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第9話 衝撃のエンディング、そして新たな謎

忌まわしき化け物との死闘を終え、キャシーとサラの命も救うことができた。

原作の悲劇的な結末を回避し、俺――キリス・コーツウェルは、ジョンたちと共に新たな未来へと歩み出す。

これで、この『デッドマンズ・シティ』の物語は、俺が望んだハッピーエンドへと大きく舵を切ったはずだ。


「よし、これで一安心……ですわね」


地下駐車場で見つけた、大型の警察車両。

幸いにもエンジンはかかり、燃料も十分に残っているようだ。

俺たちは全員、その頑丈そうな車両に乗り込んだ。

運転席にはジョン、助手席にはサラ、そして後部座席には俺とキャシーが並んで座る。


「さあ、行くぞ! この街から脱出し、世界中にアルストロメリア製薬の真実を暴くんだ! そして、この街のような悲劇は、二度と起こさせはしない!」


ジョンは力強くハンドルを握り、アクセルを強く踏み込んで、決意に満ちた声でそう叫んだ。

その言葉には、未来への希望と、悪を許さないという強い意志が込められている。

コメント欄も、ジョンの決意表明に呼応するように、熱いメッセージで盛り上がっていた。


『よっしゃ! あとは街から脱出するだけだな!』

『アルストロメリア製薬、絶対に許さねぇ!』

『キリスたん、ジョンたちを頼んだぞ!』

『最高のエンディングを見せてくれ!』


「発進しますわよ!」


俺も、期待に胸を膨らませながら声を上げる。

警察車両は、力強いエンジン音を響かせ、勢いよく地下駐車場から地上へと飛び出した。

陽の光が眩しい。

俺たちを乗せた警察車両が、自由を求めて走り出す――。


そう、思われた、その直後だった。


ぐにゃり。


「え……?」


目の前の光景が、まるで水面のように歪んだ。

強烈な既視感。

これは……まさか!?


次の瞬間、俺の意識は燃え盛る廃墟の街から、見慣れた自室のPCデスクの前へと強制的に引き戻されていた。

ヘッドセットがズレ、マウスを握る手が虚空を掴む。

目の前のモニターには……。


「ス、スタッフロール……?」


『デッドマンズ・シティ』の、物悲しいエンディングテーマと共に、制作に関わったであろう人々の名前が、ゆっくりと画面を流れ落ちていく。

え……?

エンディング……?

俺、クリアした……ってことなのか?

あんなに中途半端なところで?


突然の強制帰還に戸惑っていると、ふと、配信がまだ続いていることに気づいた。

画面の右端には、キリス・コーツウェルのLive2Dアバターが、俺の動きと連動して可愛らしく表示されている。

まずい、視聴者が見ている!


「あ、あー……と、と、というわけで! 皆様、無事、『デッドマンズ・シティ』、クリアいたしましたわ~!」


慌てて、しどろもどろになりながらも、なんとかエンディングを迎えたことを宣言する。

内心、冷や汗ダラダラだ。

これで良かったのか? 俺の異世界配信は。


コメント欄は俺の突然の帰還と、ゲームクリア宣言に騒然となっていた。


『ええええええ!? 終わり!?』

『いやいやいや、あそこからどうやってクリアしたんだよwww』

『こんなエンディング見たことなかったぞ!?』

『マジでゲームだったのか……? とてもそうは思えなかったが……』

『一体、俺たちは何を目撃してしまったんだ……?』

『でも、キリスたんもジョンもキャシーもサラも助かってよかった!』


どうやら、視聴者も俺と同じくらい混乱しているようだ。

だが、その混乱の中にも、安堵と感動の声が入り混じっている。

ふと、画面の隅に表示されている視聴者数に目をやると、信じられない数字が目に飛び込んできた。


「にっ……!? に、に、ににに、2万人!?!?」


思わず、想像すらしていなかった視聴者数に叫んでしまった。

いつの間に、こんな大人数が俺の配信を見ていたんだ!?

最初の頃は、数えるほどしかいなかったはずなのに……。


驚愕する俺に、視聴者たちが親切にも教えてくれる。

どうやら、俺のこの前代未聞の「ガチ異世界実況配信」は、SNSで瞬く間に拡散され、様々なニュースサイトやまとめブログにも取り上げられ、とんでもない勢いでトレンドを独占していたらしい。

VTuberとしてのデビュー配信で、いきなり世界的な注目を集めてしまったのだ。

その事実に気づき、俺は改めて慄然とした。

これは……本当に、とんでもないことになってしまった。


「え、えーっと……と、とりあえず、今回の配信は、こ、これで終了とさせていただきますわ! 大変なことばかりでしたが、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!」


なんとか平静を装い、キリスの声で締めくくる。


「も、もしよろしければ、次回の配信も見てくださると嬉しいですわ! あ、あと、チャンネル登録と高評価も、ぜひぜひよろしくお願いいたします!」


最後は、Vチューバーのお約束で締めくくり、震える手で配信終了ボタンをクリックした。

ふぅ……終わった……。


俺は、椅子から崩れ落ちるようにベッドへと倒れ込み、天井を見上げた。

全身の力が抜け、どっと疲れが押し寄せてくる。


「はぁ……大変なことになっちまったなぁ……」


ぽつりと呟き、PCのモニターを見上げる。

画面には、まだ『デッドマンズ・シティ』のタイトル画面が表示されている。

あの、怪しげな通販サイトで購入した、格安のVチューバー配信キット。

一体、こいつは何なんだろうか?

ただのゲーム配信ツールではないことは、もはや疑いようもない。

俺をゲームの世界に送り込み、アバターの能力を現実のものとし、そして、視聴者にはそれがリアルタイムで配信される。

まるで、SF映画のような、トンデモ技術だ。


様々な疑問が頭の中を駆け巡る。

あのキットを作ったのは誰なのか?

目的は何なのか?

そして、俺は……これから、どうすればいいのか?


考えれば考えるほど、謎は深まるばかり。

だが、今はもう、何も考えたくなかった。

激動の一日を終え、心身ともに疲れ果てた俺は、いつの間にか深い眠りへと落ちていった。

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