118.置き見上げ
「ローベって、あの門兵の人……?」
ソラは腕を組んだ。ローベという名前には聞き覚えがある。ラーデンと親しそうに話していた青年だ。どことなく、印象に残らない顔立ちなので思い出すのに時間がかかった。ソラはローベよりも、ローベが背負っていた女性の存在が気になった。意識を失っているように見えるが、その顔立ちは忘れはいない。
「女王様はまだお目覚めになりませんし、君たちもここから離れた方がいいよ」
「そうはしたいけど、まず状況を説明してほしいな」
ローベの言葉にロロは食い気味に返事をする。ローベは説明をしにくいというように、頭を掻いた。
「この国にはこの国の事情があるんだ。今、言えることは君たちが国家転覆の犯人にされてるってことだね」
「どうしてそんなことに……?」
ソラは一番気になっていることを聞いた。ソラたちにしてみれば、詳しい話を聞きたいところだ。
「多分、これが原因だ。ラーデンが女王に渡さずに、隠し持っていたようだ」
ローベは乱暴に丸められた紙をポケットから取り出した。慌てて持ってきたという感じだ。ソラはそれを受け取った。開いてみると、紙にはビッシリと文字が書いてあった。
写真がいくつかプリントされているが、使われている文字はかなり難しく、部分的にしか読むことができなかった。
「これ、何かの新聞? ロロ、読んで」
ソラは、後から覗き込むように紙を眺めていたロロに紙を渡した。ロロの方がソラよりもアデアの文字が読める。
「うーん、あぁ。なになに、レトリエを滅ぼしたのは勇者であった……。なんだ、これ?! こんなの、嘘だぞ!」
読み終わったロロは乱暴に紙を丸めて投げ飛ばした。それをアーチェが屈んで拾い上げる。アーチェも新聞の内容に目を通しているようだ。
「誰かが勘違いして証言してるのかな?」
「そんなわけないだろ?! レトリエの人間は信用できない!」
ソラはレトリエのことを思い出した。レトリエの人間たちの姿といえば、リトの家に火をつけた姿しか思い浮かばない。けれど、何かを誤解しているのは確かだ。
「ちょっ、ちょっと貸して!」
話を聞いていたアユリアがアーチェから新聞を取り上げた。そして、それを読むなりワナワナとふるえだした。
「なんてこと?! レトリエで生き残った数人が証言してるってことだわ!」
数人。レトリエの人口はカーデランよりもずっと多かったはずなので、その人口はかなりの数だっただろう。あの火の威力ではそこまでの人数しか生き残らなかったのだ。
リトとヘリオは森にいたから無事だと信じたいが、それでも心配だ。そのためにも、早めにサハルディアを離れた方がいい。
「僕たちのせいじゃないけれど、そのせいでサハルディアでも犯人に仕立て上げやすかったってことだね」
「女王は死んだことにされているし、ラーデンがこの先この国を仕切るだろう。女王の無事を伝えようとしても、ラーデンの息が掛かっている人が殆どだろうから、難しいだろう。俺も誤解を解いてやりたいんだが、すまない」
「この国はそんなにトップに人望がないのか?」
ロロが口を尖らせる。ラーデンがどれだけ周到に策を練っていようと、女王本人に人望がなければ、できない作戦だ。
失礼な発言をしたロロをローベが睨みつけた。女王を庇っていることといい、女王への忠誠は確かなようだ。しかし、それは友達を庇うようなそんな表情にも見えた。だが、すぐに表情を元に戻した。
「先代がかなり酷い方だったから、王家に恨みを持っている人は多いね。けれど、このままだと君たちに申し訳ないから、これを上げよう。なんとか城からくすねてきたんだ」
ローベは、腰に身に付けている革袋から金色の宝玉を取り出した。それは淡い光に包まれて輝いており、目を引かれてしまう。ローベはそれを一番近くにいたアーチェに手渡した。
「これ……」
アーチェがそれを見て、僅かに目を見張った。彼は王宮でもこの宝玉を見て、目を見張っていたことをソラは覚えている。ローベは愛想よく笑いかけた。
「綺麗だろ? なにかは分からないんだけど、こんなに綺麗なんだから高く売れると思うよ」
ローベにその宝玉の価値は分からないらしい。けれど、ソラはそれがなにかを知っている。自分自身に悩んだことがある者なら、一度は望むもののはずだ。
「これ、なんだか見たことあるな……」
ロロが宝玉を遠目で見つめていた。ローテリヴァ王国もかなり国宝を保管してあるため、同じものを見たことがあるのかもしれない。
「あとこれ。ポートランドの船に乗れるチケットだ。じゃあ、俺は行くから」
「ポートランドって港の?」
ソラは宝玉に見惚れているアーチェの代わりに、チケットを受け取った。チケットはちょうど人数分あった。
「そうだ。俺たちはその反対側を目指す。王家と縁がある小さな街があるから、そこを経由して逃げるつもりだ」
「どこも複雑な事情があるようだな」
ローベの最後の言葉を聞き、エドワードが顔をしかめた。
彼等が砂漠の国を去って往くのを、ソラたちはただ見ていることしかできなかった。




