102.気さくな同行人
「ここを真っすぐ行ったら、街なんすよ。その奥の方には城があって、女王様が住んでるんですよね。女王様はかなりのヒステリックなんすけど、国民にはかなり慕われてるんすよ。なんせ、根は優しいんでね。こんな下っ端の俺にも声をかけてくれるんすよ。だから、俺兵士になったんすけど、あんまり女王様に声をかけられる機会がなくて。だから、今日もこの辺を散歩してたんすけど、そこであんたたちを見つけたんすよ。いやー、あんたたち強いすね。俺なんてモデラート一匹ですら、到底無理っすよ。あいつら集団で襲ってきますからね。あり得ないと思いません? 強いなら、せめて一匹で向かってきて欲しいっすよね。俺は少なくともそう思うすけど。アーチェはどう思います? あ、俺の声ちゃんと聞こえてますかね?」
兵士の男――ラーデンが振り向いた。彼のオレンジ色の瞳はキラキラと輝いていて話すのが楽しくて仕方がないという感じだ。照りつける太陽が黒髪を照らしていた。
ラーデンのその話を延々と聞かされていたアーチェはため息をついた。
「……。うん、聞こえてるよ」
「えー、何か反応欲しいっすよ。俺あんまり話し相手いなくて。家族とかも全然俺と話してくれないんすよ。ちょっと冷たくないですか?」
ラーデンが同意を求める。アーチェは否定することも面倒になったのか、頷いていた。
「そうだね」
「あんなに話す奴は初めて見たよ。変な奴だな」
会話に巻き込まれまいと、ラーデンから距離を取っていたロロが口を開いた。
「そろそろ変わってあげたほうがいいのかも」
ソラは疲れ切っているアーチェの元に行こうとした。しかし、隣を歩いているロロにガシッと腕を掴まれる。
「俺はついあいつの鼻っ柱をへし折っちまいそうだよ。ソラだってそうだろう? アーチェに任せておくのが一番平和だよ」
「だからって、あんまりじゃないよ。彼、もう何時間会話に付き合ってるのよ」
アユリアが言葉を震わせた。行くところがない彼女は当然、ソラたちと同行していた。状況をようやく理解できたようで、もう普通に話ができる状態だ。信用できるものかと、ソラは頭を悩ませていたが、ロロはそう考えていないようだ。
「いいんだよ、それより喉が渇いたな」
「もう何時間も歩き続けだもの。そろそろ、幻覚を見そうだわ」
アユリアは相当参っているようで、杖を歩行補助に使用していた。魔法の腕は確かなものだったが、体力は人一倍ないようだ。
「おお! 見えてきましたよ、皆さん! あれが俺らが誇る街、通称サハルディアっす。この砂漠地帯の唯一の街なんすよ」
ラーデンの言った通り、砂煙の中に一際大きな街があった。それはレオナード王国やローズマリー王国よりも余程大きい。街の入り口には門兵がおり、ギラギラした目で周囲を観察していた。街は堀で囲われており、防御態勢もしっかりとしている。これほど大きな街なのに、近くに行くまで見えなかったのは砂煙のせいだろう。
その煙のせいで、少し先もよく見えないのだ。しかし不思議なことに、街の周りだけは砂煙が取り除かれていた。ラクダのような生き物に荷を引かせた行商人が街から出ていき、隣を通り過ぎていった。馬車の中にはフルーツが多く積まれている。どれも水分が多そうだ。
行商人の格好は動きやすそうな布で包まれていた。この暑さだ。ソラも今着ている服を取り替えたいぐらいだった。アーチェはかなり暑さに参っているのが伝わって来る。この旅でかなり体力がついたようだが、暑くてたまらないだろう。アーチェがバテる前に、街に着けたことは幸運だった。
ラーデンはよく話すところが難点だが、自分の心のうちを全てさらけ出してくれるので、変に疑わなくて助かる。
彼は小走りで、門兵のところに駆け寄ると、ポケットから取り出した手形を見せた。
「お疲れっす! ローベ」
「うん? 誰かと思えば、ラーデンじゃないか?! お前、もう三日も帰ってこないからてっきり、死んだのかと思ったぜ」
