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空白のアデア―空を継ぐ者たち―  作者: 月夜 ダイヤ
3章 勇者の目覚め
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111.揺れる刃

 女王は黒鎧のスコーピオン討伐の知らせを、今か今かと待っていた。玉座に座り、ただ待ち侘びる。そんな静かな時間を妨げたのは、幼い少女の声だった。


「女王様……」  


「こら! いけません! ネフェタリア、勝手にお城に入っては!」


 小さな少女が玉座の間に入り込んで来ていた。その子の母親、ハルフラーが慌てて娘を取り押さえる。門兵が追いかけて来ていることから、警備に不手際があり侵入を許してしまったのだろう。


「女王様、お花をどうぞ!」


 ネフェタリアは小さな両手に握られた赤い花を差し出した。決して立派とは言えない花だ。しかし、幼い少女が差し出すそれは、どんな花よりも美しかった。


 兵士とハルフラーが固唾を飲んで、女王の次の行動を見守っていた。彼等は恐れている。自身をいつでも裁ける存在を――。そして、それはときに良くない者に渡ってしまう権威なのだろう。


 女王はおずおずとした少女に優しい笑みをこぼした。


「ありがとう、ネフェタリア。大事にしよう」


 赤い花を受け取ると、ネフェタリアは嬉しそうに微笑んだ。彼女は知っていたのだ。テラスから、女王が、いつも自分自身が世話している花を見ていることを――。そして、その花をこうして届けて来てくれたのだ。こんなに愛おしいことがあろうか。


「女王様! 本当に、申し訳ございません!」


「よいよい、ハルフラーも健在で何より」


 ハルフラーが娘を取り押さえた。ネフェタリアの方は、母親のことは全く気にせず、こちらに手を振り続けている。女王も手を振り返す。


 やがて門兵が一礼をして戻っていく。玉座には、またもや静寂が訪れた。女王はテラス席へと足を運んだ。


 目下に揺れる篝火を見下ろす。今日も砂漠の街は平和であった。この先も永遠に平和が続くことを彼女は願っていた。自身の母親、先代のことを思い出し女王は両肩を摑んだ。二度とあのようなことを繰り返してはいけないと、胸に刻む。テラスから毎日のように街を見守るのもそのためだった。


 上に立つ者はつねに、自身を慕ってくれている者を守らなくてはいけない。それは使命であり、責務だった。いや、それ以上に女王はこの街のことが――サハルディアが好きなのだ。


 今の時刻は夕方だった。街の者は家に籠もる準備をしていた。夜は冷えるので、家の中にいなくてはならない。自分もこうしている場合ではないと、テラスから部屋に戻った。そのまま自室に戻り、今日の報告を確認するつもりだ。


 最近は勇者が現れたなどと、幸運な知らせがあった。そして、恐らくソラがその勇者だろう。勇者の剣は、レオナード王国との交流会のときに見たことがあった。そのときは、誰にも触られることはなく収められていたものだ。


 レオナード王国とは先代はかなり揉めていた。先代が勇者の剣を守る役割を引き取りたいと、駄々をこねたのだ。しかし、レオナード王国の方がどう考えても適任であった。そのおかげで王位を譲り受けるまで、かの王国とは距離が空いてしまっていた。


 だからこそ、交流会でレオナード国王の人柄に救われたものだ。あの国は治安も良い。それはひとえに治める者の品位を表しているのだと、女王は考えていた。そして、それを自分自身も実行しなくてはいけない。


 あんなに人柄が優れた王に、跡継ぎがいないことが悔やまれてならない。そんなことを考えながら、自室に辿り着く。そのままドアノブを捻ろうとした。


「女王様」


「ラーデン」

  

 背後にはラーデンが立っていた。黒鎧のスコーピオン退治の案内人として狩り出た彼が、なぜ単独でここにいるのかと考えを巡らせる。それと同時に、彼に声かけられるまで気が付いていなかった自分自身を叱責した。


「なぜ、こんなところに?」


 女王は辺りを見渡した。ここにはラーデンと自分以外は誰もいない。元々警備兵をつけていないのだ。誰もいるはずがなかった。


「別に……俺は報告に来たんっすよ」


 ラーデンは飄々として言いのけた。その笑顔は幼い頃の彼の姿と重なった。一つ年上の彼の幼い顔が思い浮かぶ。


「スコーピオンは……?」


 女王は開口一番にそう言った。この討伐には、勇者一行の力を見定めるためでもあった。ラーデンの態度から何もないとは思うが、やはり色々な憶測が飛び交ってしまう。


「倒されました。流石、勇者の力です」


「そうか、怪我はないか?」


 女王はラーデンの体を眺めた。鎧に包まれているため目視では分からない。


「勇者様方は少し怪我をしているようでした! 俺は報告のためにいち早く戻った次第です!」


「相変わらず、変わった奴だな。妾が心配しているのは、お前のことだ」


 彼女がラーデンの肩を撫でると、ラーデンは一瞬だけ驚いた顔を見せるが、すぐにおどけた表情に戻った。


「! あいにく、大丈夫っすよ。ほんと」


「それならば良かった」


「女王様こそ、相変わらずっすね。あんな、庶民の顔と名前もしっかり覚えているなんて」


「どこかで見ていたのか?」

  

 女王は目を細めた。あのやり取りをラーデンは見ていたのだ。ラーデンの言っていることは事実だ。女王として、街に生きる者の全ての顔と名前を把握している。


「まぁ、そうっすね」


 覗き見をしていたというのに、ラーデンはちっとも悪びれた様子がない。


「まぁいい。妾は書類整理があるでな」


「了解っす!」


 意図を汲み取ったラーデンは、敬礼のポーズをすると、廊下を駆けていった。


 ラーデンがいなくなったのを確認してから、女王は自室のドアノブに手をかけた。そこで違和感に気が付いた。自身の胸から出ているその物体に――。

 その物体の下からは赤い液体が流れていて、床を濡らしていた。


「お人好しだな。もっと警戒すべきだ」


 背後に回ったラーデンがナイフを女王に突き刺していたのだった



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