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空白のアデア―空を継ぐ者たち―  作者: 月夜 ダイヤ
3章 勇者の目覚め
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105.新たな門出

「うーん、この赤い服は僕には似合わないんじゃない?」


「ううん、それでいいよ」


 アーチェは身に纏った赤と白の服を揺らしていた。赤を基調としたチュニックに、動きやすそうな白いインナーシャツ。茶色の革手袋に肩からかける斜めがけのベルト。

  

 それはアーチェにとてもよく似合っていたが、当の本人はあまり気に入ってはいないようだ。言われてみれば、アーチェは出会ったときから寒色系の色合いの服ばかり着ていた。しかし、髪と目の色は暖色系なので、そっち系の色が似合うのだ。本人の好みと合わないのはどうしようもない。


「ソラ、俺のも結構いい感じだろ?」


「うん、似合ってる」


 着こなすのに時間がかかっていたロロが試着室から出てきた。ソラが着るのを手伝おうとしたが、本人に拒否されてしまったのだ。お年頃なのでそこはしょうがない。


 ロロが着ているのは深青色の服に黒いズボン。服装はあまり変わっていないが、いい感じに馴染んでいる。ローテリヴァ王国から渡されたスカーフについては、みんな当たり前のように外して、鞄に仕舞っていた。あれはいちいち首元を引き締めるので、はっきり言って邪魔なのだ。他の探検隊に会うことはまずないので、外しても害はない。


 ソラたちが今いるのは服屋だった。アーチェの服に限らず、全員の服がかなりボロボロであったため、宿屋の手続きをしたあとに、服屋に寄ったのだ。


 砂漠の服屋は派手な色合いが多く、ソラは似合う色を選ぶのにあくせくしていた。結局ソラが選んだのは、水色の服で、前とあまり変わらない色合いだ。そのことはロロも感じていたのか、服の山から一枚の服を取り出した。


「ソラももっと服の色を変えてみたらどうだ? このピンク色の服とか似合うんじゃないか?」


 ロロが差し出してきたのは、かなり目立つピンクの服だった。装飾品は控えめであるが、こんなの敵に狙ってくれと言っているようなものだ。


「嫌だよ。そんな目立つ色」


「そうか。でも、サーカスのときは派手なの着てたよな……。珍しく……」


 ロロは諦めたように服を元の場所に戻した。ソラはサーカスのときのことを思い出していた。確かにあのときは、かなり派手な銀色のドレスを着ていた気がする。


「あれは、うん……。何で着たんだろ」


 ソラは自身の行動の原理が思い出せず、首を傾げた。


「二人とも何で自分の好きな服を選んでるの? 僕だけ、二人に着せられてるんだけど」


 アーチェは苦言を呈しつつも、しっかりと服を身に纏っている。先ほどまではかなり上の空だったが、ようやく調子を取り戻したようだ。


 ソラはチラリと店主の方を見やった。店主の男は手をこねくり回しており、ずっとニコニコとしながら部屋の隅に立っていた。なぜ、そんなところにと思ったが口には出さないでおく。


「お前には赤が似合うって昔から思ってたんだよ」


 ロロが頭の先から、つま先まで眺めるとそう口にした。ソラもそれに同調する。


「同感」


「昔からって、まだ半年近くじゃないか。長いけど、昔っていうほどじゃない」


 半年という単語を聞いて、あれからそんなにも時間が流れていることに静かに驚いた。気が付かない合間に、アーチェともかなり長い時期を過ごしている。


「私の服もどう? 少し焼けてたから、新調してみたの!」  


 試着室からアユリアが出てくる。彼女は黄色い系統でまとめられた服を着ており、それがアユリアのクリーム色の髪によく似合っていた。アユリアがその場を一周すると、長いスカートがヒラリと舞う。


「へぇー」


「何よ! その態度は! そんな態度だと、女の子にモテないんだからね!」


 無関心のロロの言葉に、アユリアは腹を立てた様子で腕を組んだ。そんな彼女の態度を崩そうと、アーチェが笑いかけた。


「僕はいいと思うよ。髪の色とよく似合ってる」


「あら、アーチェ君はよく分かってるじゃない! ここは年上の私が全員分の服代を奢ってあげるわ!」

  

