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空白のアデア―空を継ぐ者たち―  作者: 月夜 ダイヤ
3章 勇者の目覚め
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117.ラーフラの願望

 見境のない撃ち方だ。敵の兵士たちが騒ぎながら、逃げ惑う。


 不運にもアーチェのシャンデリアにそれは当たった。シャンデリアが天井から外れ、アーチェの体が宙へと放り出される。その衝撃に対処する前に、誰かに体を抱きかかえられた。


「大丈夫? アーチェ?」


 受け止めたのはソラだった。彼女は剣を投げ出し、左手一本でアーチェをどこかの姫のように抱きかかえていた。


「だ、大丈夫!!」


 アーチェは顔が赤らむのを感じながら、彼女の手から逃れた。また助けられてしまった。その思いが頭の中を行き交っていた。そんな二人のやり取りはいざ知らず、光の筋はまだ乱暴に撃たれたままだ。


 それは壁に当たり、屈折しながらまた流れるのを繰り返す。誰かに当たらないと、その魔法は消えないようだった。


「わっ!」


 足元に飛んできた光の筋をアーチェは交わした。ソラも体を少し動かすだけで、光の動きを交わしている。その動きは自然で、どこから光が飛んできてどこに飛んでいくのか理解しているような動きだ。


「俺にも当たってるぞ!!」

 

 光を上手く避けられなかったロロが、服を焦がされていた。逃げ惑いながらも、こちらに辿り着いたようだ。かなり疲弊しているのが分かる。 

 

 しかし、大きな怪我はしていなかった。ロロは戦いの場でも切り抜けてしまうことが多い。真似をするためにもあとで、コツを教えてもらうことに決めた。


「宿屋で休みたい」


 ロロはポツリと呟いた。それは誰かに話しかけているというよりも、不意に呟いた独り言に思えた。しかし、その思いには大いに共感ができる。


「僕もだよ」


「私も」


 ソラも珍しく同調した。彼女も肩で息をしていて、疲れているのが分かる。こうしている場合ではない。早く彼女の治療をするためにも、この場から離れなくてはいけない。


「逃げよう」


 ソラは手に持つ勇者の剣で窓を叩き割った。大胆な行動だ。勇者の剣をそのように使った彼女の姿を見たら、レオナード国王は卒倒してしまうかもしれない。

 

 しかし、ロロは気にする様子もなく、窓に足をかけた。


「来いよ、アーチェ」


 彼に肩を掴まれる。アユリアの姿を気にしていたのはアーチェだけだった。彼女はとっくに姿を消していた。今、踊り場に残っているのは無尽蔵に暴れ回る光の魔法だけだった。皆、生きる能力が高いとアーチェは苦笑しながらも、彼等についていく。


◆ 


「全く、どうなってんだ。この街は……。人っ子一人いないし」


 ロロは辺りをグルグルと見渡すと、ため息をついた。街の住民は寝静まっているのかと思いきや、誰一人として家の中にはいないことが分かった。


「多分、どこかに避難してるんじゃないかな」


「避難? どうして、避難なんかするんだ!」


 アーチェの言葉にロロが首を傾げた。


「ラーデンが言ってたでしょ? 僕たちが女王を殺したって。きっと、罠にはめられたんだよ」


「分からないなぁ。なんで、ラーデンがそんなことをする必要があるんだ」


「僕もそれは分からない」 


「壊したかったんじゃないかな」


 ソラはこの場で発言するつもりはなかったが、踊り場に現れた彼の目を思い出して、つい口に出てしまっていた。


「壊す?」


 ロロがソラの言葉をオウム返しする。ソラは出てしまった言葉だから仕方がないと思い、頷いた。


「うん。彼はなんとなくだけど、自暴自棄になっているように見えたよ」


 ラーデンのあの瞳。あれは全てにおいて追い込まれた人間の瞳だ。彼には何か抱えているものがあって、その重圧から解放されようと、今回の騒動を引き起こしたのではないか。


 それが何かはソラには分からないし、知ることもないだろう。だが、この考えは当たっているような気がした。もちろん、何の根拠もないが――。


「あー、なるほど。つまり、どういう理由にしろ俺等はいいように利用されたってことだろ? 腹が立って仕方ない!」


 ロロは不貞腐れた。ソラたちは冤罪をなすりつけられている。このままでは、不利益を被ることは確実と言えた。気分を害すのも無理はないのだ。ソラたちは完全にこの国の事情に巻き込まれている。


