眉も目元もあの人そっくりではないか。今まで気が付かなかったことが、不思議なぐらいだ。


 アーチェの人柄や雰囲気がそのことを気付かせないのだ。同じ穏やかさでも、その本質は違う。彼の性格には裏表がない。きっと父親の血が強いのだ。彼の父親を見たことはないが、アーチェの性格に大きく起因してることは間違いない。


 知るきっかけがなければ、彼があの人の子どもだということに、たどり着くことは永遠になかった。実際に、ロロも気が付いていない。もちろん、ソラがそのことを教える気もない。

 ようやく、二人であそこから逃げ出したのだ。わざわざ、思い出させることもない。


 それに、ソラでさえそのことに思うところがあったのだから、ロロだってアーチェを見る目が変わるだろう。迂闊に口にすべきことではない。これは、墓場まで持っていくことにしよう。


「それにしても、二人が魔眼持ちだなんて。なんだか、こんな才能の塊が二人も近くにいるのは、色々と思うところがありますね」


 ティティールが、アーチェとヘリオのやり取りを楽しそうに眺めながら口にする。

 

「魔眼って確か、あれだろ? 魔法の才能の一つみたいな」


 ロロはうろ覚えでその言葉を口にした。魔眼。ソラは自分の目の色を見ることができないため、分からなかったが目が翡翠色に変化してるようだ。

そして、ロロは生まれ持ったオッドアイ。彼は王族だ。血筋に恵まれているため、驚かない。それ以前に、彼には戦いの才能がある。ソラよりもずっと――。


「そうなのですよ! 生まれ持っての魔眼持ちは、ダイヤの原石よりも貴重なのです! 数百年に一人しか生まれないのよ!」


 ティティールはまるで自分のことのように胸を張った。彼女の瞳に一瞬だけ映った感情を読み取り、ソラは心の中でため息をついた。


 ロロは人のそういった感情に疎いので、口にしなければ意識してもらうことはない。しかし、彼女の性格上、口にすることはないことは確定している。


 ロロにはできれば、幸せな人生を歩んでもらいたい。どうすれば、二人をくっつけられるだろう。そのことに、ソラは最近は頭を悩ませている。


「ふーん、俺は興味ないな。目立つのはごめんだ。ダイヤの原石よりも貴重な石ってなんだよ?」


「え? うーん、それは……」


「おい、アーチェ。まだ捕まらないのか」


 ティティールは顎に手を当てると、考え込んだ。すぐに答えが出ないようなので、ロロは立ち上がる。そうして、まだヘリオを捕まえられていないアーチェに声をかけた。


「ギュー!」


「うわ! いた!」


「ハハハ、ロロ嫌われてるじゃないか」


「う、うるさい! 俺は別にドラゴンに好かれなくたって生きていけるんだよ」

 

 自身に近づいたことを認識したヘリオが、威嚇する声を上げると、ロロを蹴り上げ続けている。その蹴りは赤子ながら、見事なものだ。アーチェは控えめに笑った。


「ティティール」


 ソラは二人のやり取りを、羨ましそうに見つめるティティールに声をかけた。彼女の深紅の瞳がこちらを捉えた。


「何ですの? ソラ」


「ロロのことが好きなんでしょ。手伝ってあげるよ」


「!! ちょ……な、何を言って! わ、私は別に……!」


 その動揺は絵に描いたような姿だ。汗を垂らし、明らかに口が回っていない。確信はしていたが、こう本人の口から聞くと、改めて認識させられる。どうして少し落ち込んでいる自分がいるのだろう。


「隠さなくてもいいよ。見たら分かるから」


「う、うぅ……」


「いいじゃない、ロロ。ぶっきらぼうだけど優しいしね。ティティールとお似合いだよ」


「そ、そう思います?!」


 ティティールが顔が触れるほどに、近づいてくる。そのことに少し引きつつも、ソラは頷いた。大丈夫、これは本心なはすだ。


「うん。私にできることがあったら、遠慮なく言って」


 ソラはぎごちなく笑顔を浮かべた。ティティールはいい子だ。申し分ないではないか。同じ王族であることから、身分も釣り合っている。

 

 彼女はその言葉にいつもの調子にならなかった。いつもなら、その場を飛び跳ねるはずだが――。

そのことに、少しだけ違和感を覚えていると、彼女は真面目な目をしてこちらを見通した。その瞳は真意を説いている目だ。


「……」


「どうしたの?」


 無言のティティールなど珍しい。ソラは何も考えずに、尋ねた。


「いや、ソラはそれでいいですの?」


「?」


 ティティールの言葉の意味が理解できずに、ソラは首を傾げた。どうしてそんなことを聞くのか。状況を理解していないソラに対して、ティティールは呆れたように目をグルっと回した。


「ロロの気持ちはどうなるのですか?」


「? ロロがティティールを好きになれば済む問題じゃないの?」


 ソラは答える。


「はぁー」


 彼女の突然のため息に、ソラはますますわけが分からなくなった。一体、彼女な何を気にしているのか。


「ソラって、相手のことに対しては気付くのに、自分のことに対してはとても鈍感なんですね」


「私は――」


「わ! ソラ、受け止めて!」


「キューー!」


 ソラが答えようとすると、ヘリオが鳴きながらこちらに飛んできた。その勢いにソラは地面に投げ出される。ヘリオはソラの腕の中で静止しており、嬉しそうに尾を振っていた。飛んでいる間にこちらに来てしまったようだ。


 駆け寄ってくるアーチェの手には、ボロボロになったフードが握られていた。生えかけの牙にボロボロにされている。あれでは、もう被ることはできない。アーチェのフードはいいおもちゃにされたようだ。


「キュキュキュ!」


 ヘリオは森の奥を見据えた。いつもより口数が多い。ソラに何かを伝えようとしているようにも見える。ソラは周りの波動を感じ取る。しかし、何も感じない。そのことに、ソラはあることを思い出した。


 絵の中のものといい、ローズマリーの襲撃犯といい、魔王側の勢力には波動はない。

 今思えば、彼等はすべからくペンダントを付けていた。あれは波動を消すための物体である可能性が高い。


「みんな! 誰か来る!」


「!」


 ソラの声に真っ先にロロが反応する。彼は剣を引き抜いた。アーチェの元にヘリオが飛び込む。ヘリオたちは離れていた方が、安全だ。ソラも立ち上がると、森の奥を見据えた。


 ティティールも扇を構える。


「随分と、騒々しいですな。これでは、新たな竜神様の環境に相応しくありません」


 森の影からその姿を現したのは、龍の頭を持つ、モンスターだった。


 カランと首から下げているペンダントが揺れた。



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