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142.そして被害者は加害者に 外伝


 ●月●日

 

 日記をゴミ捨て場で拾った。今日から印象に残った日をここに書いていこうと思う。今日は父上に蹴り飛ばされた。私が前を歩いていたからだ。気を付けよう。



 ●月●日


 下の妹が学校に行った。いいな。私も行きたい。いつか私も行こう。行けるかな。



 ●月●日


 村のおばあさんが読み聞かせを開いてくれた。私は混ざれないから、子どもたちの後ろの木の陰でこっそり聞いていた。おばあさんの話は面白い。悲劇のヒロインは最後に幸せになるんだって。安心安心。じゃあ、私にもいつか王子様が来るよね。聞いていることに気付かれた他の子どもに石を投げられた。気を付けよう。



 ●月●日


 今日は母親に話しかけられた。嬉しい。邪魔だと言われた。それでも嬉しい。



 ●月●日


 姉に岩から落とされた。飛ぼうとしたけど、飛べなかった。私の翼が半分だけだから。どうして半分なんだろう。私も父上と母上の子供なのに。



 ●月●日


 今日で十四歳になった。段々と白い羽根が落ちてきて、黒くなってきた。暗い私にピッタリの色だと末の妹に言われた。昔は遊んでくれたけど、最近は遊んでくれない。家も物置小屋になった。でも、こっちの方が住みやすいかも。友達もできた。壁にくっついているクモだ。



 ●月●日


 上の姉に川に落ちたペンを取れと言われた。そんなのなかったけど、取りに行ったら、足に矢を打たれた。痛かった。下の姉も笑いながら去っていた。少しだけ悲しかった。でも、金髪の男の人が助けてくれた。人間族だった。母上は人間族は汚い種族だと言っていたけど、全然そんなことなかった。優しかった。今まで出会った誰よりも。その人は医者で私の足を治療してくれた。その姿はまるで王子様みたいだった。碧眼もとても綺麗だった。薬は染みたけど、今日は少し嬉しかった。また会えるかな。



 ●月●日


 少しだけ期待してあの川に行ったら、あの人はまたいた。嬉しかった。あの人は私を見ると、笑顔で手を振ってくれた。名前はティオなんだって。私の名前を聞かれたから、名乗ったらそれは酷い。あんまりな名前だと言われた。この名前、知らなかったけど意味があるんだ。両親が自分に意味のある名前を付けてくれたと思うととても嬉しかった。意味を聞いたけど、ティオは教えてくれなかった。調べると言ったら、それはしなくていいと言われた。よく分からないけど、彼の言う通りにしよう。



 ●月●日

  

 彼は色々なことを教えてくれた。私は学校にも行ってないし、話し相手があまりいなかったから知らないことだらけだった。彼は頭が良かった。穏やかに教えてくれた。お陰で私もだいぶ賢くなった。



 ●月●日


 薬草の名前にかなり詳しくなった。世界のこと、国のこともよく知ることができた。彼といると、ちっぽけな世界に住んでいた自分が輝くような気がした。



 ●月●日


 今日は彼と出会って一年目だった。ティオは私にキスをしてきた。嬉しい。私も彼のことが好きだ。どこから話を聞きつけてきたのか、父上があれと会うのはもう止めろと言った。私の好きな彼を「あれ」と言ったことが許せなかった。生まれて初めて、怒りを覚えた。



 ●月●日



 姉に足をかけられた。転びそうになったところをティオが助けてくれた。彼はいつしか、村にも顔を出すようになっていた。川で会えるのは特別な感じがして好きだったけど、こうして助けてもらえるのは嬉しかった。


 

 ●月●日


 私が木の陰で本を読んでいると、妹が体を押してきた。本が汚れてしまった。ティオがくれた大事な本を汚されたことが許せなかった。妹を川に突き飛ばした。水が羽根に吸収されて上手く泳げないようだった。鳥人の中には水を弾くことができない羽根を持つ者もいる。これは最近、本で知ったことだ。


 

 ●月●日



 妹が死んだ。水辺の事故らしい。父上が私を睨んだ。私は何も知らないよ。足を引っ掛けて、落ちたんじゃないの?



 ●月●日


 ティオが私に告白してくれた。飛び上がりそうなほど、嬉しかった。彼はダイヤのネックレスをくれた。 

私の名前をスネーヴェ(鳥人語でダイヤという意味)にしないかと言ってきた。私は断った。この名前の意味はもう知っている。この名前を変えてしまっては、私は彼等へのこの怒りを忘れてしまうかもしれない。

私はこの名前でいいのだ。



 ●月●日


 ティオが村に住んでくれた。彼は物置小屋を改良して、立派な診療所にした。彼は本当に優しい。結婚は禁止されているけど、誰も私たちを止めることはできない。



 ●月●日


 しばらくして、私のお腹に赤ん坊がいることが分かった。少し不安だったが、ティオはとても喜んでくれた。うん、私は母親になろう。


 

 ●月●日


 母上が訪ねてきた。その子供を殺せと言われた。まだ生まれてもいないのに。私は母上の首を絞め上げた。そしてそのまま崖の下に落として、獣の餌食にした。

 子供には手を出させない。


 

 ●月●日


 父上が訪ねてきた。父上は私を訝しんでいた。流石に私も男の力には勝てない。彼等はティオがいない時に尋ねてくる。本当に心の底から腹が立つ。けれど、自分の娘が家族を殺したなんて、建前を大事にする父上には絶対に公表できないよね。


 

 ●月●日


 子供が生まれた。しかも二人も。お腹の中で育てていたのに全く分からなかった。一人は私にもう一人はティオに似ていた。彼は文字通り舞い上がっていた。

 けれど、その一人の翼はとても小さかった。これでは、空を飛べない。ティオはその子の片割れにルミナスという名前を付けた。その名前は知っている。彼の恩人で恩師らしい。彼らしい名付け方だ。私はもう一人にアーチェと付けた。本当は名前なんて考える余裕はなかった。私の心はぐちゃぐちゃだった。けれど、彼が喜びそうな名前を付けた。



 ●月●日


 子供の翼が小さいなんて、お前は劣っていると父上に言われた。子供の顔なんか一度も見に来たことがないくせに、どこから話を聞きつけてきたのか。



 ●月●日


 村の人全員の目が私に刺さる。こんなにも幸せなのに、どうしてこんなことが気になってしまうのか。村の人が全員私のことを劣っていると思ってる。劣ってる劣ってる劣ってる劣ってる劣ってる劣ってる劣ってる――。


 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい。私は劣ってない。だって、もう一人は飛ぶのに十分な翼を持っている。

 


 ●月●日


 ルミナスが手を伸ばしている。立派な翼。うん、私は劣ってない。アーチェが寝ていた。この子はいつも寝ている。私はルミナスを抱きしめた。この子が私が劣ってないことを証明してくれる。アーチェは――いらない。私は必要な物を持つと、家を出た。

 

 


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