「私はあんまり話が分からないんだけど。それより、ハク様がどこか知らない?」


 アユリアがキョロキョロと辺りを見渡しながら、しゃがみ込んでいるエドワードに尋ねた。彼が顔を上げたのを見て、ロロは背を向けた。ロロの特徴的な目の色を見れば、誰かは分かってしまうだろう。


「私が知るわけないだろう? そもそも、そのハクっていう奴すら知らないんだ」


「何よ! 使いものにならないわね!」


「何だと! 王子である私に無礼だ!!」


「あんたのどこか王子よ! ただのコスプレ野郎でしょ?!」

  

 アユリアの物怖じしない言葉に、エドワードが反発する。彼は貧血で調子が悪そうだ。アユリアの声が頭に響いたのか、耳を押さえた。


 彼はアーチェの治療により、すっかり回復していた。もちろん、ソラと、彼自身の右手もだ。


 彼がいつの間にか、回復魔法を使えることにソラは驚いていた。しかし、雷魔法も使えたのだから、それは当然と言えば当然なのかもしれない。ソラは右手を握りしめた。これで、また戦うことができそうだ。

 

 アユリアの瞳は心配そうに揺らいでいる。アユリアは良からぬ気配を感じ、城に駆けつけてくれたのだ。


 ハクはようやく、アユリアから解放され、再び拘束される前にこの国を去ったのだろう。彼の安堵している表情が目に浮かんだ。突然現れて、突然消える風のような人だとソラは思った。


「まぁまぁ、二人とも落ち着こうよ〜」


 二人はまだ言い争いを続けている。傍で様子を見守っていたラーフラが二人を宥めようと、仲裁に入った。その姿はアーチェのようだと、一瞬だけ思う。


「もう! 元はといえば、ラーフラがきちんと見張らなかったからでしょ? 貴方がきちんと見張っていれば、こんなことは起きなかったのよー! せっかく、ハク様とお近づきになれるチャンスだったのに!」


 アユリアはかなりハクに本気のようだ。彼女はハクがシルバーブラッドだと知っているのだろうか。知っていて、あの態度ならば逆に凄い。しかし、彼女の盲目ぶりを見るに、知らないという方がしっくりきた。


「色恋沙汰ってやつ? 俺、そういうのよく分からないからな〜」


 ラーフラはアユリアの気迫に気圧されることもなく、流れるように受け答えをしている。彼のその態度は世の中の悪いことを、全て受け流してしまいそうだ。彼のような生き方が羨ましい。


「ラーフラ、貴方は恋をしたことがないの?」


 アユリアは信じられないものを見るような目をした。彼女にとって恋というのは、して当たり前のもののようだ。ラーフラは首をひねった。心底、面倒くさそうな顔をしている。だが、感情的なアユリアと受け身のラーフラの会話の相性は、今の感じではそんなに悪くない。


「うーん、ないなぁ。俺はパートナーを探してるから」


「それって、恋人のこと? それとも、結婚相手?」


「なんか違うなぁ。俺が探してるのは、人生を一緒に歩む人みたいな? 俺の分身みたいなそんな感じ?」


 ラーフラは自分で言っていて、あまり自信がない様子だった。そんなことを前にもラーフラは言っていた。


「じゃあ、結婚相手ってことじゃない! 鳥人ていうことは貴方はもう大人よね? 婚期を逃さない方がいいわよ!」


 アユリアはラーフラの言葉を好き勝手に解釈している。恐らく、彼が言っているのはそういうことではない。ラーフラの求めているものは、親友に近いのではないかとソラは思ってしまう。


「貴様がそんなことを考えているとは意外だったな」


 会話を聞いていたエドワードが、意外そうに腕を組んだ。


「あ、でもエドワードは勘弁! 硬派すぎて、俺にはあり得ないや」


「私の方が願い下げだ!! 貴様がすぐに私を見捨てたことは、忘れないからな」


 エドワードが初めて年相応の顔を見せる。なるほど、彼の素はこんな感じなのか。その表情はロロにそっくりだ。そして、予想はしていたが、ラーフラはあっけなくエドワードを見捨てていたようだ。

 

 ここまでくると怒る気も失せるのだろう。エドワードはそれ以上、何も言うつもりはないという態度だ。ラーフラはフラフラと砂の上でグルグルと回転している。


「あ、ごめん!」


 ラーフラは誰かにぶつかると、その場で回転するのをやめた。


「お前たち、相変わらず元気だな」 


「あ、ローベ!」


 アーチェがその人物の名を呼んだ。



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