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17.波動と青の視界、討ち取りし鯨

 天井は音をあげて崩れてくる。長くはもたないだろう。


「おぉ、素晴らしい。これこそ我の魔法の威力!」


 セザールはこんな状況だというのに、自身のナイフをうっとりと見つめていた。頬が紅潮している。今は何を言ってもセザールの耳には入らないだろう。

 ソラはセザールに背を向けると、寝室へと急いで駆け出した。寝室に辿り着くなり、ロロとアーチェを乱暴に殴り起こす。可哀想だが、起こし方に気を遣っている場合ではない。


「お、起きて! 早く!」


「うん? ソラ……。何かあったのか?」


「なんか音がする」


 ロロとアーチェは当然ながら、状況を理解していない。あの一部始終を見ていないのだから、それは当然のことだった。

   

 ソラは寝起きのロロとアーチェを有無を言わせず、引きずってベットから落とした。寝室の天井にも亀裂が走っている。ソラはアーチェが持っていた火薬を仕方なく借りると、石で火をつけ、天井へと向かって放り投げた。割れかけていた天井には効果抜群だ。天井はかなり高いため、爆風は少ししか喰らわない。

 ソラはまだ状況を理解できていない二人を抱え込むと、出来上がった空洞の壁の両側を、交互に蹴ることで上に上がった。



「し、死ぬかと思った」


 ソラは砂漠の上に寝転んだ。かなり体力を使ってしまった。砂の上は昼の暑さが嘘のようにひんやりと冷たい。夜の砂漠が寒というのは本当の事だったようだ。むしろ寒すぎて、体が震える。洞窟の寒さなど、比ではない。


「どうなってんだ?」


「洞窟が崩れたのかな。セザールはどこ?」


「多分、無事だと思うけど」


 アーチェは理解が早く、早速立ち上がった。セザールの元に向かう時間がなかったので、安全を確認していなかったが、彼の事だから、きっと上手く逃げているだろう。 


「フフ、その通り我ならここにいる」


「……! お前、いつの間に?」


 ロロが突然現れたセザールの存在に驚く。セザールは気が付かない間に三人の輪の中に入り込んでいた。 

 手にはアコーディオン、腰にはナイフを刺している。あの騒ぎの中だというのに、必要な物はちゃんと持ち出していたようだ。

 セザールが無事なことに安心し、ソラは胸を撫で下ろした。


「ふふん、我は不死身さ」


 セザールはあっけらかんとしている。こんな事態を引き起こしたというのに、呑気だ。


「洞窟が崩れるなんて、なにがあったんだ?」


「セザールが魔法を――」


「そう、我が魔法を放ったのさ」


 ソラが言おうとしたことを遮って、セザールが高らかに宣言した。それに対してロロは眉を顰めた。


「こいつ、とうとう頭を打ったらしいな。ソラも騙されるな。どうせ、嘘だ」

 

 ソラにはロロの言った事を信じることは出来なかった。普通のナイフで、しかも振り下ろすことなくあんな威力が出せるとは思えない。

 なにより、肌で感じとったビリビリとした感覚が、あれは普通の攻撃とは、全く違うものだと訴えていた。


「ソラ、来るぞ」


「来るって何が……!」


 地面の下から、大きな気配を感じ取ってソラは近くにあった小さな崖の上に避難した。ロロもアーチェも既に反応している。

 しかし、セザールは崖の上に避難することなく砂場の上に佇んでいた。彼はアコーディオンを手に持ったまま、動かない。


「セザール、なにしてんのさ!」

 

 アーチェが声を上げると、セザールは上へと飛び上がった。それと同じぐらいのタイミングで大きな口が砂漠から出現した。それはどんどんと砂漠から体を出している。  

 それは鯨だ。砂にまみれた鯨がセザールを飲み込まんとしている。セザールが言っていたモデラートに間違いない。


 セザールはアコーディオンを構えると、音色を弾いた。その瞬間青いオーラのようなものがアコーディオンを包んだ。音符が形となり、モデラートの体に当たるとモデラートの体を引き裂いた。モデラートはすぐに絶命し、地面に倒れ込む。

