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第19話 衝撃のカミングアウト! 翼を広げた吸血鬼

本来倒せないはずの『赤鬼』を、吸血鬼パワーで文字通り木っ端微塵にしてしまった俺――キリス・コーツウェル。

ゲームの根幹を揺るがすまさかの展開に、自分でも若干引いているが、とりあえず目の前の脅威は去った。

ハッと我に返り、そういえば美弥は大丈夫だっただろうか、と彼女の方を振り返る。


そこには、腰を抜かしたのか床にへたり込んだまま、わなわなと震えている美弥の姿があった。

その目は大きく見開かれ、明らかに俺の……いや、俺が先ほど行った常軌を逸した行為への恐怖が見える。


「美弥ちゃん……大丈夫ですの?」


心配して声をかけるが、美弥は「ひっ……!」と小さな悲鳴を上げ、さらに体を縮こませてしまった。

その瞳には、先ほどまでの親愛の色はなく、明らかに恐怖の色が浮かんでいる。

どうやら、俺が赤鬼を瞬殺した一連の流れを見て、俺自身を怖がっているようだ。


コメント欄も、そんな美弥の反応に同情的な声が流れる。


『そりゃあ、ただのちっちゃくて可愛い女の子だと思ってた友達が、目の前で化け物を殴り殺す姿を見せられちゃねぇ……』

『しかも最後、赤鬼の頭を文字通りパーンってやってたしな。トラウマ不可避だろ、あれは』

『普通のJKにあんなの見せたら、そりゃ怖がるわ』

『キリスたん、やりすぎたか……?』


あぁ……確かに、そうだよな。

目の前で、さっきまで一緒にいた華奢な女の子が、突然超人的な力で化け物をミンチにするなんて非日常的な光景を見せられたら、普通の女子高生なら恐怖で震え上がって当然だ。

ちょっと、やり方を間違えたかもしれない……。

俺は、内心で反省する。


「美弥ちゃん……!」


このままではまずい。

俺は、とっさに涙目になり、震える声で叫んだ。


「怖かったですわぁ~~~!!」


そして、床に座り込んだままの美弥に、勢いよく抱きついた。

うおっ……! 美弥ちゃん、柔らかくて、めちゃくちゃ良い匂いがする……!

いやいやいや、そうじゃない! 今はそんなことを考えている場合じゃない!

一瞬だけ、杉田智之としての煩悩が顔を覗かせたが、すぐに頭を振って打ち消す。


これは作戦だ。

俺も、あの赤鬼が怖くて怖くて、必死で抵抗した結果、ああなってしまったのだとアピールするのだ。

そうすれば、美弥の警戒心も少しは和らぐはず……!


「えっ? えぇっ? き、キリスちゃん、あんなに強かったのに……怖かったの?」


抱きつかれた美弥は、戸惑いながらも、俺の背中にそっと手を回し、よしよし、と子供をあやすように頭を撫でてくれた。

ふふ、計画通り!……かな?


「あの……キリスちゃん。さっきの……あの、ものすごい強さは一体何なの? どうして、あんな化け物よりも強いの? あんなの……普通の人間じゃ、絶対に無理だよ……」


少し落ち着きを取り戻した美弥が、俺の顔を覗き込みながら、恐る恐る尋ねてくる。

その瞳には、まだ恐怖の色が残ってはいるものの、それ以上に強い好奇心と疑問の色が浮かんでいた。

もう、誤魔化しは効かないだろう。


俺は観念し、一度大きく息を吸い込んでから、真剣な表情で美弥に告げた。


「……実はわたくし……吸血鬼なんですの」

「え……? きゅうけつき……? 何を言っているの、キリスちゃん……? キリスちゃんは、昔から私たちと一緒に遊んでた、普通の人間の女の子じゃない……」


美弥は、俺の突然のカミングアウトに、ますます混乱した表情を浮かべる。

そうか、このゲームの世界では、キリスは卓也たちと幼い頃からの知り合いで、ごく普通の人間として認識されているのか。


「わたくしは……真祖の吸血鬼。生まれた時から、人間とは異なる力を持つ、偉大なる上位存在なのですわ。……ただ、貴方たち人間と友達になりたくて、その力を隠し、人間社会に紛れ込んで生活していたのです」


美弥の認識と齟齬が出ないように、そして、吸血鬼としての威厳も保てるように、俺は即興で思いついた設定を語り始めた。

もう、吸血鬼だと明かしてしまった以上、もはや遠慮する必要はない。

このゲームは、俺のやり方でクリアさせてもらう!


「待っていてくださいまし、美弥ちゃん。今から、卓也さんたちを助け出してきますわ。美弥ちゃんは、安全な場所へ……」

「い、嫌っ! こ、こんな場所で一人になるくらいなら、キリスちゃんと一緒に行った方が絶対に安全だと思う!」


俺がそう言いかけると、美弥は慌てて首を横に振り、俺の服の裾をギュッと掴んだ。

確かに、目を離している隙に、もし他の化け物がまだ存在していて彼女の前に現れたら、美弥はひとたまりもないだろう。


「……わかりましたわ。でも、これからのわたくしの行動に、あまり驚かないでくださいましね?」

「え……?」


俺はニヤリと笑い、意識を集中する。

すると、キリスの足元に、淡く光り輝く魔法陣がゆっくりと展開され始めた。

魔法陣から放たれる光が拡散し、辺り一体が幻想的な光に包まれる。


そして、キリスの目の前の空間に、この洋館全体のマップが、まるで3Dホログラムのように立体的に浮かび上がったのだ!

そのマップ上には、いくつかの赤い点滅が表示されている。

それは、おそらく……。


「よし! 卓也さんたちの居場所がわかりましたわ!」


マップに表示された赤い点は、間違いなく、どこかへ消えた卓也とたけるの現在位置を示している。

これなら、もう迷うことはない。


そして、俺はさらに力を解放する。

バサッ!という音と共に、キリスの背中から、漆黒の巨大なコウモリの翼が勢いよく広げられた!


「ひゃっ!?」


美弥が、すぐ目の前で起こった常識外れの現象に、小さな悲鳴を上げてギョッとしている。

まあ、無理もない。さっきまでただの女の子だと思っていた友達が、化け物を殴り殺しただけでは飽き足らず、いきなり魔法陣を展開し、翼まで生やしたのだから。


「では、参りますわよ! しっかり掴まっていてくださいまし!」


俺はそう言うと、美弥の体を軽々と横抱きにし、翼を大きく羽ばたかせた。

そして、洋館の薄暗い通路を、凄まじい速度で飛翔し始める!


「きゃあああああああああああああああああああああっ!!!!」


あまりの速度と、突然の浮遊感に、美弥が絶叫に近い悲鳴を上げる。

ごめんよ美弥ちゃん、ちょっと荒っぽいけど、これが一番早いんだ。


さあ、待っていろよ、卓也、たける!

そして、この館に潜むかもしれない、さらなる恐怖よ!

こうなったら、俺が持てる能力を遠慮なく全て使って、俺のやり方で、この世界をクリアしてやる!

吸血鬼VTuber、キリス・コーツウェルの、本当の戦いはここからだ!

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