お茶会も終わりまして
楽しい時間だった。
話に参加できる、ってほんと楽しい。
というか、急に私が話の中心になってしまって…クランタからの視線が痛かった。
できるだけ気付かないようにしたけど。
(…ごめん!クランタ…)
(でも、楽しいんだ!…というか、この展開で私が黙るのも、逆に変だから…)
「いや、それにしても本当に驚きました。このような才能をお持ちだなんて」
「本当ですよ、エメル姫。どうして隠していらっしゃったのですか」
とにかくファルシア王子とレフィ王子は私に質問攻めだ。
(…うーん、あんまり良くないよー?クランタにも話、振ってあげて?)
「クランタ姫は知っていらっしゃったのですか?エメル姫がこんなに多才なことに」
「えっ…?」
(…あー、駄目だよー…そんな質問したらクランタが答えられないよー)
「ま、まぁ…楽しい時間ですし、良いではないですか」
私は思わず話をさえぎった。
「そういえば、先ほど言われていた『ファインマン』でしたか?私たちは知らない名です。アレンド王国で有名なお方なのですか?」
「そうそう。俺も気になったんだ」
(…そうじゃーん…私が生きてた時の学者だもんねー…)
「あれっ、名前、間違えたかなぁ…?」
「それに数学と物理、でしたか?あまり聞きなれない名称でした」
(面倒くさい…)
「私が勝手に名前を付けてしまっただけなんです。最近、『自分だけの名前』みたいなものにはまってまして」適当に言い逃れすることにした。
「…そうですか、それはそれは。興味深い遊びですね」
「え、えぇ。皆と違う名前を付けるのは面白いですよ!」
皆、どこか腑に落ちていない表情をしていたが、まぁ、当たり前だよね。
もの凄くカオスな状況で今回のお茶会は終わった。
ファルシア王子とレフィ王子は嬉々とした目で私に質問を投げかける。
クランタは以前の私のように黙りこくっている。
お茶会が始まった時、誰がこんな状況を想像しただろうか。
「やぁ、今日はもうお帰りかね」
カイル王だ。見送りに来てくれた。
「楽しい時間でしたかな?」
クランタの方を見ながら言った。
「はい、いつも通り、とても楽しい時間を過ごすことができました。あっという間でした」瞬時に『作られた笑顔』を振りまいていた。…これだから女ってのは。
「そうですか、そうですか。それは良かった」
「エメル姫も、今日はいかがでしたか」
「お招き頂き、ありがとうございました」
「大変素敵なおもてなしでした」
「…いつもと何か違うように感じますな、今日の姫は」
「えっ?そのようなことはございません…ははっ」
「……」
「では、また来月よろしくお願いいたします」
私たちはアレンド王国への帰路についた。
「ファルシア、レフィ、今日はどうだった?」
「いや、いつも通りとても楽しい時間でしたよ」
「エメル姫にはびっくりでした」
「…エメル姫がどうかしたのか?」
「いえ、何というか…いつもと全くの別人という感じでした」
「本当だよな。ありゃ別人だよな。ピアノも突然弾き始めるし」
「そうだな、しかももの凄く上手だった」
「…そうだったのか。儂も何かいつもと違う雰囲気を感じたのだが…」
絶対に私のこと、噂しているだろうなぁと思いつつ…馬車の中ではクランタのご機嫌伺いに全力を注いだ。
「ねぇって、そんなに怒らないでよー」
「…怒ってはいません」
「あっ、本当?」
「まぁ…多少は怒っていますけど…それにしても今日のお姉様はいつもと全く違う気がします」
「うん?そう?別にいつもと変わらないよ!」
吊り橋を迂回しながら、クランタは少し機嫌が良くなっていた。