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156.フードは君のお気に入り

「このフードに見覚えがあるだろ?」


 そう言ってアーチェが取り出したのは、一枚のフードだった。それはヘリオが昔、とても気に入ってたものだ。遊び道具にされたため、かなりボロボロになってはいるが、念のために持っておいたのだ。


「グルルルル、グルゥ?」


 ヘリオは最初は警戒の色を弱めなかった。しかし、何を思ったのかヘリオはこちらに近づいてくると、鼻先をフードに近づけた。匂いを嗅いでいるようだ。ヘリオはフードとアーチェを何度も見比べると、不思議そうに首を傾げた。


「ほら」


 アーチェは思い出してもらおうと、髪をクシャクシャにした。一年前の髪形にすれば、分かりやすいだろう。


「キュルル〜」


 ヘリオは確信を持ったのか、アーチェの頬に自身の頬を擦り寄せてきた。鱗が尖っていて、かなり痛い。瞳には敵意はもうなく、優しい色を取り戻していた。翼を畳み、外見にはそぐわない高い声を出している。


「僕も会えて嬉しいよ」


 アーチェはヘリオの背を優しく撫でた。こうしてまた撫でられる時を、アーチェは心待ちにしていた。もう無理かと思っていたが、諦めないでよかったと胸をなで下ろした。


「キュキュ!!」


 ヘリオがアーチェの体を尾で丸めて掴んだ。そのままアーチェの体を持ち上げる。かなり大きくなってしまったその体では、アーチェ一人を持ち上げることなど容易なのだろう。


「お、おい! バケモノ竜! その人を離せ!!」


 威勢のよい声が飛び込んできた。声のした方には、フードを被った少年がいた。先ほど、ヘリオに襲われていた少年だ。手には短剣が握られている。腰に鞘を差していることから、落としたのを拾ったのだろう。

 そして、少年は何かを勘違いしているようだ。アーチェはヘリオに離してもらうように合図をすると、叫んだ。


「違う! この竜は敵じゃない」


「待ってて! 今、助けるよ!」


 そんなアーチェの声は、必死な彼には届かなかった。震えた短剣から氷の刃が飛び出した。そのままそれはヘリオに激突した。


「ギャオ!!」


 ヘリオが小さな声を上げ、アーチェから離れた。そしてまた敵意に満ちた瞳を少年に向けた。少年とヘリオが睨み合う形となる。


「こい! 竜!」

  

 少年は震える手で短剣をヘリオへと向けた。刃の先は、半透明の色を帯びている。


「駄目だ! ヘリオ、君は戦っては」

  

 迎え撃つ気満々のヘリオの前に出ると、アーチェはヘリオを庇った。人間を傷つけてしまっては、ヘリオの立場が危うくなってしまう。ここは手を出させてはならない。


「クル?」   


 ヘリオにはアーチェの考えは分からないようだ。しかし、意図は伝わったのか、渋々後ろに下がった。少なくとも、指示は聞いてくれるようだ。アーチェはホッとすると少年に向き直った。


「怖い思いをさせて済まない。この竜は僕の仲間なんだ。訳あって君を襲ってしまったことを、謝罪するよ」


「それが、お前の竜だって……?」


 少年は訝しげにしながらも、短剣を納めることがなかった。


「もういいや」

  

 少しの間があった末、少年は短剣を鞘に納めた。


「信用できないよ。人間もモンスターも……。どうせ、その竜もオイラを捕まえるために、連れてきたんだろ?」


 少年の金色の瞳には、誰も寄せ付けようとしない覚悟があった。アーチェには少年の事情は分からない。しかし、誤解が続いていることは確かだ。

 

「君を捕まえる……? それは誤解だよ」


「もういい、オイラ疲れたんだ。煮るなり焼くなり好きにすればいいよ」


 少年は座り込むと、フードをその手で取った。アーチェは確かに見た。銀色に輝くその髪を――。


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