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128.人魚の国

「なぁ、ここは本当にどうなってるんだ?」


「さぁ、私にもさっぱり」


 ロロの戸惑う声にソラはそう返すことしかできなかった。水に飲まれたと思ったら、こんなところにいたのだ。あまりよく状況を飲み込むことができない。


「海の中だー!」


 ラーフラは特に気にする様子もなく、海の中を自由に探索している。ラーフラの歳は知らないが、流石に呑気過ぎだと思ってしまう。そもそも、船が沈没したのはラーフラの責任なのだ。少しは申し訳なさを感じてほしいというものだ。

  

 ソラたちは気が付くと、海の中にいた。海の中だと言うのに、呼吸もできるし歩くこともできる。歩くことは、水の流れがあり上手くできないが、歩けないということはない。

 

 けれど、少しでも足を外すと、体が上下反対になってしまうため、方向感覚も狂ってしまう。水の中が苦手なこともあり、ソラはこの感覚に戸惑っていた。

  

 ラーフラはそんな様子もなく、水の中を泳いでいた。その様子は海鳥のようで、案外空を飛ぶことと海を泳ぐことは似たようなものなのかもしれないと思った。


「凄い、家もあるぞ」


 ロロが辺りを楽しそうに見渡していた。周りにはサンゴで造られたような家が建っており、その中からチラチラとこちらを覗いている目があることに気が付いた。怯えているようで、こちらには近づいては来ない。


「あ、皆さん! 海化(かいか)処理が無事に終わったようで、何よりです!」


「え、人魚?!」


 上から聞こえてきた声の正体はフラワーだった。楽しそうに海の中を泳いでおり、その表情にはすっきりと笑顔が戻っている。船からは逃げることができたようだ。ロロが驚いているのが伝わってくるが、ソラはスルーしてフラワーに目線を送った。


「フラワー、逃げられたんだね」


「そうなんです! 水の流れに沿って、逃げましたのよ!」

 

 フラワーは嬉しそうにそう答えた。そうすると、サンゴの家から覗いている目も、フラワーの仲間だろう。他の人魚の姿も見てみたくなったが、ソラは我慢した。あちらが恐れている限り、こちらから行くべきではないだろう。


「おい、何かの幻覚じゃないよな?」

 

 ロロが自身の目をこすり、目の前の存在に驚いたままだ。普通はそんな反応になるだろう。ソラも初めてその姿を見たとき、同じように驚いたのだから。


「はい、私たちは実在しています」 


「す、すげー!」


 ロロは目の前の人魚が本当の存在だということに、感動すらしている様子だった。人魚についてロロと語りたい気持ちもあるが、今はフラワーに聞きたいことだらけだ。  


「ねぇ、金髪の子を知らない?」

  

 今姿が見えないのはアーチェだけだ。ロロと一緒にいたはずだが、見当たらない。何かがあったのではと、不安になってしまう。


「私が仲間を呼んで、他の者にも運ぶのを助けてもらいましたから。どこか別の場所で海化処理をされて、お目覚めだと思います。匂いが似ていたので、すぐにお仲間様だと分かりましたわ!」


 その答えにソラはホッとした。この海の中で沈んだとあれば、無事で済んでいる可能性は低かったからだ。


「そうなんだ、ありがとう。その……フラワー、海化処理っていうのは?」


「海化処理は、鰓呼吸ができない種族さんのための適応措置ですよ。これをすると、水の中でも呼吸ができるようになるのです。三日間限定ですけれど!」


「へぇ! 不思議な措置もあるんだな」   


 ロロは目を輝かせて、海化処理の存在を受け入れていた。小さい頃、ロロが海の中を泳ぐことに憧れていたことを思い出す。この状況はロロにとって非常に喜ばしいことなのだろう。

 しかしソラからすれば、こんなのいつトラブルに巻き込まれるか分かったものではない。早く、地上の土を踏みたいところだ。


「おーい! フラワーちゃん! もう一人、連れてきたよー!」


「あ、イシリンダちゃん!」

  

 フラワーが豆粒ほどの小さな影に手を振った。ソラは目を細めてみたが、誰が近づいてきているか確認できなかった。それぐらい小さな影なのだ。


 しばらくして、イシリンダと呼ばれた人魚がアーチェの手を引いているのが分かった。手を引かれていると言うよりも、あれは引きずられているという方が正しいが――。


「アーチェのやつ、元気そうだな」


 ロロが胸をなで下ろしていた。


「到着ー!」


「うわぁ!」


 イシリンダが急停止をしたため、手を離されたアーチェはそのままサンゴの群生地に突っ込む形となった。あっという間に、アーチェの体はサンゴだらけになってしまう。


「あら、貴重なサンゴが……」  


「へへへ、ごめんね。アーチェ! 結構、吹っ飛ばしちゃった! 痛くはない?」


 イシリンダがやってしまったと言いたげに、頬をかいた。かなりやんちゃそうな子だ。アーチェはかなり苦労をしたのだろう。目からは疲れが確認できた。


「痛くはないかな? 大丈夫だよ」


 アーチェは服に散らばったサンゴを手で払っている。


「アーチェだ! 久しぶりー!」


「あれからそんなに時間は経ってないと思うんだけど」


 ラーフラに飛びつかれたアーチェは、ラーフラを引き離そうとしたがそんな力は残っていないようだ。ラーフラのいいようにされていた。


「これで、皆さん揃われましたね! 女王様が私をお救いいただいたお礼をしたいと言っているんです! ぜひ、お会いしてくださいまし!」


「なんだ、一人魚を助けたのだけなのに随分と丁寧なんだな。つーか、助けたってどういうことだ? 俺たちが助けられた側じゃないのか?」


「僕もちょっと分からないんだけど……」


 ロロとアーチェが話を理解できないというように、混乱していた。二人からすれば、この状況は理解できないものだろう。

 そもそも、船が沈んだのはソラたちの責任でもある。そうすると助けられたのか、助けたのかよく分からない状況だ。あとで、ロロにもアーチェにも詳しく説明をすることにしよう。

 

「当然と言えば当然だよ! フラワーは女王様の一人娘なんだから!」


 イシリンダがロロの発言を聞いて、胸を張った。


「え……」


 ソラが驚いていると、フラワーはその場でクルッと回ると、一礼をした。胸に手を当てて、言葉を紡ぐ。


「申し遅れました。私の名前はフラワー・アクアミラーといいます。人魚の国、サンゴシティーの第一王女です」

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