163.日の終わり
「ていうことで、今は四人なわけなんだけど、ダルカナルへ入れるのはアーチェさんを含めて、三人まで! 誰か一人は外に残らなくてはいけないのよ!」
アリアが今の状況を事細かに説明する。アーチェは頭を悩ませた。ダルカナルへ連れていけるのは、二人までなのだ。最近知ったばかりのその情報を失念していた。
今、アーチェたちは話し合いの真っ最中だった。他の三人を心配させないために、リトと会って襲われたことは秘密にしてある。ヘリオが降下している時、高い木に引っかかっている手袋を見つけることができてよかった。もし見つからなければ、どうしようかと思った。アーチェは手袋を無意識に握りしめていた。
「それだとしたら、俺が……」
「お困りですかな?」
ロロが何かを言おうとした直後、聞き覚えのある声がした。
「ルフォーネさん」
「昨日ぶりですね。アーチェさん」
森に現れたのはルフォーネだった。ルーペが警戒したように、木の後ろに隠れてしまう。そんなに簡単に人を信用できるものではない。父を失ったあと、自身もそんな状況だったので、その気持ちは痛いほど分かった。アーチェはルフォーネに向き直った。
「ルフォーネさんはどうしてここに?」
「導きを感じましたね。ここに来なければいけないような気がしたのです」
「導き?」
相変わらずルフォーネの言っていることは、不思議だ。ルフォーネはヘリオが目に入っているだろうに、見向きもしない。竜を目の前にして、動じないその姿勢にただ者ではない気配を感じる。
「あ! 船の上で助けてくれた人だ! あの時はどうも!」
アリアがしげしげとルフォーネを見ていると、そのことを思い出したようで、元気よく頭を下げた。
「あの時の胡散臭い人か……」
続けてロロも思い出したように口にした。
「ダルカナルへとこの人数で入国したいのですね? でしたら、私がアイレン様に直に許可を頂きましょう」
「それはありがたい申し出だけど、それができるのか?」
そんなことができるのかとアーチェは驚いた。籠城でも彼は、勝手にバルコニーを使っていた。もしかしたら、アーチェの想像しているよりもずっと上の立場の人間なのかもしれない。
「えぇ、私の名前を使えば」
「凄い! ルフォーネさんだっけ? もしかして、どこかの国の王子様なの?」
アリアが笑顔を浮かべると、ルフォーネに駆け寄った。アーチェはその背中を止めようか迷ったが、最終的に行かせることにした。ルフォーネからは敵意は感じない。ただ彼は何を考えているのか分からないのだ。それが少し不気味だった。
今だって、アーチェたちに肩入れをする理由が不明だ。一体、彼に何の利益があるというのか。
「王子といえどそんな権力はありません。私はもっと上の立場の者です」
ルフォーネは不敵な笑みを浮かべると、そのままフードを被り直し、天を指差した。
「王様ってこと? 若そうだけど」
アリアが不思議そうに首を傾げた。しかしアーチェの予想からすると、そんな単純な話ではなさそうだ。第一、失礼かもしれないが王族にはとても見えない。
「ふふ、どうでしょう。では私は話をつけておきますので、いつでもダルカナルへお帰りください。そうだ。近々、ダルカナルで世界会議が開かれます。そこに、ぜひ貴方様方も招待いたしましょう。では」
「き、消えた!」
ルーペが驚いたように、木の陰から飛び出してきた。ルーペの言う通り、ルフォーネは一瞬にしてその場から消えてしまったのだ。転移魔法という一種なのかもしれない。それは一瞬にして定められた場所に飛ぶことができるという魔法だ。だが、習得難易度はとても高く、一生かかっても辿り着けない者の方が多いという。
アーチェも便利なので覚えたいと考えているが、なかなか習得できない魔法の一つだった。
「なんか、あの人。胡散臭くないですか?」
ロロも少なからずアーチェと同じ考えを抱いているのか、重々しい表情だった。
「でも、カッコよかった!」
アリアはすっかりとルフォーネに夢中になっているようだ。この姿を見ていると、ふとアユリアのことを思い出した。手紙を送ったが、元気にしているだろうか。エドワードも一緒にいるはずだ。アーチェは隣にいるロロをチラッと見た。エドワードはロロの弟だが、ロロの記憶が失われてしまった以上、それを知るのはアーチェとソラの二人だけだろう。
この兄弟に邂逅の時は訪れるのか、アーチェはそれだけが気掛かりだった。
「ふん、あいつのどこがカッコいいのさ! これだから、お子様は困るよ」
アリアの態度に呆れたように、ルーペが両手をヒラヒラと動かした。
「もう、カッコいいのをカッコいいって言って何が悪いの! あんたもちょっと顔がいいからって生意気よ!」
アリアとルーペの言い合いを傍で見ていたアーチェは、空を見上げた。
空には夕焼けが差し込み、日の終わりを告げようとしていた。