ローベと呼ばれた男は、ボッーとラーデンの顔を眺めていたが、やがてハッとしたように目をまん丸くした。その声音はまだ若く、彼も兵士としては新人だということが分かる。
ラーデンはその言葉を聞いても、まるで調子を崩した様子がない。ヘラヘラと張り付いたような笑みを浮かべている。とても三日間も砂漠にいた男とは思えない調子だ。
「ハハハ、まぁちょっとヘマしちまいましてね!」
「よく生きてたなぁー。まぁ、いいや。そっちの連れは?」
ローベはラーデンの答えに呆れたように、目をグルっと回した。そして、ラーデンの後ろに控えていたソラたちを警戒するように眺めた。
「あ、この子たちは俺が外で見つけた人たちっすよ。なんか、迷ってたみたいで! 連れて来ました!」
「へぇー、この砂漠で迷うなんて災難だな。今はモデラートの活性時期だからな。本当に運が良かった」
ローベはそう呟いた。ソラたちがモデラートの群れに襲われていたことは黙っていよう。説明が面倒だ。ラーデンがそのことについて話さないか危惧していたが、杞憂であった。
「あいつらが活性化してない時期なんて、ないでしょ! じゃあー、通りますね」
ラーデンはにこやかな笑みを浮かべると、門をくぐった。ソラたちが門兵の横を通ると、門兵は優しい笑みを返してくれた。
門をくぐるとそこは別世界だった。広場と呼ぶべき場所には、多くの商業人がたむろしている。子どもたちが笑顔で駆け回り、水辺では家畜が座り込んでいた。家が数え切れないほど並び立ち、その家々を繋ぐようにロープが垂れ下がっている。井戸で水を汲む人々、馬車を引く人々などがいる。
奥には豪華な白が見え、それは砂を被っているだけあって、砂の城と呼んでも差し支えがない。薔薇の形をした石が壁に埋め込まれており、目を奪われるほどの美しさだった。数々の彫刻が城を囲んでおり、そこには王冠が載せられていた。テラスのようなものが見え、そこから装束を身に纏った女性が下を覗いているのが分かった。
ソラと目が合うと、中に引っ込んでしまったが、高貴な身分には違いない。
「へぇー、凄いな」
ロロはもう街を探索し始めており、商業人が広げている商品に夢中だった。
「じゃあ、俺はここまでっす! 城に報告しなければならないことがあるんで!」
ラーデンは愛想良く笑うと、ソラが答える間もなく城の方に一直線に走っていってしまった。城の前に直立不動で立っていた兵士の一人がラーデンを見て、目を見張っていた。ローベと同じように、彼もラーデンに驚いているに違いない。
「へぇー、珍しい鉱石も売ってる」
アユリアがロロと同じように、売店に目を引かれていた。すっかり元気になったようだ。アーチェもキョロキョロと辺りを見渡していた。何を探しているのかは、ソラにも理解できた。そもそも、ソラもそれを欲しているのだ。
「ねぇ、アーチェ。とりあえず水を探さない?」
ソラは近くにある井戸を示した。家の陰に隠れていたが、目視で見つけていた。アーチェはソラの言葉を聞いて頷いた。
「そうだね、よかったよ。喉が渇いているのは僕だけかと思った」
「ロロも喉が渇いていたはずだけど、あの調子じゃすっかり忘れてるね」
ロロは売店に目を奪われている。売店の机には、蒸した肉が売られていた。
「それが羨ましいよ。あの、水を貰えませんか?」
アーチェが井戸の前で話し込んでいた女性に声をかけた。女性は三人で話し込んでおり、アーチェの姿を見ると眉をひそめた。
「あぁ、余所者ね。悪いけど、水は金貨一枚で売ってあげるよ」
「……」
中でも一番ふくよかな見た目をした女性が指を一本立てた。アーチェが言葉を失う。しかし、そうなるのも無理はない。なぜならそれは、宿屋に一ヶ月分は泊まれるほどの値段だったからだ。
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