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139.マイナス地点 最終盤

 ダスティンの計画は綿密に練られていた。一度に全員ではなく、少しずつ人づてに計画のことを伝えていく。一度に伝えるとパニックになるため、少しずつ伝える。そして、計画に引きずり込んでいく。その作戦は功をなしているように見えた。段々と協力者が増えていく度に、ソラは少しだけの希望と大きな恐怖を感じた。


 計画に参加する人もどんどんと多くなっていた。最終的に基盤が完成するまでに、一月ほどかかった。ダスティンはかなり時間がかかってしまったと言っていたが、一ヶ月などソラにはとても短い時間に感じられた。


「まず、お前らが鞭を持っている奴等を取り押さえろ。俺はその間に、あいつを仕留める」

 

 ダスティンが腕っぷしに自信がある人たちに頷きかけた。彼の人望は凄まじかった。最初はソラと同じ様に、計画に乗り気ではない人たちもダスティンの言葉を聞いて、みんな気が変わるのだ。これが、他の人であったのなら、上手くはいかないだろう。

 

 ダスティンだからこそ、この計画を成功に導くことができるのだ。この一月ほどの時間で、ソラはそう思うようになっていた。


「いよいよ、明日だね!」


 ロロが興奮がやみ止まぬというように、その言葉を口にした。


「うん……」


 ソラは意識が朦朧としながらも、頷いた。なんだか上手く行き過ぎている気がしなくもない。もちろん、最大限の注意のもとで行われている計画だ。失敗するという方が、無理があるのだ。けれど、ソラは不安でたまらなかった。最後の最後で、自身だけここに残ろうかと思ったぐらいだ。だが、それは許されない。ソラはもうここから逃げる以外に選択肢はないのだ。


「……」


 ロロと目が合った。心配そうな瞳を向けられると、罪悪感で胸が痛くなる。今、自分は最適なことを考えている。それを見透かされているような気にさえなるのだ。


「大丈夫だよ。きっと、全部上手くいくよ」


 ロロがソラの手を握った。一月ほど前と全く同じようにして――。


「うん……」

 

 ソラは頷いた。その言葉で今日という日は終わると思っていた。だが、勢いよく開く扉によって、今日はまだ終わらないのだと思わされた。


「ソラさん! ロロさん! 今っす! 逃げるっすよ!」

  

 それは獣人の兄の方だった。かなり汗をかいているが、冷静な顔だった。


「え! 明日……じゃないの?!」


 ロロが驚いたように立ち上がった。ロロの言う通り、計画の遂行は明日のはずだ。そんなに大事な日を二人して間違えるわけがない。


 驚く二人を見て、彼はニヤリと笑った。


「敵を騙すなら、まず味方からってね! ダスティンさんは案外頭が切れるんっすよ!」



「リヴォルネの奴はかなり頭がいい。俺たちの計画にも気が付いているはずだと思ってな。だから、仲間内にも明日結構だと嘘の情報を伝えておいたんだ」


 獣人の弟は胸を張って真実を話した。ソラはそれはとてもリスクのあることだと思った。仲間を騙すということは、あとあとトラブルがあるかもしれないのだ。しかしこの計画は成功だったと言える。


 鞭を持った男たちは次々と締め上げられており、地に伏していた。何人かが、今までの仕返しだと言わんばかりに、何度も蹴りを喰らわせている。その姿はあまりいいものではなく、人の醜さというものを垣間見ることができた。


「くそー!! お前ら、リヴォルネ様に盾突きおって!」


 一人、拘束から逃れた管理者がこちらに走り込んできた。手には凶器であるナイフが握られている。ソラはロロを後ろにかばうと、ナイフを持った腕を掴み、思いっきり捻り上げた。


「ぐわぁ!」

 

 変な方向に腕を曲げられ、男が叫び声を上げる。ソラはその隙にナイフを取り上げた。


「ナイスだ! ソラ、よくやった!」


 尖った耳をもつ青年が手を上げて叫んだ。そのまま男を取り押さえると、素早い動きで縛り上げた。


「ソラ、凄いや」


 ロロが感心したように吐露した。


「それにしてもダスティンさん。遅いっすね。もう遂行してるころだと思うんすっけど」


 獣人の兄が腕を組んだ。弟も兄と同じ仕草をする。ダスティンは現在、リヴォルネを封じに行っているのだ。帰りが遅いと心配になるのも無理はない。他の者は締め上げたのだから、リヴォルネを無力化すれば、ここから何の障壁もなく逃げられるのだ。


