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21.ソラとロロのカーデラン探訪

 アデルはかなりカーデランの人々に気に入られているようで、人々はアデルの姿を見るなり、にこやかに話しかけて来る。


「おう、兄ちゃん。さっき、カーデランに来たんだろう? どうだい? うちの野菜を買ってかないか」


「新顔さんだね、今日はとりたての果物ばかりだよ。味見してっておくれ」


 こうやって話しかけられることも、もう何度目か分からない。大通りの両側に露天を構えている店主達が次々と声をかけてくる。


「いらないよ。俺ら、金ないんだ」

 

「おぉ、そうかい。金が手に入れたら是非うちに寄ってくれ」


 どの店主も温和で、気さくな感じだ。ソラはある露天の前で急に立ち止まった。


 キラキラとした様々な色の石が目に飛び込んできた。石は様々な形のものがある。ソラはその中の一つを手に取った。それは、蝶々の形に青く煌めく石が無数についた髪どめだった。


「まるでソラの瞳のように綺麗だな」


 ロロはソラに聞こえない小さな声で呟いた。ソラは輝かせていた瞳を閉じると、髪留めをその場に置いた。


「ワンワン!」

 

 アデルが急かすように吠えると階段の方へ駆けていった。ソラが小走りにアデルの後を追う。ロロは髪飾りとソラを交互に見返したあと、ソラの後を追った。


 ようやく階段の前に辿り着いた。アデルは器用に階段をピョンピョンと登っていく。

 石でできた階段はどこか重厚な雰囲気があった。しかし、何人もの人とすれ違っているため、気軽に立ち寄っていい場所なのかもしれない。


 階段は数え切れないほど長く続いていた。アデルのあとを追って階段を登る。

 一番上に着く頃には息を切らしてしまった。     


「こんなに高いところに作る必要あるか?」


 ロロが息を切らしながら、文句を言った。階段の上の大きな建物はなにかの施設のようにも見えた。武器を携えた若者達が群がっている。


 アデルに導かれるまま、建物に足を踏み入れると、そこは酒場だった。こんなに重厚な建物の中に酒場があるとは意外だった。

 厳つい顔をした男達も酒を酌み交わし、笑顔で話している。真ん中の柱の前には蛙の置物が置かれていた。


「随分と精巧だね」

  

 ソラが蛙の置物に触ろうとすると、突然それが動き出した。驚いて後ろに後ずさったソラをロロが受け止める。


「ようこそ、ご利用は初めてですか?」


「あ、はい!」


「フムフム、ではこの同意書にサインを」  


「なんだこの生き物?」


 蛙は身に着けられていた服の中から、二枚の紙を取り出した背中には太い剣を背負っている。鼠の頭をした蜘蛛もいるのだから、こういう生き物もいるだろう。ソラは動揺を抑えると、紙に目を通した。

 そこには見知らぬ文字が書かれていて、ソラは読むことができずに戸惑った。

 

「なんだ、この変な字」

 

 ロロも読めないようで、首を傾げている。このカーデランの文字だろう。言語が同じだからと気を抜いていたが、文字は違ったようだ。

 そういえば、建物の屋根には大きな看板が設置されていて、そこになにやら変な記号が書かれていたことを思い出した。

 今思えば、あれは記号ではなくこのカーデランの文字だったのだ。


「あの、すみません。私達はソダシさんって人に会いに来たんですけど」


「あぁ、ソダシと言えば、ワタクシのことです」 


「あ、そうなんですね。あの、申し遅れました。私はソラでこっちはロロです。ついさっきこのカーデランに訪れたので、挨拶に来ました。あの、伝書鳩が来たと思うのですけど」


 ソラは慌てて名前を名乗った。まさかソダシとは蛙のことだとは、全く思わなかった。


「おぉ、そうであった! すみませんなぁ、最近忘れっぽくって。なにやら下が騒がしいと思っていたら、貴方達のことでしたか! どうです? カーデランはいいところでしょう?」


「え、えぇ。みんな、優しくてとても親切です」


「むしろ親切すぎて不安になってくるぜ」


 ソラとロロの感想を聞いて、ソダシは頭を上下に振った。

  

「ホホ、死しても心を失うなというのがこのカーデランの志ですからね」


「なんだ、それ?」


 死しても心を失うななどのことわざは聞き覚えがない。このカーデラン独自のことわざなのだろうか。


「死してもというのは例えですな。それぐらい辛い状況でも、人の心、優しさを失うなという意味です」


「良い志ですね」


「そうでしょう? 千年以上前から続いているこの都の志なのですよ」

  

 ソダシは得意気に喉を大きく膨らませた。千年。そのあまりの月日の長さにソラは驚いた。  

 このカーデランは千年以上前から続いているのか。だからこそここまで栄えているのだろう。


「ふーん、俺らが知らないだけでずっと昔から人が住んでいたんだな」 


 ロロは残念そうに呟いた。どうしてそんなに残念そうな顔をするのだろうか。

 ソダシは二人の顔を交互に見つめると、首を百八十度傾けた。

 

「ところで、お二人はどこから?」


「俺らはこの島の外から来たんだよ」

 

 ロロは誤魔化すことなく、真実を伝えた。ソダシは穏やかな表情でロロの話を聞いていた。

 ソラだったとしたら、外から来た人物など困惑しそうなものだがソダシは戸惑う様子すら見せない。


「ほぉ、それではセザール様と同じですね」


「セザールは随分と知られているんですね」  


 ソダシもセザールの名前を知っていた。都の人々がセザールに群がっていたことから、セザールがこの都で名のしれた人物であることが想像できた。


「セザール様は今から五十年以上前でしょうか? この地に訪れましてな。そのときに都の外で襲われていた少女を助けてくれたのですよ。それから、皆彼を慕っております」

 

 ソダシは昔を懐かしむように、目を閉じた。ソダシはいくつなのだろう。口ぶりから、五十年以上前は生きてそうだ。


「へぇ、セザールが」


 ソラはセザールの姿を思い浮かべた。セザールなら、きっと颯爽と現れて格好をつけながら助けたのだろう。見たことがないというのに、その光景はすぐに想像ができた。

 五十年以上前のセザールはどんな雰囲気だったのだろう。少し気になる。


「あの、ソダシさんこの紙はなんですか?」


「おぉ、うっかりしておりました。それは戦士になるための契約書だったのですよ。てっきり、お二人は戦士になりたいのかと思っていましてね。ここは戦士の集いの場ですから」


「そうだったんですね。でも、戦士になるのは今は遠慮しておきます」


「構いませんよ。では、これは回収いたしますね。心変わりしたらぜひ!」


 ソダシは紙をソラ達から受け取ると、ピョンと上へと飛び上がった。そして元の場所に戻ると、身を小さくして固まり、再び置物に戻ってしまった。それから、ソダシは一言も口を利かなくなった。話は終わりということだろう。 


「ロロ、一旦ダリオさんの家に戻らない? アーチェが目を覚ましてるかも」

 

「あぁ、そうだな。もうここに用もないしな」

 

 ソラ達が建物から出ると、アデルがスクッと立ち上がった。今度は小屋まで案内してくれるようで、走り出す。


「あ、待って。アデル!」


 ソラは焦ってアデルを追いかける。ロロはためらうように、建物を振り返り見つめたが、それは一瞬のことで、すぐにソラのあとを追いかけた。


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ここまで読んでくださってありがとうございます!

面白かったと思ってもらえたら、ブックマークやポイントを入れていただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!


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