表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/35

第10話 レトロゲームで実験、そして確信

翌朝。

俺、杉田智之は、ベッドの上で重い瞼をこじ開けた。

昨日の出来事が、まるで夢だったかのように現実感が薄い。

だが、部屋の隅に置かれたPCと、そのモニターに映る消し忘れていた『デッドマンズ・シティ』のタイトル画面が、あれが紛れもない現実だったことを物語っている。


「……シャワーでも浴びるか」


昨夜は配信終了後、そのままベッドに倒れ込んでしまったため、体は汗と疲労でベタベタだ。

シャワーを浴びてサッパリし、冷蔵庫にあった食パンと牛乳で簡単な朝食を済ませる。

少しずつ、現実世界のリズムを取り戻していく。


そして、俺は再びPCの前に向かった。

昨日の配信は大成功だった。いや、成功という言葉では生ぬるい。

世界的なバズりを巻き起こし、一躍、時の人(Vチューバー)になってしまった。

だが、それと同時に、この謎の配信キットに対する疑問と興味は、ますます大きくなっていた。


「……実験してみるか」


俺は、配信ソフトを立ち上げ、今度は「オフラインモード」に設定した。

さすがに、またいきなり何万人もの視聴者の前で奇行を晒すわけにはいかない。

まずは、このキットの能力を、もっと詳しく調べてみる必要がある。


どのゲームで試そうか。

昨日の『デッドマンズ・シティ』は、3Dのリアルなホラーゲームだった。

もっと単純な、例えば……レトロゲームならどうだろうか?


俺は、PCにインストールされていた、世界的に有名なレトロゲームのコレクションの中から、一本のタイトルを選んだ。

その名も『スーパーマルオシスターズ』。

赤い帽子にオーバーオールの姉妹が主人公の、面クリア型の横スクロールアクションゲームだ。

これなら、子供の頃に散々プレイしたから、勝手も分かっている。


ゲームアイコンをクリックし、起動する。

画面には、懐かしい8bitのタイトル画面が表示された。

そして……。


ぐにゃり。


「来た……!」


昨日と同じ、視界が歪む感覚。

そして、強烈な浮遊感。

間違いない。また、ゲームの世界に引きずり込まれる!


次に目を開けた時、俺は……いや、キリス・コーツウェルは、見慣れた、しかしどこか新鮮な光景の中に立っていた。

目の前には、緑色の土管。頭上には、ハテナマークが描かれた四角いブロックが浮かんでいる。

遠くには、青い空と、白い雲。

そして、地面には、茶色いレンガブロックと、時折見える落とし穴。

紛れもなく、『スーパーマルオシスターズ』の世界だ!


「おお……! 本当に、マルオの世界に来ちまった……!」


子供の頃、テレビ画面にかじりついて見ていた世界が、今、目の前に現実として広がっている。

その事実に、言いようのない感動が込み上げてきた。

キリスの姿で、このドット絵の世界に立っているのは、なんともシュールな光景だが。


ふと、遠くに目をやると、お馴染みのポールと、その先端にはためく旗が見えた。

なるほど、あそこがこのステージのゴールだな。

俺は、おぼつかない足取りで、そちらに向かって歩き始めた。


少し進むと、前方からキノコのような形をした敵キャラクターが、のそのそとこちらに近づいてくるのが見えた。

ゲームでは「ウリボー」なんて呼ばれていた、お馴染みのザコ敵だ。


「原作と同じなら……踏めば倒せるはず!」


俺は、吸血鬼の身体能力を思い出し、軽く地面を蹴った。

すると、キリスの小さな体は、まるでバネでも仕込んであるかのように、驚くほど高く宙へと舞い上がる。

そして、落下しながら、ウリボーの頭上めがけて思いっきり踏みつけた!


ポコンッ!


