ザインとリセラ
(…コンコン)
「お母様、エメルです」
「入りなさい」
「失礼します」
私は正直緊張していた。お手伝いさん以外、しかも目上の人と話すのが初めてだったからである。でも、曲がりなりにも「母」なのだ。リラックスしないと…
「あなた、体調が悪いみたいだけど…大丈夫なの?」
リセラは凄く優しいお母さんといった感じだった。
ドアの前まで緊張してきた私は、すぐにリラックスできた。
「あっ、大丈夫です。少し疲れていたみたいです」
「そう。今日は大切な日だから…ここでゆっくりしていても良いのよ」
「いえいえ!私は元気ですから!」
内心「えっ」と思った。他の王国に行くのに…私は「絶対に行かなくてはいけない人」じゃないのかしら?と。その瞬間「あ、必要なのはもしかして『クランタ』なのかな」とも思った。
「まぁ…良いわ。いつも通り大人しくしていて頂戴ね」
「はい。分かっています」
なるほど。やっぱりそうだ。私は『おまけ』なのかも知れない。これだけで十分な収穫だ。
「今日はいつもと同じ感じで良いのでしょうか」
私は聞いてみた。
「そうね。ファルシア王子との話も、もう少し進展すると良いですけどね」
ほうほう、相手方には『ファルシア』という王子がいて、何か話を進めているのね…そしてそれは私では無く『クランタ』ってことかぁ。
「そうですね。私はいつも通りにしておきます」
「お願いね」
そう言って私は『リセラ』の部屋を出た。
でも不思議だった。今朝食堂でクランタに会った時、私を見て「お姉さま」って言ってたのに…こういうのって普通「王子」と「第一王女」で話が進むんじゃないのかな…ま、とりあえず、次は父の部屋へ行ってみようと思った。
(…コンコン)
「エメルです」
「あぁ、エメルか。入りなさい」
「はい。失礼します」
先ほどと同じく、ゆっくりとドアを開けて部屋へと入る。母親であるリセラと話をしているので、もう緊張は無かった。
「どうしたんだ、急に」
「いえ、今日のご挨拶にと思いまして…」
「『挨拶』?変なやつだ」
「えへへ」おどけてみせた。
先ほどの母との会話がある。父との話もしやすい。
「私はいつもと同じで良いのでしょうか」
「そうだな。それが良いだろう」
「分かりました」
「レフィ王子がお前を見初めて下されば言うことは無いのだがなぁ」
「(…レフィ王子?)…」
「こればかりはご縁だからな…クランタの邪魔だけはしないようにな」
「はい、承知しています」
私は頭を下げた。
なるほど、エジンバラ王国には『レフィ王子』もいるらしい。でも『ファルシア王子』が優先だったから…たぶん『ファルシア王子』が第1王子で、『レフィ王子』が第2王子ってところか…で、第一王子が、私の王国の第2王女と話を進めてるって感じなのね。
部屋に戻って頭を整理する。でも、どうしても聞いておきたい事が、まだいくつかあった。流石に父と母に聞いてしまっては、「いよいよおかしくなった」と思われてしまう…
「…仕方ない、フィラに聞いてみよう」
思い立った私は、フィラを部屋に呼んだ。
「エメル様、どうなさいましたか?」
「あのね、教えて欲しい事が3つあるの」
「はい」
「ほら、私、今日ちょっと変でしょう?だから今から質問する内容、驚かないって約束してくれる?」
「…は、はい」
絶対無理だろうなぁと思いつつ、一応口約束を取り付けた。
「…今から向かうエジンバラ王国の…王様と王妃様の名前を忘れてしまって…」
「…えっ」
「だ・か・ら。驚かないでって言ったでしょ」
私は可愛らしくウインクしてみせた
「…はい。カイル王と王妃はエレヴァ様です」
「そうだったわね!思いだしたわ。流石、フィラ!」
「はい…ありがとうございます…」
もの凄く心配そうな眼差し。
でも、最大の質問がもう一つあった。
「で、残りの一つなんだけど」
「はい」
「…(えぇ~い、後は野となれ山となれだ!)」
私は勇気を振り絞って、フィラに尋ねた。
「…私が今いる、ここの王国の名前って…何だっけ」
「アレンド王国、でございます…」
「あははは!だよね!そうだったよね!!アレンド王国だよねぇ~!確認よ、確認~!」
笑いで何とかごまかした。いや…ごまかせた…のか?
とにかく最小限、知っておきたいことは知ることができた。