表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/35

第6話 死闘、そして絶望の第二形態

「私は……バッドエンドは、大嫌いなんだよっ!!」


啖呵を切ったはいいものの……。

目の前に立ちはだかる、全高3メートルの筋骨隆々とした化け物。

その威圧感は半端じゃない。

正直、めちゃくちゃ怖い。

オシッコちびってしまいそう……いや、待てよ。

男女で膀胱の構造が違うとは聞いていた。実はちょっとだけ手遅れだ。

……って、今はそんなこと考えてる場合じゃない!

とにかく、今は目の前の化け物を倒すことに集中だ!


「グルオオオオオオ!!」


俺の決意を嘲笑うかのように、化け物が咆哮した。

そして、次の瞬間、その巨体からは想像もつかないほどの俊敏さで、床を蹴って俺へと飛びかかってきた!

まるで巨大な肉食獣が獲物に襲いかかるような、圧倒的なスピードと迫力。


「うわっ!?」


咄嗟にバックステップで回避する。

ほんのコンマ数秒遅れていたら、あの鋭い爪の餌食になっていただろう。

俺が元いた場所の床は、化け物の着地の衝撃で、まるで爆弾でも爆発したかのようにコンクリートが砕け散っていた。

掠めただけでも致命傷になりかねない威力だ。


「クソッ、速すぎる……!」


化け物は休む間もなく、左右の鋭利な爪を嵐のように振るい、俺に襲いかかってくる。

ブンッ、ブンッ、と空気を切り裂く音が連続し、その度に俺のすぐ側を凶悪な爪が通り過ぎていく。

正直、喧嘩なんてしたことないし、格闘技の経験もゼロだ。

普通の俺なら、とっくにミンチにされているだろう。


だが――。


(見える……!)


不思議なことに、化け物の攻撃がどこから来るのか、まるでスローモーションのように事前に予測できるのだ。

そして、俺の体は……いや、キリス・コーツウェルの体は、その予測通りに、驚くほど軽やかに、そして素早く動いてくれる。

まるで、長年鍛え上げられた武術の達人のように。

これが『200年の時を生きる真祖の吸血鬼』という設定の恩恵か。

脳が危険を察知し、体が最適解を導き出す。

まさに、チート級の身体能力だ。


「シャアアアアッ!」


化け物が甲高い奇声を発し、横薙ぎに爪を振るう。

俺はそれを紙一重で潜り抜け、逆に懐に飛び込む。

そして、がら空きになった化け物の脇腹に、渾身の肘鉄を叩き込んだ。


ドンッ!


鈍い手応え。

化け物が「グォッ!?」と苦悶の声を漏らし、数歩よろめく。

いける! ダメージは通っている!


コメント欄は、俺と化け物の激しい攻防に、かつてないほどの盛り上がりを見せていた。


『キリスたん凄えええええええ!』

『なんだこの動き!? プロの格闘家かよ!』

『ちびっ子が3メートルの化け物と互角に戦ってるとか胸熱!』

『特撮とかCGじゃないんだよな……? ガチの戦闘じゃん……』

『もうVチューバーの域超えてるだろwww』


視聴者の興奮が、俺にも伝わってくるようだ。

だが、油断は禁物。

相手は、ゲームのボスモンスター。

一瞬の隙が命取りになる。


化け物は、再び体勢を立て直し、さらに凶暴性を増して襲いかかってきた。

その爪は壁を砕き、床を抉り、駐車場の柱を破壊する。

もはや、地下駐車場は俺と化け物の戦いで半壊状態だ。

火花が散り、コンクリートの破片が飛び交う中、俺はひたすら攻撃を避け、カウンターを叩き込む。

キリスの小さな拳が、蹴りが、的確に化け物の急所を捉える。

だが、化け物のタフネスも尋常ではない。

何度殴っても、蹴っても、怯む様子は見せるが、決定打には至らない。


「はぁ……はぁ……っ!」


さすがに息が上がってきた。

吸血鬼とはいえ、これだけの激闘を続ければ疲労もする。

一方、化け物はまるでスタミナが無限であるかのように、攻撃の手を緩めない。


(どこか……弱点はないのか!?)


ゲームでは、確か特定の部位を攻撃すると大ダメージを与えられたはずだが……。

思い出そうとするが、激しい戦闘の中で思考がまとまらない。


その時、化け物が大きく振りかぶって、渾身の一撃を放ってきた。

あまりにも大振りな攻撃。

チャンスだ!


俺はその攻撃を最小限の動きで避け、がら空きになった化け物の顔面めがけて、空中で1回転し全体重を乗せた跳び蹴りを叩き込んだ!


「これで……終わりだあああああっ!!」


ドゴォォォォン!!!


今までのどの攻撃よりも強烈な手応え。

俺の蹴りがクリーンヒットした化け物の頭部が、まるで熟れたトマトのように弾け飛んだ!

夥しい量の体液を撒き散らしながら、首なしの巨体が膝から崩れ落ちる。

そして、完全に動きを止めた。


「ゼェ……ゼェ……やった……か!?」


肩で息をしながら、俺は勝利を確信した。

さすがに頭が吹っ飛べば、もう大丈夫だろう。


だが、コメント欄に不吉な言葉が流れ始めた。


『それ、死亡フラグってやつやで……』

『え、こいつ第二形態とかあった気がするんだが……』

『油断するなキリスたん! まだ終わってないぞ!』

『ゲームだと、ここからが本番……』


「……まさか」


嫌な予感が、背筋を駆け上る。

そして、その予感は最悪の形で現実のものとなった。


ピクッ……。


首を失ったはずの化け物の体が、不気味に蠢き始めたのだ。

傷口から、新たな肉が盛り上がり、骨が軋む音が響き渡る。

そして、みるみるうちにその姿を変貌させていく。

筋骨隆々だった二足歩行の体躯は縮み、代わりに四本の足が地面をしっかりと捉える。

背中は大きく盛り上がり、鋭い牙が並ぶ巨大な顎が形成されていく。

それは、もはや人型ではなく、獰猛な獣のような姿だった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


先ほどとは比べ物にならないほどの、おぞましい絶叫。

変貌を遂げた化け物は、爛々と光る4つの目で、俺を射殺さんばかりに睨みつけていた。


「負けイベントを……そう簡単には覆させない、ってワケか……?」


俺の頬を、一筋の冷や汗が流れ落ちた。

絶望的なまでのプレッシャー。

本来この場面では変身する展開はなかった。第一形態で必ず負ける負けイベントなのだ。

変身はラストバトルで起こる展開だというのに、俺は物語を書き換えてしまった。

そして、俺は……この絶望に、打ち勝つことができるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