小気味の良い、可愛らしい効果音と共に、ウリボーはぺしゃんこに潰れて消滅した。


「わぁ! 原作と一緒だ! すごい!」


思わず、子供のようにはしゃいで、その場でピョンピョンと飛び跳ねてしまう。

あの、画面の中でしか見たことのなかったアクションを、今、自分の手で……いや、足で再現できたのだ。

その感動は、言葉では言い表せない。


……ん?

俺、今、何やってんだ?

ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ22歳の男……。

我に返り、急に恥ずかしくなる。

どうも、このキリス・コーツウェルという美少女アバターになっていると、精神までその見た目に引っ張られてしまう傾向があるようだ。

まるで、本当に10代前半の女の子になったかのような、無邪気な感情が湧き上がってくる。


「……まあ、視聴者的には、こういうリアクションの方が喜んでくれるだろうし、いっか」


俺は気を取り直し、再びゴールを目指して進み始めた。

落とし穴を軽々と飛び越え、出現する敵を的確に踏みつけて倒していく。

吸血鬼の身体能力のおかげで、ゲームの難易度はあってないようなものだ。

むしろ、この世界を探検するのが楽しくて仕方がない。


しばらく進んでいると、ふと、ある考えが頭をよぎった。

『デッドマンズ・シティ』では、キリスの吸血鬼としての能力……例えば、飛行能力なんかも使えた。

この『スーパーマルオシスターズ』の世界でも、それは可能なのだろうか?


俺は、背中に意識を集中し、翼を広げるイメージを思い浮かべた。

すると、昨日と同じように、キリスの背中から漆黒のコウモリのような翼がバサリと現れた。


「おお……! やっぱり使えるのか!」


翼を軽く羽ばたかせると、ふわりと体が宙に浮く。

問題なく、吸血鬼パワーは健在のようだ。

『デッドマンズ・シティ』のようなリアルな3Dゲームでも、この『スーパーマルオシスターズ』のようなドット絵の2Dゲームでも、アバターの設定は世界観を無視して適用されるらしい。


「ということは……」


俺はニヤリと笑い、翼を大きく羽ばたかせて空へと舞い上がった。

そのまま、ステージの道中にある落とし穴も、敵キャラクターも、全てスルーして、一直線にゴールの旗へと飛んでいく。

これは……完全にチートプレイだ。

ゲームバランスも何もあったもんじゃない。


「まあ、実験だからいいか」


苦笑いしながら、俺はゴールである高いポールのてっぺんに軽々と着地し、その先端にある旗にタッチした。


パパパパーン! ファンファーレ!


次の瞬間、画面上部(というか空)に、大きな花火が打ち上がり「1-1 CLEAR!」という文字と、獲得スコアが表示された。

うん、紛れもなく、ステージクリアだ。


「よし、じゃあ、現実世界に戻るか」


俺は、強く心の中で念じた。

元の世界へ帰りたい、と。

すると、やはり昨日と同じように、視界がぐにゃりと歪み、次の瞬間には自室のPCの前に戻っていた。

モニターには、『スーパーマルオシスターズ』のステージ選択画面が表示されている。


「……間違いない」


俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

この怪しげな配信キットはやはり、ジャンルを問わず、あらゆるゲームの世界に入り込むことができる、とんでもない装置なのだ。

3Dだろうが2Dだろうが、ホラーだろうがアクションだろうが、関係ない。

ゲームであれば、何でもあり。


「ゲーム実況の……歴史が、変わるぞ……!」


俺の心臓が、期待と興奮で高鳴っていた。

この力を手に入れた俺は、一体どこまで行けるのだろうか?

そして、この力は、俺に何をもたらすのだろうか?

まだ見ぬ未来への期待と、ほんの少しの不安を胸に、俺は次の「ゲーム実況配信」へと意識を向けるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――


【衝撃】新人V・キリス・コーツウェルの初配信がヤバすぎると話題に【ガチ異世界?】


1:名無しの視聴者さん

いや、マジで今日のキリス・コーツウェルの初配信、一体何だったんだ……?

