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第2話 ガチ異世界配信、開始します!

「…………」


自室のPCの前で、俺は呆然とモニターを見つめていた。

さっきまでの出来事が、まるで現実だったかのように肌感覚が生々しく残っている。

ゾンビを殴り飛ばした時の、あのグロテスクな感触。

燃え盛る街の熱気。

そして、何よりも……俺が美少女吸血鬼キリス・コーツウェルになっていたという、衝撃の事実。


「これ……もしかして……」


ゴクリと喉が鳴る。

とんでもない可能性に思い至り、心臓が早鐘を打ち始めた。


「とんでもない配信ができるんじゃね……?」


もし、さっきの体験が再現可能なら?

本当にゲームの世界に入り込めて、しかもそれをリアルタイムで配信できるとしたら?

それは、他の誰もやったことのない、前代未聞のコンテンツになる。

人気Vチューバー? いや、そんなレベルじゃない。

世界中が注目する、伝説の配信者になれるかもしれない!


「……やるしかねぇ!」


リスクはある。

さっきみたいに、また危険な目に遭うかもしれない。

でも、このチャンスを逃す手はない。

俺は意を決し、配信ソフトの設定画面を開いた。

そして、「公開設定」のボタンにマウスカーソルを合わせる。

一瞬ためらったが、ええい、ままよ! とクリックした。


「よし……行くぞ!」


深呼吸をして、『デッドマンズ・シティ』のアイコンをダブルクリック。

再びゲームが起動する。

キリス・コーツウェルの愛らしいアバターが、画面の隅に表示される。

さっきと同じように、オープニングムービーが流れ始めた。

そして……。


ぐにゃり。


来た! この感覚だ!

視界が歪み、強烈な浮遊感と共に意識が闇に包まれる。

今回は、さっきよりもほんの少しだけ、この奇妙な感覚に慣れていた。


次に目を開けると、そこはやはりあの燃え盛る廃墟の街だった。

アスファルトの硬さ、焦げ臭い匂い、遠くから聞こえるゾンビの呻き声。

間違いない。また、ゲームの世界に来たんだ。


「あ、あ、あ~……マイクテス、マイクテス……」


試しに声を出してみる。

すると、自分の口から発せられたのは、野太い杉田智之の声ではなく……。


「わっ……!?」


鈴を転がすような、可愛らしいアニメ声。

キリス・コーツウェルにぴったりな、完璧な美少女ボイスだった。

ボイスチェンジャーも使っていないのに。どうやら、この世界では声までアバターに最適化されるらしい。


「すっげぇ……」


感動しつつ、ふとポケットに手を入れると、硬い感触があった。

取り出してみると、それは俺のスマートフォンだった。


「え、スマホも持ち込めたのか!?」


これは僥倖だ。

早速、自分の配信チャンネルを開いてみる。

すると、驚くべき光景が広がっていた。

画面には、燃え盛る街の中にぽつんと立つ、青髪ロングの美少女……つまり、今の俺の姿が映し出されている。

しかも、まるでテレビ番組のカメラマンが撮影しているかのように、カメラアングルが頻繁に切り替わっているのだ。

俺の背後からのショット、少し引いた位置からの全身ショット、そして、俺の表情を捉えたアップのショットまで。


「何だこれ……? 誰が撮ってんだ……?」


見回しても、カメラマンらしき姿はどこにもない。

どうやら、この不思議な現象も、あの怪しいVチューバーセットの機能の一部らしい。

とんでもない技術だ。


スマホをポケットに戻し、俺は改めて周囲を見渡した。

視聴者は……まだゼロ。

まあ、いきなりゲリラ配信を始めたんだから当然か。


「よし、とりあえず……アーカイブに残すことも考えて、ちゃんと自己紹介からだな」


キリス・コーツウェルとして、俺はカメラに向かって(いるであろう方向に)微笑みかけた。


「えー、皆様、はじめまして! わたくし、200年の時を永らえる吸血鬼の真祖、キリス・コーツウェルと申しますわ!」


……自分で言ってて、ちょっと恥ずかしいな、これ。

いや、なりきらないと! 俺はキリス・コーツウェルなんだ!


「ふふっ、信じられないかもしれませんが……わたくし、今、とあるゲームの世界の中におりますの」


言葉を続ける。


「これから、この世界で何が起こるのか、わたくし自身も全く予想できません! ですが、このスリリングな体験を、皆様にお届けするべく……異世界実況配信を、始めたいと思いますわ!」


言い切った。

これで、もう後戻りはできない。


すると、視界の右端に、半透明のウィンドウのようなものがフワリと現れた。

そこには、文字が流れ始めている。


『えっ何この配信!?』

『CG? めっちゃリアルじゃん』

『異世界ってマジ??? 釣り乙』

『吸血鬼の真祖www 設定盛りすぎだろwww』


「おっ、コメントだ!」


ついに視聴者が来た!

