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プロローグ
この館には、昔から奇妙な噂が絶えない。
大火災が起きた夜、多くの命が消え去ったあの惨事の後、館には「紅影」と呼ばれる怪人が現れるという。
噂によると紅影は夜になると館を歩く、赤い光を伴って、見つめる
その姿を誰も正確に見た者はいない。ただ、赤い炎のように揺れる影が、壁や廊下を滑るのを見た者はいると言われている。
見た者は皆、必ず不幸が訪れると言う。
誰もいない部屋から赤い光が漏れることがある、それを見てしまうと、次の日何かを失ったり、二度と今までの生活が送れなくなってしまう
何も見えなくとも、館に一歩足を踏み入れた時点で、すでに紅影はその影で存在を知らせているのだ。
館の壁には、かつての火災で焼け残った赤い痕が点在している。
まるで壁や床に血で描かれた人影のように、そこに存在を刻む。
その痕と赤い影の噂が結びつき、館はいつしか「紅影館」とも呼ばれるようになった。
肝試しに訪れた若者たちは皆、赤い影が自分の背後を滑るのを感じ、息を呑む。
そして誰も口にしないが、館を後にするときには心の奥に、あの夜の紅影の視線がまだ残っていることを感じるのだ――。




