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144.似ても似つかない

「あそこが私の村だよー!」


 アリアは遠目に見える小さな村を指差した。足を挫いてしまったため、アーチェという少年におぶられながらだ――。


「どことなく、僕が生まれ育った村に似てるな」


 アーチェが懐かしそうに、けれどどこか悲しそうにアリアが生まれ育った村を見つめていた。アリアはこの金髪の少年がどんな村で暮らしていたのかが気になった。


「アーチェさんの村ってどんな感じ?」


「似てるのは自然豊かな外観だけさ。僕が住んでた村はみんな、性格が悪かったからね」


 その言葉にアリアは首を傾げた。


「私の村はそうじゃないって分かるの?」


 まだアーチェは一度もアリアの村に足を踏み入れてはいない。だからこそ、入る前から雰囲気を知っていると言いたげなアーチェの言葉を聞いて不思議に思った。


「子供の言動を見れば、大体どんな村か分かるだろ?」


「えへへ」


 アリアは自身の住んでいる村を褒められた気がして、笑顔を浮かべた。


「でも、アーチェさんは本当に勇者様じゃないの?」

 「違うよ。現に僕はこの剣を抜けないんだ」


「ふーん、そうなんだ。残念」


 アリアの体に当たらないように、改めて腰にかけられた勇者の剣を見て、アリアは心底不思議だった。勇者が現れたという話を、今より少し幼い頃に聞いたことがあるのだが、生死不明になっているという話だった。


 アリアはその勇者についてあまり詳しいことを知らなかった。こんな辺境の地では、知りたい情報もあまり流れてこないのだ。この少年がその勇者だったらいいのにと、アリアは自分のことではないのに悔しく思った。


「あ、アーチェさん! 降ろして! もう自分で歩けると思うから」


「無茶はするなよ」


 村が近づいてきたのを見て、アリアは下へ降ろしてもらうように頼んだ。アーチェはアリアのことを丁重に地面に降ろした。まだ少し足は痛んだが、だいぶ痛みは良くなってきていた。アリアが村に近づくと、門兵の青年がこちらに慌てた様子で駆け寄ってきた。


「アリア!! 三日もどこに行ってたんだ?! 必死に探したんだぞ!」

  

 青年はアリアの従兄弟であった。小さな村なため、親戚関係が多いのだ。


「ごめんなさい、オリバーさん」


「本当に心配したんだからな。叔父さんたちなんて、本当に見てられないぐらい疲弊してて――」


「オリバーさん! 今は話している暇はないんだ! これ、見て!」


 アリアは心配してくれるオリバーの声を遮ると、懐から薬草を取り出した。それを見て、オリバーが驚愕した表情を見せる。


「それはもしかして、お医者様の言っていた病を治すという薬草?」


 アリアの弟はオリバーにとっても従兄弟だ。そのため、オリバーも医者に提示された薬草を知らないわけではなかった。何より、淡い青色に光るその薬草はとても特徴的だったのだ。


「これをすぐに、ファオに飲ませて上げなきゃ」

  

 弟のファオの容態をアリアは思い浮かべた。ファオの症状は深刻だ。今すぐにでも、薬草を煎じて飲ませてやる必要があった。オリバーも全てを察したのか、目頭を押さえた。昔から、腕っぷしは強いというのに泣き虫なのだ。


「お前ってやつは……! 俺は自分が情けない! この村で一番武勇に優れているのは俺だというのに……!」


「気にしないでよ。オリバーさん。オリバーさんに

は、村を守るっていう重要なお役目があるんだもん」


 それは事実だった。オリバーが村を守っているからこそ、村にモンスターは一匹も侵入できないのだ。アリアたちの暮らす村を守るオリバーの役目をアリアは本気で尊敬していた。


「だがな……、アリア。落ち着いて聞いてくれ……」

  

 オリバーが泣くのをやめ、突然アリアの両肩を掴んだ。その真剣な顔にアリアは嫌な予感がした。


「な、なに? もしかして、間に合わなかった?」


 それは何よりも恐ろしいことだった。この薬草を探し当て、帰るのにかなり時間がかかってしまった。冷静に考えるのなら、そんな口にしたくもない結果になっててもおかしくなかったのだ。しかし、オリバーはいいやと言って、首を横に振った。そのことに安堵しつつも、アリアは再び絶望に落とされることになる。


「お医者様なんだがな、今は隣村の村に行ってしまって、帰るまでに少し時間がかかりそうなんだ」


「そんな……!」


 その事実にアリアは言葉を失った。しかし、仕方がないことだった。隣村の村には医者がいない。ファオだけではなく、村の医者は隣村の患者も診る必要があった。


 そのことに対して、言いたいことがあったが、隣村でも危篤な患者が出たかもしれないのだ。ファオだけが特別ではない。分かっていつつも、アリアはやるせない気持ちに溢れていた。

 薬草の調合の仕方が分かる人などこの村には他にいない。本にも調合の仕方までは載っていなかった。こんなことなら、医者にやり方を聞いておけばよかったのだ。


「まぁ、でも薬草は手に入ったんだ。あとは、お医者様のお帰りを待てばいい」


「それじゃ、間に合わないよ!」


 アリアは、冷静さを取り繕うとしているオリバーに向けて叫んだ。八つ当たりだと分かっていた。隣村に住んでいる患者の家族だって、ファオのために少し治療を待ったかもしれないのだ。そう考えつつも、アリアは納得ができなかった。


「医者がいないんなら、僕が診ますよ」


「むっ? お前は誰だ?」


 遠くから様子を伺っていたのか、アーチェがアリアの横に立っていた。ファオのことばかりに気を取られていて、アーチェのことをすっかり忘れていた。警戒し、槍を向けるオリバーに対してアリアは慌てて止めに入った。


「オリバー! この人はアーチェさんって言って、モンスターに襲われている私を助けてくれて、ここまで運んでくれたの」


「な、なんだ……。そうだったのか! それは失礼した!」


 アリアの言葉に納得した様子を見せたオリバーは、アーチェに頭を下げると槍を元に戻した。


「アーチェ、お医者さんだったの?」


「昔はね。今はやってないけど、誰もいないなら僕が薬を調合できる」


「それは助かる!! こうしちゃいられない! 俺はすぐに、村人全員にこのことを伝えてくる!」


 オリバーが村に向かって大股で走り出した。大声でアリアが帰ってきたことを伝えると、村人のほぼ全員がアリアの姿を見て安心した顔を浮かべた。アリアがアーチェと手を繋ぎながら、村を歩いていると真っ先に飛んできたのは両親だった。


「アリアー!! 本当に心配したんだぞ!」


 父親は母親を押しのけると、アリアに抱きついて号泣し始めた。オリバーの泣き虫がどこからきているのか、アリアはなんとなく分かる気がした。アリアの母親は父親に怒りを浮かべた瞳を向けたが、すぐに何度も頷き始めた。目は何度も泣き腫らしたことが分かるほど、赤くなっていた。


「よかった、よかった。本当に……」


「いい村だね。さぁ、アリア。弟くんのところに案内してくれ」


「うん!」


 アーチェの言葉にアリアは頷いた。


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