1.目覚め
痛い。それが最初に感じた感情だった。痛いを感情と言うのだろうか、そのことに少し疑問を持った。
頭の奥を焼くような痛みと、誰かの声が混ざり合っている。 土と鉄の匂いが鼻を刺し、重たい瞼をどうにか持ち上げた。
夢を見ていたような気がする。 鮮やかな血と、冷たい刃の感触。 けれど、目を開けた時には何も思い出せなかった。自分がどこにいるのかそれすらも、分からない。頭を思いっ切り、鈍器で殴られたようなそんな感覚だった。
最初に視界に映ったのは、揺れる木々と青白い空だ。 枝の上に止まった白い鳥が、こちらを見下ろして鳴いた。それは見たことがない鳥だった。見る角度によって色が変わることに、しばらくして気が付いた。
「おい、ソラ。大丈夫か?」
少し低い声に顔を向けると、灰色がかった黒髪の少年が立っていた。低いと言っても、それは声変わり途中の少年の声に思えた。
金属の義手が光を弾き、伸ばされた手がかすかに光っている。青いスカーフを首に巻き、乱暴そうだが、優しそうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「はぁ、ロロが木の実を投げたりするからだよ」
背後から不満げな声。周囲にはもう一人いた。癖っ毛の金髪に桃色の瞳をした少年が軽く肩をすくめ、こちらを見ていた。彼の腰には翡翠色の輪のような武器が揺れていた。
ロロと呼ばれた少年よりも、幾分背が低い。顔も幼く、まだ成人してないように見える。
二人は言い合いながらも、どこか親しげだ。けれど、その顔を見ても、何も思い出せない。心の中にぽっかりと穴が空いている。
ロロがいつまでも自身の手を取らないことに対して、首を傾げていた。
「どうした? まさか俺らが誰か分からない――なんて冗談じゃないだろ?」
ロロの言葉に、息を呑む。しかし、どれだけ頭を回転させても、名前すら思い出すことができない。
ソラは目覚めてからずっと言いたかった言葉を口にした。
「あの……すみません。どなたですか?」
その言葉を合図にするように、白い鳥が羽ばたき、青い空に消えていった。
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