しかも、ちゃんとコメントがリアルタイムで俺の視界に表示されるのか。これもあのセットの機能か。便利すぎる。


「コメント、ありがとうございます! CGじゃありませんわ、これは本物の……ええと、異世界ですのよ?」


しどろもどろになりながらも、返事をする。

心なしか、視聴者の数も少しずつ増えている気がする。


『ガチで言ってるならヤバい奴だなw』

『でもこの映像、どうやって撮ってるんだ?』

『女の子可愛いけど、頭おかしい子?』

『ゲームの世界って、何のゲーム?』


次々と流れてくるコメントに、俺は内心でガッツポーズをしていた。

食いつきは上々だ。


「何のゲームか、ですって? それは……この世界を探索しながら、皆様と一緒に明らかにしていきましょうか。わたくしも、まだ混乱しておりまして……」


と、その時だった。


キキィィーーッ! ドガシャァァァン!!


凄まじいブレーキ音と衝突音が、すぐ近くで鳴り響いた。

驚いて音のした方を見ると、一台のパトカーが、道路脇の個人経営らしき雑貨店に派手に突っ込んでいた。

煙を上げるパトカーの運転席から、一人の男が転がり出てくる。


「……!」


金髪をオールバックにした、いかにも屈強そうなアメリカ人の男。

その顔には見覚えがあった。


「あっ! アイツ……ゲームの主人公じゃん!」


そうだ、『デッドマンズ・シティ』のパッケージにも描かれていたメインキャラクターだ。

名前は確か……ジョンだったか、マイケルだったか……まあ、どっちでもいい。

彼がゲームの主人公であることは間違いない。


主人公は、パトカーの周囲に集まり始めたゾンビたちから逃れるように、突っ込んだ先の雑貨店の中に駆け込んだ。


「あそこでハンドガンを手に入れるんだよな、確か!」


俺はゲームの序盤の展開を思い出す。

確か、あの店の中で主人公は最初の武器であるハンドガンを見つけるはずだ。

これは……チャンスかもしれない!


「皆様、ちょっと行ってまいりますわ!」


コメント欄に断りを入れ、俺は主人公を追いかけて雑貨店の中へと足を踏み入れた。

店内は薄暗く、商品が棚から落ちて散乱している。

奥の方で、物音がした。


「見つけた……!」


案の定、店のカウンターの陰で、主人公が落ちていたハンドガンを手に取ったところだった。

そして、ちょうどその時、入り口から入ってきた一体のゾンビに気づき、躊躇いなく発砲。

乾いた銃声と共に、ゾンビの頭が弾け飛んだ。


「ふぅ……」


主人公が息をついた、まさにその瞬間。

俺の存在に気づいた彼が、素早くこちらに銃口を向けた。


「誰だ君は!?」


鋭い眼光で、俺を……いや、キリスを睨みつける主人公。

まずい、ゲームにはない展開だ。

こんなところで、主人公に敵認定されるのは避けたい。


「あ、あ、怪しいものではございませんわ! わたくし、キリス・コーツウェル! 200歳の吸血鬼ですの!」


咄嗟に、さっき配信でした自己紹介をそのまま口走ってしまった。

しまった、これは完全に不審者だ。


「何を言っているんだ!?」


案の定、主人公は眉をひそめ、さらに警戒を強める。

銃口が、ピクリとも動かない。


視界の端のコメント欄が、急速に流れ始める。


『そりゃそうだwww』

『完全に不審者www』

『200歳吸血鬼ですは草』

『主人公ドン引きでワロタ』


くそっ、視聴者は楽しんでるみたいだが、こっちは冷や汗ダラダラだぞ!

どうしよう、どうやってこの状況を打開すれば……。


そう悩んでいると、新たな危機が訪れた。


ガシャァァァン!! バリィィィン!!


店の窓ガラスが派手に割られ、そこから雪崩を打つように大量のゾンビが店内に侵入してきたのだ。


「くそったれ!」


主人公は悪態をつきながらも、俺に向けていた銃を下ろし、素早く店の奥へと続く階段を駆け上がっていく。

どうやら、一時休戦、といったところか。


「ま、待ってくださいまし!」


俺も慌ててその後を追いかける。

こんなところに一人で取り残されたら、いくら吸血鬼パワーがあっても危険だ。


階段を駆け上がり、2階のフロアに出る。

そこは、事務所か何かだったのだろうか、机やキャビネットが置かれているが、やはり荒れ果てていた。

そして、先に2階に上がったはずの主人公が、一体のゾンビに押し倒され、必死に抵抗している姿が目に飛び込んできた。

ゾンビの汚らしい手が、主人公の首に迫っている。


「危ないっ!」


俺はほとんど反射的に叫びながら、主人公とゾンビの間に走り寄った。

そして、勢いを殺さずに、ゾンビの胴体めがけて思い切り右足を振り抜いた。

サッカーボールを蹴るような、渾身のキック。


ゴッ!!!


鈍い衝撃音と共に、信じられない光景が広がった。

俺のキックを食らったゾンビは、まるで砲弾のように凄まじい勢いで吹っ飛び、2階の窓ガラスを突き破って建物の外へ。

そして、遥か彼方の道路の向こう側まで飛んでいき、小さな点になって消えた。


「…………え?」


主人公が、押し倒された体勢のまま、唖然とした表情で俺を見上げていた。

彼の口から、かろうじて言葉が漏れる。


「君は……一体、何なんだ?」


その問いに、俺は……キリスは、少し困ったように微笑んで答えるしかなかった。


「ですから……吸血鬼、ですの」


コメント欄が、かつてないほどの速さで流れていくのが見えた。

どうやら、俺の異世界配信は、とんでもない幕開けを迎えてしまったようだ。

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