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157.銀の呪縛

「銀色の髪……」

  

 それを見てアーチェは目を見開いた。銀色の髪はこの一年間、見たことがなかった。銀の髪はシルバーブラッドの特徴だとも言える。しかし、少年の腕から流れる血は紛うことなき赤だ。

 つまり人間族だということになる。人間族でも銀色の髪を持つ者が生まれることはある。だが、その確率はとても低いと言われている。だからこそ、少年が珍しい髪色をしていることには変わりはないのだ。


「どうしたんだよ? オイラを捕らえに来たんだろ?」


「君はさっきから誤解をしてるよ。僕は本当に危害を加えるつもりはないんだ」


「そんな言葉は信用できるもんか! オイラの血を狙おうとしてるんだろ?!」


「……」


 銀色の髪を見た瞬間に、シルバーブラッドを連想する者は多いだろう。赤い血を持ちながらも、襲われることは多かったはずだ。そんな環境で生きてきて、信用できるはずがないのだ。


「ほんとだよ」


「何を根拠に――」


 アーチェは自身の上着をその場で脱いだ。少年は目にしたはずだ。空を飛ぶことができない小さな翼を――。


「僕も何かと隠して生きてるんだ。君のことを襲ったりするもんか」


 それはあまり説得力のない言葉だったかもしれない。しかし、アーチェにはそれ以外の言葉は思いつかなかった。


「鳥人か……。オイラ、初めて見たよ」


 少年は少し安心したのか、ホッとした感情を浮かべた。アデアでは鳥人というものは、天空の塔で生まれ育つらしく、そこから出てくることはないらしい。だからこそ、普通にアデアで暮らしていては、お目にかかれない人種だ。


「その竜は何なんだ?」 


「この子は卵の頃から育ててね。最近まで離れ離れだったけど、ようやく再会できたんだ」


 こうしてヘリオに会えたことが奇跡のようなものだ。アーチェの気持ちも自然と高揚してしまう。


「ふーん、家族みたいなもんか」


 それを聞いて少年は口元を歪めた。家族という言葉を呟いた瞬間、何とも言えない表情になったのでアーチェは面を食らった。


「そんな感じかな」


「じゃあ、オイラはもう行くよ。同じ場所にいると、色々と問題なんだ」


 少年は背を向けると、森の中に向けて歩き出した。先ほどまで明るい森だったはずが、やけに暗く冷たい森に見えた。アーチェはここで声をかけなければ一生後悔する気がした。


「……。待ってくれ」


「なに?」


 幸いにも少年は振り返ってくれた。そのまま、立ち去られてはどうしようかと思った。


「もし行くところがないのなら、僕と一緒に来ないか?」


「あんたと一緒?」


 少年は首を傾げ、迷うような素振りを見せた。


「せっかくの申し出だけど、断るよ。オイラは誰も信用しないんだ」 


「じゃあなんでさっき、僕を助けてくれようとしたんだ?」


 アーチェがヘリオに襲われていると勘違いした少年は、アーチェを助けようとしてくれた。もし本当に他人を信用していないのなら、そのまま立ち去ってしまえば良かったのだ。だが、少年はそうしなかった。それは、とても希望が持てることだと思った。


「それは……よく分からない。恩返しってやつ?

オイラは貸し借りを作るのが嫌だからな。まぁ、あんたの竜だったんだから、全然意味がなかったんだけど」


「そうか。僕は今、ダルカナルに拠点を構えてるんだ。仲間も気のいい人たちだから、きっと大丈夫」


「ダルカナルって、あの世界最大都市って言われてるやつか……」


 少年は腕を組んだ。ダルカナルの名前を知らぬ者はいない。その言葉は伊達ではなかった。実際、世界最大都市と言うだけあって、安全管理はかなりしっかりしているのだ。犯罪率は最も低く、放浪生活を送るよりかは、身の危険に晒される心配がないだろう。

 ロロもアリアも利益には興味がない人間だ。神に誓って、神に誓って、少年に危害を加えることはないと明確だった。


「うーん」


 アーチェの言葉に少年は決断ができないようであった。だが、チラチラとこちらを見ている辺り、あともう一押しな気がする。


「もう一度、人を信じてみてもいいんじゃないかな? 僕が言えた話じゃないけど」


「……。分かった、でもオイラはそんな簡単に打ち解けないからな」


 その一言に少年は頷いた。アーチェはその答えをもらって、ホッと胸をなで下ろした。


「百も承知さ」


「それより、あんたの名前を聞かせてくれない?」


「あぁ。まだ名乗ってなかったな。僕の名前はアーチェだ」


「アーチェ……変な名前。オイラはルーペっていうんだ。よろしく」


「こちらこそ」


 アーチェが伸ばした手をルーペは握りしめた。


「お~い、アーチェさん! 帰りが遅いと思ったら、そんなところで何をしてるんですか?」


 上を見上げると、丘の上からロロが顔を覗かせていた。心配で見に来たのだろう。アーチェはロロに向けて手を振った。


 

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