106.久しき再会
ソラはメロンを混ぜ込んだケーキを机の上に置いた。蝋燭は控えめに差し込んでおく。
「アーチェ、早く食べろよ」
「その前に蝋燭を消さないと」
ソラは頭を振った。蝋燭には火が灯っているため、食べる前に消さなくてはならない。アユリアはケーキを少し怖がりながら眺めていたが、最後には感嘆の声を漏らしていた。レトリエが炎で燃えたこともあり、火に対して良い感情がないのだろう。
「かなり本格的ね」
「まぁ」
ソラはとぼけて見せる。ソラは決して失敗しないように、レシピ通りに作る。世の中には料理下手の人がいるが、その大半はオリジナルの調味料やその量を変えているだけだ。説明通りに作れば、成功することに間違いはない。
「俺はチキンを買ってきた」
ロロがチキンが大量に盛り付けられた皿を指さした。モデラートの大量の死体が見つかったため、急遽肉の市場が潤っているようだった。チキンの調達に全く手間取ることはなかった。死体が大量に見つかった理由に対しては、ソラたちは素知らぬふりをした。
「凄いね。誕生日みたいだ。みんな、ありがとう」
アーチェは少し照れながらも、呟いた。これでは、ただの祝いというより誕生日だ。実際には、誕生日よりも豪華かもしれない。
「よし、食べようぜ!!」
◆
「スースー」
ロロの耳を澄まさなければ、聞こえないほどの小さな寝息が聞こえてくる。お腹がいっぱいになったため、寝てしまったのだ。それだけでなく、普段しっかりとしているアーチェも騒ぎ疲れて寝てしまっている。アユリアの普段の様子は知らないが、他の二人に同じだ。
机の上に置かれた皿は全て空になっており、一つ残らず食べられていた。ケーキもすぐに売り切れ、作った甲斐があるというものだ。
宿泊施設でこんなに騒ぐのはクレームを心配していたが、防音がしっかりとしているようでそんなことは起こらなかった。元々、女王が用意した宿泊施設であるので、かなり接待が良かったのだ。
ソラは窓辺に腰を掛けると、夜空の下に広がる街を眺めた。砂漠の夜は寒い。ゆえに歩く人は一人もおらず、鳥が少し飛んでいるくらいだ。夜に飛ぶ鳥がいるのかと、ソラはそれらを観察していた。もちろん、ソラが寝ないのには他にも理由がある。それが――。
「何、見てるのー?」
「……」
建物の屋根から顔を覗かせるラーフラだった。久しぶりにあった彼は、最後に会ったときと全く変わっていない。飄々とした態度はラーデンとはまた違った性格だ。
「鳥」
「それって俺?」
ラーフラは碧眼を輝かせた。夜空と重なるとそれはまるで星のようだった。赤い髪ともよく馴染んでいる。その赤髪を見て、ソラは嫌な相手を思い出した。
「好きに捉えれば」
「えへへー」
彼は笑顔を浮かべると、中に入り込んできた。止めようとしたが、それも面倒なので見て見ぬ振りをしながらも、窓際から飛び降りた。ラーフラはソラたちが泊まっている部屋を我が物顔で歩いている。その足取りは性格を表すように軽い。
「アーチェだ、寝てる。起こしていい?」
「駄目」
「えぇー、話したかったなぁ。ここってあまり鳥人いないんだよね。どこにいるんだろ?」
「さぁ」
ラーフラは小首を傾げた。確かに彼の言う通り、鳥人はまだアデアでは見かけていない。そもそも、アデアではまだ人間族以外を見ていない。明確に生息地を分けているのかもしれない。
「!」
音もなく、ラーフラが背後から抱きついてきた。いきなりのことに固まるが、剣はしっかりと腰に身に着けてある。
「なんか、変わったね。元に戻ったのかな?」
「……」
ソラは目を瞑った。あまり行動を変えてはいなかったが、やはり記憶を取り戻したことは気付かれるものなのだ。
「俺ね、同類を探してるんだ」
「私がそうだと思うの?」
「うん!」
突拍子もないラーフラの質問にソラは冷静に答える。しかしあながち突拍子もない質問ではないのかもしれない。初めて出会ったときやカーデランでのときといい、ラーフラはずっと何かを探している気がする。
「エドワードはどこに行ったの?」
ソラはオレンジ色の髪をした少年を思い出していた。髪や目の色、顔立ちも違う彼だが、名字からして間違いなくロロの兄弟だ。どっちが歳上かは知らないが、ロロの兄弟だいというだけで放っておけない。ソラはラーフラと一緒にいるはずの彼が、いないことに嫌な予感を感じていた。
ラーフラはエドワードのことを初めて思い出したように、手を叩いた。
「あー、黒いサソリみたいなのに襲われて離れ離れになっちゃったんだよね」
「それって一大事じゃ……」
まさかこんなところでも、黒鎧のスコーピオンの話を聞くことになるとは思わなかった。ラーフラは黒いサソリとしか言わなかったが、黒鎧のスコーピオンも見て間違いない。
宿屋の女将に、ロロたちに気が付かれないように特徴を聞いていたのだ。もともと、その名前から特徴を聞く意味はないのかもしれないが――。ソラの慌てた口調を聞いてもラーフラは全く調子を崩す様子がない。
「まぁね。でも、大丈夫じゃない? ソラは明日討伐に行くんでしょ?」
「そうだけど」
ラーフラには全てがお見通しらしい。彼の瞳の前ではなぜか嘘がつけなかった。
「俺は後をつけてくよ。気にしないで」
「どうしてそんなまどろっこしいことをするの?」
彼にも黒鎧のスコーピオンに用事があるはずだ。なのに別行動をする意味がソラには分からなかった。ラーフラの性格からして、他人と馴れ合うことが嫌いというわけではないだろう。
「ダスティン・オリバーの一節にあったでしょ? ほら、見せ場は一番最後だって」
「それはその人の小説じゃないけど」
ダスティン・オリバーな有名な小説家だ。本を読まない人間でも知っていると言っても過言ではないのだが、ラーフラがその作者を知っていることにソラは少し驚いてしまう。しかし、作者とセリフを結びつけられないところが彼らしい。
「あれ? そうだった? 兄さんが読んでたのを聞いてただけだから、よく覚えてない」
彼の言動を見ていると、長男ではないことは一目で分かる。それは悪い意味ではなく、そう感じるだけだ。
「じゃあ、明日はよろしく〜」
ラーフラは窓際に足をかけると、そのまま姿を消した。ソラが窓に手をかけ、外を眺めると黒っぽい影が暗闇を飛んでいくのが見えた。
ソラはしばらく外を眺めていたが、やがて窓を閉じた。風が入り込んできているため、肌寒くなってきたからだ。
ソラはベッドに寝転がった。フワフワの羽毛布団がソラの体を包み込む。眠気は微塵もなかったが、目を瞑った。
久しぶりにラーフラに会って、少し高揚している自分がいることに気が付かないように眠りに入る。
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