第11話 まさかのギャルゲー転生!? 幼馴染とのドキドキ新生活!
前回の衝撃的な初配信から一夜明け。
俺、杉田智之は、再びキリス・コーツウェルとして、二度目の配信を開始した。
昨日の今日で、正直まだ心の準備ができていない部分もあるが、あのとんでもない反響を無視するわけにはいかない。
「皆様、こんばんはー! キリス・コーツウェルの2回目の配信へようこそ! こんなに早く、またお会いできるなんて、わたくしも嬉しいですわ!」
配信画面にキリスのアバターが表示され、俺が挨拶をすると、コメント欄が凄まじい勢いで流れ始めた。
そして、視聴者数が、みるみるうちに増えていく。
開始数分で、あっという間に数千人……いや、万単位に届きそうな勢いだ。
「そして、皆様! なんと、チャンネル登録者数が……は、8万人を突破いたしました! 本当に、本当にありがとうございます!」
ペコリと深くお辞儀をするキリス。
たった1回の配信で、この数字は異常としか言いようがない。
俺自身、まだ実感が湧かないのが正直なところだ。
コメント欄は「おめでとう!」「当然の結果!」「伝説の始まりを見た!」といった祝福の言葉で埋め尽くされている。
その温かい反応に、少しだけ胸が熱くなった。
「さてさて、それでは早速、本日プレイするゲームを発表したいのですが……その前に! 皆様、わたくしが何のゲームをプレイするか、ちょっと予想してみてくださいまし!」
視聴者とのコミュニケーションも大切だ。
俺は、少しでも配信を盛り上げようと、そんな質問を投げかけてみた。
すると、コメント欄には様々なゲームタイトルが挙げられ始める。
『次は「モンスターハンティングワールドワイド」でしょ! 吸血鬼パワーで古龍乱獲!』
『いやいや「グラウンド・シフト・オートV」でギャング吸血鬼無双だろ!』
『「エンデルリング・オブ・ザ・ロード」で褪せ人キリス爆誕はよ!』
『まさかの「どうぶつのユートピア」でスローライフとか?』
ふむふむ、みんな色々な予想をしてくれているな。
今流行りのAAAタイトルから、定番の人気作、果ては意外な変化球まで。
「たくさんのご予想、ありがとうございます! それでは、正解を発表いたしますわね! 本日わたくしがプレイするゲームは……こちらです!」
俺は、PCの画面にゲームのタイトル画面を映し出した。
そこに表示されたのは――。
『ときめき♡初恋ラブスクール』
桜並木の背景に、可愛らしい制服姿の女の子たちが描かれた、いかにもなギャルゲーのタイトル画面。
高校2年生の男の子が主人公となり、個性豊かなヒロインたちと甘酸っぱい学園生活を送りながら、恋愛を成就させていくという、王道かつ人気の恋愛シミュレーションゲームだ。
コメント欄は、一瞬の静寂の後、爆発的な反応を見せた。
『うおおおおおお! 俺の青春がここにあった!!!』
『なっっっつ!!! これ、全ルートクリアしたわwww』
『まさかの古めのギャルゲーwww キリスたん、チョイスが渋いwww』
『巫女委員長の和泉ちゃんが至高!異論は認めん!』
『幼馴染のみゃーこ一択だろJK』
どうやら、このゲームをプレイしたことのある視聴者はかなり多いようだ。
意外な選出に驚きつつも、どこか懐かしむようなコメントが並んでいる。
「ふふっ、わたくしは初プレイですので、皆様の反応がとても楽しみですわ! どんな素敵な恋物語が待っているのかしら?」
キリスは、無邪気にはしゃいでみせる。
だが、内心は少し不安だった。
これまでの経験から、俺はこのゲームの世界にもアバターの姿で入り込むことになるだろう。
そこで気がかりなのは、自分が一体どんな立場でこの世界に参加するのか、ということだ。
『デッドマンズ・シティ』では、ゲームの主人公とは別の、第三者的な立場だった。
しかし、もしこの『ときめき♡初恋ラブスクール』で、俺がゲームの主人公のポジションになってしまったら……?
キリスは女の子だ。つまり、ヒロインたちと恋愛する、まさかの百合展開になってしまうのでは……!?
(……まあ、それはそれで、一部の視聴者は喜ぶのかもしれないけど……)
そんなことを考えながらも、俺は意を決して「ニューゲーム」のコマンドを選択した。
そして――。
ぐにゃり。
やはり来た。視界が歪み、意識が遠のいていく感覚。
次に何が起こるのか、期待と不安が入り混じる。
「うぎゃっ!?」
突然、腹部にずしりとした衝撃を感じ、思わず変なうめき声を上げて目が覚めた。
そこは、見慣れない、しかしどこか生活感のある男の子の部屋のベッドの上だった。
そして俺の……いや、キリスのお腹の上には、ブレザー制服を着た、紺色の肩まで伸びた髪の毛の女の子が、人懐っこい笑顔で座っていた。
「もー! やっと起きた! 相変わらず寝坊助なんだから、キリ君は!」
女の子は、楽しそうにキリスの鼻先に人差し指をツンと突きつける。
そして、にぱっと笑って言った。
「さ、早く立って! 顔洗って、着替えて、朝ご飯食べて学校行こ!」
そう言って、彼女はキリスに向かって手を差し伸べてくる。
状況が全く飲み込めず混乱しながらも、俺は反射的にその手を取って起き上がった。
柔らかくて、温かい手だった。
視界の端に、コメント欄が猛烈な勢いで流れているのが見える。
『みゃーこキタ━━━━ヽ(゜∀゜ )ノ━━━━!!!!』
『うわああああ! 初手幼馴染イベントとか最高かよ!』
『この起こし方、懐かしすぎるwww』
『キリスたん、いきなり主人公ポジション確定じゃんwww』
『百合展開待ったなし!』
コメント欄の情報から、状況がある程度把握できてきた。
どうやら、俺はやはりこのゲームの主人公のポジションで転生したらしい。
そして、この目の前の女の子は、杉崎みやこ。通称「みゃーこ」。
主人公の幼馴染であり、このゲームのメインヒロインの一人だ。
子供の頃から家が隣同士で、毎朝こうして合鍵を使って主人公を起こしに来るのが日課。
お互いに恋愛感情はまだないが、彼女のルートに進むと、友達以上恋人未満の親愛が徐々に恋愛感情へと変わっていき、お互いを強く意識するようになる……という、王道中の王道な幼馴染ヒロインらしい。
つまり……俺は、この可愛い幼馴染と、これから甘酸っぱい学園ラブコメを繰り広げるかもしれないということか……。
しかも、女の子同士で。
色々な情報をコメント欄から吸収していると、みゃーこが不思議そうな顔で、キリスの顔を覗き込んできた。
「キリ君? どうかしたの? ぼーっとして」
その距離の近さに、思わずドキッとしてしまう。
コメントに集中していたため、不意を突かれた形になり、俺はバランスを崩して再びベッドの上にひっくり返ってしまった。
「わわっ! そんなに驚かなくてもいいじゃない、もう!」
みゃーこは、ころころと表情を変え明るい声で笑う。
その屈託のない笑顔は、今まで画面越しに見ていたアニメやゲームのヒロインよりも何倍も魅力的で、心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。
(やばい……現実になったギャルゲーヒロインの破壊力、半端なさすぎる……!)
俺は、これから始まるであろう波乱万丈な学園生活に、期待と、そして一抹の不安を抱きながら、みゃーこの眩しい笑顔を見つめ返すのだった。