 すっかりと気を良くしたアユリアは財布を取り出した。中はパンパンに詰まっており、かなりの額が入っていることが分かる。アーチェは慌てたように手を振った。


「え、それはいいよ」


「何言ってるの、アーチェ君! ここは歳上を立てるものよ!」  

  

 アユリアの気迫にアーチェは押されていた。


「歳上……? 人間族の年齢はよく分からないよ」


 ソラから言わせれば、鳥人の年齢の方が余程分かりにくいが、アーチェにとっては人間族の年齢の方が分かりにくいようだ。鳥人は童顔が多いため、ある程度の年齢にいくまで年齢の判別には困難を極める。それを聞いたロロが閃いたというように指を立てた。


「二十ぐらいじゃないのか?」


「残念! まだ、十九歳です!」

  

 アユリアは体の前にばってんを作ると、否定した。そのまま、彼女は会計をしにいってしまう。大人しくやり取りを見守っていた店主は笑顔をたたえながら、お金を受け取っていた。


「あとで、こっそりお金を入れておこう」


 呟くアーチェの髪を見て、ソラはあることが気になった。


「アーチェ、フードはいいの?」


 ソラはアーチェの頭を眺めた。彼はフードを身に着けてはいない。かなりボロボロだったフードは先ほど、処分したのだが新しいフードを買う気はないようだ。アーチェはソラと目が合うと、少しだけ頬を赤らめた。


「あ、うん。動きにくいし、染めてるってことにするよ」


 彼は髪をいじりながらそう答えた。実際にアーチェはかなりの癖っ毛なのだから、フードはかなりストレスになっただろう。


「視界が妨げられるのは、いたいしなー。今日は泊まってくんだから、魔法使えたお祝いでもするか?」


 ロロが座り込んでいた椅子から立ち上がった。お祝い。その言葉にソラも心が浮き立つのを感じていた。

 アーチェが魔法を使うために努力していたことは、ソラも知っている。ここはしっかりとお祝いとやらをしなければならない。


「お祝いしてくれるの?」


 それを聞いてアーチェは信じられないというように、驚いた顔をした。一体何をそんなに驚くのだろうか。仲間の祝いをするのは当然のことだ。


「ケーキとあと紅茶も必要かな?」


 ソラは指を立てて、そして一本ずつ下げていった。必要なものを揃えなくてはならない。ケーキというのは、特別なものだ。ここにあるかは定かではないが、一から作れば何とかなるかもしれない。


「え、いや。いいよ。僕は……」

  

 アーチェは首を振って、断ろうとしていたがロロに肩を組まれた。


「何言ってるんだ! お祝いだぞ! 誕生日みたいに盛大に祝おうぜ!」


 ロロが笑顔を見せた。奴隷所を抜け出してから、二人でしばらく誕生日を祝っていた時期を思い出した。ソラは誕生日が分からないため、ロロと同じ誕生日に祝うことになっていたのだ。そう考えると、あと数ヶ月でロロも十五歳になる。


「今日は僕の誕生日じゃないけど」


 アーチェが呟いた。

 

「じょーだんだよ! 冗談! ここは上手く乗ってくれよ!」


「何を楽しそうな話をしてるの? 私も混ぜなさいよ!」


 お代を支払い終わったアユリアがスキップをしながら、こちらにやって来た。ロロはアユリアに親指を立てた。


「アユリア、お代ありがとな。出世払いする」


「貴方、一体何になる気なのよ! それより、お祝いって?」


「こいつの。魔法使えた記念日」


「辞めてよ、ロロ。なんだか、恥ずかしくなってきた」


「え! そんなに大事な日だったの?! じゃあ、お祝いするに決まってるじゃない!」


 恥ずかしがるアーチェに対して、アユリアが口元を押さえた。ソラとロロは何げなく仕えていたため、祝いというのはピンと来ないが、魔法は祝うべきものであるらしい。


「話が早いな! ソラの作るケーキはかなり絶品だから!」


「この辺だと、果物は何かな……」


 ソラは服屋の入り口に向かって歩き出した。ケーキを作るとなると、まず果物から調達しなければならない。


「ま、待ってよー。勝手に話を進めないでよ!」


「恥ずかしがんなよ! 主役!」


 引き留めようとするアーチェをロロが羽交い締めにした。服屋にはアーチェの声が響いていた。



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ここまで読んでくださってありがとうございます!

面白かったと思ってもらえたら、ブックマークやポイントを入れていただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします!





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