「あ、ダスティンさんだ!」


「待って、ロロ」


「ソラ?」


 ロロが暗闇を指差して、嬉しそうに前に進み出た。だが、ソラは嫌な気配を感じたため、ロロの服の裾を掴んで腕の中に抱え込んだ。暗闇の中からダスティンの顔が覗いている。そのことに少しホッとしつつも、なぜだか気分が悪かった。


「遅いっすよ! ダスティンさん! もうみんな、待ちくたびれちゃいましたよ!」


 いつものような軽いノリで獣人の兄は近づいていく。ソラは軽く止めようとしたが、間に合わなかった。そもそも本気で止めようとしたなら、ロロを離してしまうことになる。そのことの方が余程恐ろしい。


「あれ……?」


 彼の声を聞いたのはこれが最後だった。一瞬の隙に、獣人に兄は頭を落とされてしまった。最後のは何も目の前の光景を理解できない空虚な声だった。


 ゆっくりとダスティンの全貌が顕になった。そこには、ダスティンの頭を持っているリヴォルネの姿があった。


 ソラはロロを強く抱きしめた。



「うぅ……」


 ソラは瓦礫の下から這いずって出ようとした。足が挟まってしまっているため、時間が掛かってしまう。あの後のことは思い出したくもなかった。リヴォルネが次々と、逃げ惑う奴隷たちを殺し始めたのだ。ソラはロロを守ろうとしたが、離れ離れになってしまった。少しだけ目を動かすだけでも、多数の死体が目に入る。ロロも無事かどうかは分からない。


「うっ!!」


 その瞬間、ロロの呻くような声が聞こえた。ソラは足が折れてしまうのも構わず、思いっきり体を外に出した。片足は激痛だが、歩けないことはない。逸る気持ちを抑えて、ソラは声が聞こえた方向に向けて走り始めた。ソラが生きる意味も理由もロロを守ること以外にはなかった。


 道中、数え切れないほどの死体を目にした。辺り一面、血の海だ。そこには獣人の兄弟の亡骸もあった。ソラたちに気さくに接してくれた兄弟だ。


(あの、兄弟の名前なんだっけ……? 結局、最後まで覚えられなかった)


 ソラは雑念を抑えると、ひたすら走り続けた。瓦礫を避け、ひらけた場所に出たところにロロはいた。目の前にはリヴォルネも一緒だった。そこで、ソラは信じられない光景を目にした。


「もう、逃げるから余計なところが切れちゃったじゃない」


「うぅ……」


「ほら、大人しくしてて。そうすれば、一瞬で取ってあげるから」


 リヴォルネが優しくロロの顔を撫でている。リヴォルネの手にはナイフが握られていた。彼女の目はロロの瞳に釘付けだった。しかし、それ以上にソラの視界を奪ったのは、ロロの左足だった。いや、左足だったものと言うべきだ。ロロの左足があった箇所からは大量の血が流れていた。


 その光景を理解できた瞬間、ソラの中に今まで感じたことがないほどの怒りが沸き起こった。これを怒りと言っていいのかすら分からなかった。気が付くと、ソラはリヴォルネの手からナイフを奪い取っていた。

  

 そして、彼女の体を刺し続けた。未だかつて、ここまで人を傷つけたいと思ったことはない。ソラはリヴォルネの動きが刺す度に、どんどんと鈍くなっていくのを見て、自身を芸術家のように感じていた。自分はこうして作品を創っているのだ。この流れる赤い絵の具で作品を描き続ければいい。


(あぁ、そうか。最初からこうしてればよかったんだ。邪魔な人は、消してしまえばいいんだ)


 その考えに辿り着くと、とても心が楽になった。だからこそソラはこの手を止めてはならないのだ。もっともっともっともっと――。


「もっと、もっと描かなきゃ」


「ソラ! もうやめて!」

 

 背後からロロが抱きついてきた。ソラは反射的に動き、ロロの腕を振り払う。その拍子に、彼の腕が宙を舞った。ロロは体勢を崩して倒れ込む。赤い鮮血がその場に滴った。


 静まり返った空気の中で、ロロのうめく声が聞こえた。


 ソラは微かに笑った。小さく、静かに、どこか危うい色を帯びて。


 自身が何をしたのか、しばらく気が付かないまま――。

 

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