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空白のアデア―空を継ぐ者たち―  作者: 月夜 ダイヤ
3章 勇者の目覚め
121/172

120.分かれ目

 アーチェは懐に入れた宝玉を取り出した。見ているだけで目が奪われる玉だ。それは、アーチェが希望を抱いて見ているせいなのか、もともとの美しさなのかは判別がつかなかった。


 背後を振り返る。その回数もすでに何度目か分からなくなっていた。周りは寝静まっており、アーチェは皆から少し離れたところに座っていた。ソラやロロからは宝玉のことは何も言われていない。二人ともこれには興味がない様子だった。


 そうだというのに、こうして後ろを気にしてしまうのはなんとも情けないことだ。アーチェはその宝玉をそっと撫でた。触れたら壊れてしまいそうと思ったからだ。

 しかし、それは壊れることはなかった。きっと、アーチェが思いっ切り握りしめたとしても、壊せないほどの耐久力があるのだろう。流石、国宝として扱われるだけのことはある。


「これがあれば……」


 これこそがアーチェがこの世で最も欲しかったものだ。アデアへの探索に参加したのも、ローテリヴァ王国に眠ると言われているこの宝玉を手に入れるためだった。それがまさか、この世に二つあるなどとは思いもしなかった。


「転成の輝石」


 それこそがこの宝玉の名前であった。転成の輝石は使った者の種族を変えることができると噂の神からの賜物だと言われている。アーチェ自身、それを心から信じていたわけでもなかった。だが、その魅力から逃れることはできなかった。現にこうして自分自身の手にそれを掴んでいる。


「っ……」


 純潔な鳥人になること。それは願ってもかなわない夢だと考えていた。アーチェは鳥人が心の底から嫌いだ。けれど、そんな彼等と同じになりたいという、矛盾した願望があった。

 大空を飛ぶことを渇望している幼い自分がいつまで経っても、消えない。草原に寝転がり、空に手を伸ばすことの惨めなことはない。


「これさえあれば、僕も鳥人に……」


 そんなことを打ち明けたら、二人はどんな反応をするだろうか。ソラもロロもきっと取り上げたりなんかしないだろう。あの二人はそんな人ではない。


 しかし、鳥人になったら二人とはどうなってしまうのか。それを考えるだけで、気分が沈んだ。アーチェは幼い頃から、自分自身の居場所が欲しかった。誰にも馬鹿にされることなく、平穏に過ごせる人や場所が欲しかったのだ。アーチェは今、それを手に入れている。


 ソラもロロもアーチェにとって、なくてはいけない存在となっていた。この宝玉を使ってしまえば、アーチェが二人といる意味も、意義もなくなるのではないか。そんな思いがアーチェの中で交錯していた。


「悩んでるの?」


「ソラ?!」

  

 横から聞こえた声。視線を動かすと、ソラがこちらを覗き込んでいた。その綺麗な瞳に思わず、目を逸らす。その瞳に見られていると、考えていることが露呈してしまいそうだ。


「隣、座るよ」


 ソラはアーチェの隣に座り込んだ。隣いい?でもなく、座るよと言うところも好きだ。砂漠では、星が綺麗に見える。こんなことが、前にもあったとアーチェは思い返した。

 アーチェが父親が星を見せてくれたときのことを思い出しながら、星を見ているとソラが後ろから話しかけてきたのだ。あれはもう半年近く前になる。あれから随分と遠くまで来てしまった。


「転成の輝石だね」


「ソラは知ってるの?!」


 ソラがアーチェが持っていたものに気付き、呟いた。その名称を言ったことに対してアーチェは驚く。


「私も考えたことがある」


「そっか……」


 種族で悩んだことがあるのは自分だけではないと、アーチェはホッとする気持ちを抑えた。シルバーブラッドである彼女には同族がいない。

 また奇異の目で見られることから、アーチェと同じ願いを抱いたことがあるのだろう。ソラがどんな種族になろうとしたのか、少し気になった。けれど、自身の種族を変えることができれば、どの種族でもいいのかもしれない。


「それを使おうとしてるの?」


「まだ悩んでる。本当にこれでいいのか。でも、この気持ちを抑えることができるのか、分からない」


「……」


 それからしばらく長い沈黙が続いた。ソラが何を考えているのか、気持ちが分かればどんなにいいだろう。しかし、それは叶わないことだ。


「空を飛べるってそんなにいいことかな?」


 ソラは空を飛ぶ鳥を見ていた。それは砂漠の暗闇を静かに飛んでいた。


「いいことさ! 空を飛べたら、どこにだっていけるんだ。僕は空に憧れてるんだよ。それに――」


 ソラが呟いた言葉に、アーチェは食い気味に言葉を返していた。そう言えば、ソラの名前は空だということに今さら意識を向けられる。 


 いきなりの大声にソラは少し驚いた顔をしたが、アーチェが言うことができなかった言葉を紡いだ。


「胸を張って生きられるから?」


「ソラには隠し事はできないなぁ」


 アーチェは笑みを浮かべた。同じ悩みを抱いた者であるだけあって、ソラには気持ちが当てられるようだ。


「アーチェは――」


「うん?」


 アーチェは言葉を聞き返した。ソラはなにかを迷っているようにも見えた。しかし、アーチェの目を見返して、言葉を続けた。


「アーチェは自分の翼がとても価値がないものだと思ってる。それが私には――すごくさみしい」


 彼女の言葉は夜の闇に響いた。

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