150.いざ、ダルカナルへ!
「そういえば、アーチェさん。なんか、封書が届きましたよ」
「封書?」
食事が終わった後、ロロがベージュ色の封筒を渡してきた。封には桜のシールが使われている。アーチェはそれを受けとると、封書の外観を眺めた。
「それって何か大事なものなの?」
アリアが椅子に座り、足をブラブラさせながらこちらを見てくる。ロロは渡したら興味なさそうに、その場を去っていってしまった。
「……! もしかしたら、あれかもしれない」
アーチェには心当たりがあった。封書のシールを剥がし、中身を出すと、それは四つ折りにされた紙だった。インクが透けていることから、何かが書かれていることは間違いない。
「見せて見せて!」
アリアが椅子から立ち上がり、封書の内容を見たがった。見られて困るものではないので、アーチェはそのまま紙をテーブルに置いて、読み始めた。この一年間で、もうこの大陸の文字は全て読めるようになっていた。そこにはこう書かれていた。
アーチェ殿
貴殿の活躍、聞き及んでいます。
もし、望むのならダルカナルに貴方様を招待したいと考えております。我が、ダルカナルは貴方様を歓迎致します。良きお返事がもらえることを、心待ちにしています。
ダルカナル一同
「これって……?」
「ダルカナルへの入国許可書だ。僕が心から欲しかったものだ」
「ダルカナルってあのダルカナル?! 凄い!!」
アリアがアーチェの言葉を聞いた瞬間、目を輝かせた。ダルカナルとは、この大陸アデアで一番大きな都市だ。技術が発展しており、大陸随一の人口を誇る。アーチェはその場所に足を踏み入れることを望んでいた。なぜならば、ダルカナルでは人が多い。
それはそれだけ、情報が集まる量が桁違いということを意味する。何より、優れた技術と洗練された魔法開発。ダルカナルに訪れることは、誰もが望むことだと言っても過言ではない。
アーチェはそこにどうしても行かなければならなかった。だからこそ、色々な人助けをしてきた。ダルカナルが出している依頼書というものがあり、それを達成することで評価をされるのだ。
一年近くかかってしまったが、これはハイスピードな方であった。なかには、一生ダルカナルに入ることも叶わない人間もいるのだ。
貢献度が少ない人でも入れたり、逆に真面目に依頼をこなしている人が入れないこともある。ダルカナルはそんな不思議な都市だった。この封書が届いたことは本当に運がいいのだ。だからこそ、ジッとしている暇はなかった。
アーチェの人探しにも、力をつけるためにもダルカナルは、良き結果をもたらすだろう。
「こうしちゃいられない。すぐに、支度をしないと……!」
アーチェは立ち上がると、急いで荷物を準備し始めた。偶然、居間を通り過ぎようとしたロロが不思議そうに顔を近づけてきた。
「アーチェさん、どうしたんですか? またどこかに出かけるんですか?」
ロロからすれば、アーチェはどこかしらに出向いてしまうため、つくづくうんざりしているのだろう。
「あ、あぁ。ロロ、ちょうどよかった。僕たち移住することになったから、すぐに荷物の支度をしてくれ」
この村を気に入っているロロには申し訳ないが、ロロをここに一人にするわけには行かない。かといって、ダルカナルに行かないという選択肢はない。必然的に、ロロもこの村を旅立たなくてはいけなくなるのだ。この家を建ててくれた大工には悪いが、少しだけ家を空けると思えばいいだろう。
「移住? 俺はこの村から離れるのは嫌なんですけれど」
思った通り、ロロはあまり気が進まないようだった。そこで、アーチェはダルカナルについてある重大な情報を思い出した。
「ダルカナルは世界最大の都市さ。そこに行けば、美味しいものもたくさん食べられるだろうけど――」
人の情報だけでなく、食べ物の文化も相当進んでいるだろう。アーチェはこの一年と半年で、すっかりロロの扱いの仕方が分かっていた。食べ物と聞いて、飛びつかないということはあり得ない。それは案の定だったと言える。
「……別に俺は行かないなんて言ってませんよ」
ロロは少し黙ると、そのまま自室へ戻って行ってしまった。だが、部屋からガサゴソと音がしているあたり、荷物の整理をしていることは明確だった。
「わー、ダルカナルなんて私には夢みたい!」
アリアが嬉しそうに飛び跳ねた。アリアからすれば、突然に場所を変えることになるため、心配したがそれは杞憂であった。
「ダルカナルに着いたら何をしようかな? 私、したいこといっぱいあるの!」
アリアの瞳の光はいつも前向きで、希望に満ち溢れていた。それがアーチェには嬉しくもあり、眩しくもあった。
「道中に時間はたっぷりあるから、たくさん考えておくといいよ」
「うん! 何をしようかな〜」
彼女がいなくなってしまい、アーチェは一人取り残される。一人になった居間にて、アーチェは息をついた。
「とうとう、この日が来た……」
アーチェはまだ行ったことのないダルカナルを想像し、一人決意に燃えていた。




