107.集合
「俺は爺ちゃんがいるんすけどね。でー、俺の爺ちゃんったら、何度言っても俺の名前を覚えなくて、これで俺の名前聞くの何百回目かよく分からなくなってきましてね!」
「ねぇ、私もその話を聞くの何百回目なんだけど」
ラーデンの話はつねにどこかしらが異なっているが、大まかにはずっと同じこと話している。お陰で少しの間話を聞いてただけだというのに、すっかりと疲れてしまった。当の本人は全く疲れた様子がなく、一体どうなっているんだと思う。
「そんなに、話したっすかね? あ、じゃあこの話はどうっす? 近所に飛ばしたスイカの種から木が生えたって言う話は?」
「興味ない、だいたいスイカは木にならないでしょ?」
面白味もない話だ。黒鎧のスコーピオンのところまで案内してもらうことになっているが、こうなっては地図に印をつけてもらった方がいいのかもしれない。
確か砂漠の宿泊施設に地図があったことを思い出す。
アーチェが持っている地図は近頃は目を通していない。この地の地図を持って帰ればとも思うが、自分たちで偽造したのかと疑われるかもしれない。それに、ソラには戻る理由もない。いちいち言わなくてもいい話だ。
「ソラ、俺が相手してやるよ。この際だから仕方がない」
「ロロは、俺とあんまり相性良くないと思うんすけど。どうせなら、アーチェがいいっすね」
アーチェは誰彼構わず、仲良くなってしまうことが多い。ラーデンにも気に入られたようで、ロロよりは話し相手に最適だと思われたのだろう。ロロのことだから、長い話にはついていけそうにない。
ロロのそんな様子を見ていると、エドワードのことを伝えようと思ったが、どうにも口に出せなくなってしまう。それにはまずラーフラのことを話さなくてはならないのだから、ややこしい問題だ。話したところで何も問題はないのだが――。
「どういう意味だよ?! うちのアーチェは疲れてるんだ。お前には貸せない」
「あの、僕は借り物じゃないんだけど」
ロロの言葉を耳にしたアーチェは目を細めた。砂漠地帯だが、今日のアーチェは疲れていない。砂漠地帯の服は通気性が良いのだ。ロロもそれは知っているだろう。これが単なる断り文句であることは明確だ。
「ねぇ、あれって死骸じゃない?」
アユリアが震える手で砂漠の向こうを指差した。骨が地面に転がっており、目玉があるはずだった黒い窪みには虫が湧いている。アユリアは骸骨に怯えていたが、ラーデンはちっとも心を乱した様子がない。砂漠地帯では、こんなことは慣れてしまうのかもしれなかった。
「おぉ、あれは砂漠モグラの死体っすね。食われたみたいっす!」
「なんか見覚えがある骨格だね」
アーチェが骨に近づくと、骨格を形成している骨を持ち上げた。
「駄目! 離れて!」
アユリアが咄嗟に何かに気が付いたように叫んだ。その声に反応したアーチェは雷を纏うと、その場から飛んで離れる。動きが早くなるのは雷で体を活性化させているのかもしれないと思い付く。
その考えをそれ以上することは叶わなかった。地面から大きな黒いサソリ。黒鎧のスコーピオンが出てきたからだ。
◆
「うーん、どこで出るのが俺の一番いい場面かな?」
ラーフラはシャッターを切るカメラマンのように、両手でフレームの形を作る。カメラはあまり見たことがないが、こんな風に背景を作るはずだ。ラーフラにとっては、人生というのは楽しむものでしかない。彼にとっては、どの状況も娯楽の一つだった。
「でも、エドワードと離れたのは予想外だったな〜。でも、もっと予想外のことが起きてもいいかも」
エドワードというのは、長くて呼びにくいのだが、ラーフラがエドと言うと怒られるのでそう口にする。なぜ、怒られるのかは興味がない。もちろん、エドワードと離れて不安という感情は一切ない。ラーフラは昔からそうなのだ。
物事に関してマイナスの感情を持たない。恐らく、自身は何かが欠けているのだと自分でも分かっている。しかし、ラーフラにとっては生まれ持ったものが全てで、自分自身に対して疑問を持つというような生き方をしたくなかった。そしてそのことに関して、一つの結論を出すようになった。それは――。
「おい、お前。そんなところで、何をしてるんだ?」
突然聞こえた男の声。エドワードの声はあまり覚えていないが、こんなに冷たい声ではなかった気がする。エドワードは、ラーフラのことをお前なんてよばない。第一声の低さが異なっている。エドワードは人間族で言うと第二次性徴の時期なので、声が少し高いのだ。これは完全に大人の声だ。
しかし、ラーフラは振り向くことはない。もともと、興味がないのだ。
「俺の一番いい場面を捜してるんだ」
そう答える。背後にいた人物が怪訝そうにしているのが、背中越しに分かる。
「少しは俺を警戒したらどうだ? お前の背中を押して落とすことだってできる」
ラーフラは自身のいる位置を確認した。今、自分がいる位置は切り立った崖の上。下からはいることさえ分からないほど、地上との距離が空いているのだ。気が付かない合間に高いところに来てしまっていたらしい。
「本気で言ってる? でも、俺には翼があるからそれは無理だよ」
ラーフラは思いっ切り赤い翼を見せた。髪の色と同じこの赤い翼はかなり気に入っている。鳥人は自身が成る色を選べないのだから、誠に幸運だと言うしかない。
「そんなの見れば分かる。今の嫌味のつもりだったんだがな」
「なるほど」
流れるような会話。ここまで、ラーフラの話に付き合ってくれる人はなかなかいない。そこで初めてラーフラは背後の人物に興味を持った。ラーフラが振り返るのと、彼が背中を押すのは、ほぼ同じタイミングだった。
「予想外のことを望んでるんだろ?」
地上に落ちながらも、彼の言葉が耳に届く。落ちる直前、太陽の下に輝く銀髪が見えた。
ラーフラはニカッと笑った。
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