ゾンビゲー実況かと思ったら、ガチでゲームの世界入ってなかったか?

映像もリアルすぎだし、あの吸血鬼パワー何だよ……。

お前らも見たろ? とりあえず語ろうぜ。


2:名無しの視聴者さん

見た見たwww 最初はよくある美少女Vのホラゲー実況かと思って油断してたわ

配信開いたらゲーム画面じゃなかったし途中から展開おかしくなりすぎてポカーンだった


3:名無しの視聴者さん

あのゾンビの吹っ飛び方、どう見ても人間の力でやれるレベルじゃねーだろwww

タンスぶん投げてバリケード作ってたのには流石に草


4:名無しの視聴者さん

>>1

乙。

俺も最初、最新の超美麗CGかと思ったけど、なんか生々しさというか、焦りとか恐怖がリアルすぎて鳥肌立ったわ。

特に化け物との戦闘シーン、あれ本当にゲーム画面か?


5:名無しの視聴者さん

キリスたんのスペック盛りすぎ問題。

200歳吸血鬼、怪力、飛行能力、おまけに黒炎魔法とか……厨二設定てんこ盛りだけど、それをガチでやってのけるから困る。


6:名無しの視聴者さん

ジョンとかいう主人公(笑)完全に空気だったよな。

娘のキャシーも原作だと死ぬはずなのに、キリスが無理やり生存ルートこじ開けてて草。

アルストロメリア製薬の闇を暴くとか、完全にストーリー改変してるし。


7:名無しの視聴者さん

てか、視聴者数エグいことになってなかった?

俺が見始めた時まだ数百人だったのに、最後2万人超えてたぞ。

Twitterトレンドも独占してたみたいだし、伝説の初回配信だろこれ。


8:名無しの視聴者さん

>>7

それな。口コミで人増えすぎ。

「なんかヤバい新人がいる」って感じで。

コメントも「CG?」「ヤラセ?」「いやガチっぽい……」で埋まってたな。


9:名無しの視聴者さん

最後の最後、いきなりスタッフロール流れたのにはビビった。

キリスたんも完全に素に戻ってて可愛かったけどw

「にっ!?2万人!?」は可愛い。


11:名無しの視聴者さん

あの美少女アバターで中身おっさんだったら萎えるけど、キリスたんのリアクションはガチで女の子っぽかったよな?

「オシッコちびりそう」とか「逃げていい?」とか。

まあ、演技かもしれんが。


12:名無しの視聴者さん

>>11

そこがいいんじゃねーか。

強大な力持ってるのに、精神は普通の女の子っぽいギャップが。

ポンコツ吸血鬼最高。


14:名無しの視聴者さん

次回配信が楽しみでもあり、怖くもある。

次はどんなゲームにダイブするんだろうか。

そして、この現象は一体どこへ向かうのか……。


15:名無しの視聴者さん

とりあえず、キリス・コーツウェルは要注目ってことでOK?

チャンネル登録しといたわ。


16:名無しの視聴者さん

>>1

スレ立て感謝。

今回の配信はマジで「事件」だった。

今後の動向を生暖かく見守ろうぜ。

間違っても中の人特定とかはやめろよお前ら。野暮だぞ。


87:名無しの視聴者さん

次はどんな神回を見せてくれるのか、期待しかない。

とりあえず、アーカイブもう一周してくるわ。


88:名無しの視聴者さん

あの黒炎魔法「終末の黒き太陽」、ネーミングセンスだけはアレだったけど威力はガチだったな。


119:名無しの視聴者さん

サラさん生存ルートはマジでGJ。

原作の鬱展開知ってるから、見ててハラハラしたわ。

キリスたん、マジでヒーロー。


760:名無しの視聴者さん

そろそろ次スレの準備しとくか?

この勢いなら Part2もすぐ埋まるだろ。

タイトルは「キリス・コーツウェル、次はどんなゲームを破壊するのか見守るスレ」とかでどうだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