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148.パカレパの象徴

「暗くなってきたな」 

 

 アーチェは木に隠された空を眺め、森の中で夜の訪れを感じていた。光の明暗の違いなど見なくても、夜は独特な匂いがするから、近づいてくればすぐに分かった。

 

「アーチェさん、まだ歩く?」


「いや、もうすぐだよ」


 段差を降りるのに、手こずっているアリアをアーチェはゆっくりと降ろした。アリアは地面をしっかりと踏みしめると、少し疲れた顔をした。確かにかなりの時間を歩き続けている。

 出かけた頃には夕方だったのだから無理もない。しかしどうしても森のなかで休むわけにはいかなかった。それは危ないというわけではなく、単純にアーチェは早く帰りたいのだ。   

  

 前に家を出たときはこんなに時間がかかるとは思っていなかった。そもそも、アリアに会ったこと自体が想定外だったため、それは仕方がないことだった。アリアが悪い訳ではないが、急がないという選択肢が入ることはなかった。


「アーチェさんはどこに住んでるの?」


「もう少し行ったところにいるパカレパに家を建てたんだ。夜までには帰りたい。ついてこれる?」


 パカレパを見つけられたのは本当に偶然だった。たまたま訪れたその町はあまり大きな町とは言えなかった。しかし自然に溢れていて、とても町の雰囲気が良かったのだ。アーチェにとってパカレパは第二の故郷になりつつある。もう一年もいるのだから当然だが、それでもここまでの愛着を抱くことは想像していなかった。


「うん! ゴールが分かれば早いわ!」


 アリアは目的地が分かって活力を取り戻したようで、歩くスピードを上げ始めた。あまりにスピードを上げるものだから、アーチェが今度は早歩きをすることになってしまった。アリアがはぐれて一人にならないように、アーチェはスピードを上げてアリアを追いかけた。



「到着ー!」


 アリアは町の門の前に来ると、両手を腰に当てて大声で叫んだ。まだ時刻は夕飯を食べる前だ。間に合ったとアーチェは胸をなで下ろした。どんなに遅くても今日の夜には帰りたかったからだ。


 突然現れた少女の声に何人かが訝しげな目を向けたが、アーチェの姿を見ると安心した顔を見せた。アーチェのことは町の人たちに知られているので、いちいち誰かに確認されることはない。かといって声をかけてくることもない。そんな人との距離を上手く取っているこの町が心地よいのだ。


「静かな町」


 アリアはそれが不思議だったようだ。アリアのお喋りから察しはついていたが、アリアの村の人たちはひっきりなしに話す人がほとんどだった。きっとこの町で育った人間がアリアの村に訪れたら、驚くだろう。


「あそこが僕の家だよ」


 アーチェは彼女の手を引くと、丘の上に建つ木製の家を指差した。パカレパの土地を考えると、かなり大きな家になる。現役の建築士が喜んで建ててくれたのだ。


「見てもいい?」


 家の前に来ると、アリアがワクワクとした様子で尋ねてきた。


「あ、待って。僕が――」


 先に開けるからと言おうとしたが、アリアは先に扉を開けてしまった。言うまでもなく、家には明かりがついている。


「わぁ!!」


 突如、予想していた通りに驚く声が聞こえ、家の中のそこら中のものが倒れる音がした。アーチェは少しだけ気になって、後ろを振り返ったが、町の人たちはあまり気に留めている様子がなかった。分かってはいたが、まだ反応を気にしてしまうところがある。


「アーチェさん、誰かと住んでたの? そういえば、明かりがついてたね!」


「あぁ。言っておけばよかったな」


 アリアがおずおずと尋ねるのが見えて、アーチェは後悔した。言っておけば防げたことだ。


「入るよ」


 アーチェが家の中に入ると、作られたシチューやその他の料理が地面に撒き散らされていた。意図的にそうしたわけではない。恐らく、こうなってしまったのだ。我が家ではよくある光景だった。蝋燭が倒れてしまって明るさがなくなっている。燃えなかっただけマシだ。アーチェは念のために蝋燭の芯の部分を踏みつけると、奥に足を踏み入れた。


「うぅ……」


 暗がりに頭を両手で押さえて、座り込んでいる人影が見えた。その姿をアーチェは見なくても、誰かは分かった。


「ロロ。悪い、今帰った」

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