 当たらなかった無数の音符は地面に直撃する。砂の地面に円柱状の穴ができ、その振動で無数のモデラートが砂漠から身を出してきた。


 崖の下にもモデラートがいたようで、そのまま崖の一部を突き破ってくる。残された崖にはロロとアーチェが残った。

 モデラートはソラを狙っているらしい。ソラは飛び上がって、迫ってくる口を避けたが、飛び上がった先にもモデラートが口を広げてソラのことを狙ってくる。

 ソラは剣を引き抜こうとして、あることに気が付いた。


「そうだ、武器壊れてるんだった」

  

 今背負われているのは刃折れの剣だ。しかし何も武器がない以上、これで戦うしかない。ソラが剣を引き抜こうとすると、目の前から何かが飛んでくる。

 ソラはそれを反射的に受け取った。


「それ使って、ソラ!」


 アーチェが使っているブーメランの一つだ。アーチェが遠くから投げてきたのだ。


「ありがとう! アーチェ」


 ソラはブーメランを構えると、モデラートに向かって投げ飛ばした。しかしモデラートの体は硬く、かすり傷をつけただけだった。その痛みでモデラートは激高し、体が赤く光った。

 ソラの手元にブーメランが戻ってきたが、すぐに二手目に入れない。モデラートは口を大きく開くと、赤い光線がソラを狙った。


 空中では上手く避けることは出来ない。ソラが死を覚悟すると、誰かが後ろからソラを抱きしめた。その衝撃で光線の範囲から外れる事に成功した。それは遠くで水を飲んでいた草食動物に当たる。

 草食動物は一瞬で丸焦げになり、骨も残らなかった。ソラは身震いをした。少しでもかわすのが遅れていれば、ソラもそうなっていただろう。 

 ソラはそのまま地面に着地した。


「大丈夫か? ソラ」

 

「ロロ、ありがとう!」


 ソラに抱きついていたのはロロだった。顔に冷や汗をかいている。しかしまだ油断はできない。

 むしろ、地面の上に落ちてしまったことで、モデラートの格好の標的にされるだろう。


「セザールの奴、あとで絶対殺す!」


 ロロは剣を構えると、よだれを垂らしながら迫ってくるモデラートを待ち構えた。


「ロロ!」


 崖の上からアーチェがブーメランの一つを飛ばしたが、それはすぐに弾かれてしまった。アーチェでは力が足りない。モデラートは攻撃を気にすることもなく、こちらに突っ込んでくる。


「ソラ、ロロ! とりあえず逃げるんだ」

  

 アーチェが叫ぶ声が聞こえてくる。


「逃げるったってどこにだよ……」


ロロの言う通り、もう逃げ場がない。ソラはセザールが先程、モデラートに向けた攻撃を思い返していた。あれも恐らく魔法だろう。きっと魔法は物体を介して行うのだ。ソラは手に持つブーメランを握りしめた。波動が理解できれば魔法が使えるようになるとセザールは言っていた。

 恐らく波動を意識することで、物体を媒介として魔法を放つことが出来るという意味だ。


 ソラは立ち上がると、ロロの前に飛び出した。


「お、おい! ソラ!」


 ロロが呼び止める声が聞こえる。目の前にはこちらに大口を開けて迫ってくるモデラートの様子が伺えた。普通ならこんなことは自殺行為だ。

 だが、こんなに至近距離ならば、攻撃を外すことはないだろう。

 ソラはブーメランを構えた。波動は何度も見せてもらった。あれを真似するだけだ。


 ソラは集中するために、走りながら目を瞑ると意識を集中させた。余計なことは考えなくていい。無心の状態になり、ブーメランに神経を集中させた。

 体から不思議な力が湧き上がってくるのを感じる。その瞬間、ソラが見ていた景色がガラリと変わった。

 モデラートの体が青く見える。いや、景色全体が青く見え始めた。

  

 そしてその生物の弱点や攻撃方法など、いろいろな情報が脳に飛び込んでくる。セザールが見ていたのはこれだ。ソラは即座に理解した。

 なるほど、この景色が見えるか見えないかで勝敗が大きく変わるだろう。


 ソラはそのままブーメランをモデラートに向かって投げ飛ばした。それは綺麗な流線を描き、モデラートの体を真っ二つに引き裂いた。


 モデラートが凄まじい音を立てて倒れ込む。


************************


ここまで読んでくださってありがとうございます!

面白かったと思ってもらえたら、ブックマークやポイントを入れていただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!

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