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死期予見  作者: 本郷真人
第九章
61/69

(9)

 午後10時。

 蔵岡署では一つの問題が起きていた。それは警察庁から派遣されてきた三人の刑事が相次いで行方不明になったことである。

「だめです。山口さんも宮本刑事も電話に出ません。二人とも携帯の電源を切っているみたいです。」

「そうですか。」

 菅原千尋刑事の報告を聞いた木下剛警部はうなだれた。蔵岡署の警察官たちも捜索に当たっているのだが、良い報告はなかった。

“ジリリリリリリリ。”

 木下警部の携帯電話が鳴り出した。彼はすぐに電話に出た。

「はい。木下です。」

『警部、お疲れ様です。佐々木です。』

 電話を掛けてきた相手は佐々木信彦警部補だった。

『申し訳ありません。山口刑事と宮本刑事の行方は未だつかめていません。二人が最後に訪れた沖田満の自宅にも行ったのですが、彼らはお昼ぐらいにはもう沖田満の母への聞き込みを終えて出て行ったようです。おそらく行方不明になったのはその後かと思います。』

「そうか。ありがとう。引き続き捜索にあったってください。また、沖田宅周辺に蔵岡署の警察官達を派遣するんで、もし彼らとあった場合は協力お願いします。」

『分かりました。全力を尽くします。』

 その言葉を最期に佐々木警部補は電話を切った。木下警部と佐々木警部補の通話時間は一分にも満たない短いものであったが、それは早く二人の仲間の捜索に戻りたいという佐々木警部補の気持ちの表れであるということに木下警部は気が付いていた。

「はあ。」

 佐々木警部補との通話を終えた木下警部は、深いため息を一つつくと文字通り頭を抱えた。

「玉橋刑事が音信不通になった時に異常な事態になっていることに気が付くべきだった。真面目な玉橋刑事が連絡を寄越さなくなるなんてことはおかしいのに。その時に何かしらの対応をしておけばこんな状況は防げたはずだ。」

 木下警部は自虐気味に言った。彼は今の状況が自らの判断ミスが生んだことであると認め、それ故にどうしようもない後悔に襲われていた。その様子を見ていた菅原刑事はなんとかして彼を慰めようと努力した。

「警部、過ぎてしまったことは仕方がないですよ。とにかく今は三人の無事を祈るしかありません。玉橋刑事に限っては日数が経ってしまっているので大変心配ではありますが、もしも宮本刑事達と一緒にいたらまだ希望はあります。宮本刑事の豪腕ぶりは警部も知っていますよね。それに三人にまだ何があったのかは全く分かっておりません。おそらく何者かに監禁されている可能性が高いでしょうが。」

 菅原刑事は本日、木下警部と一緒に事務作業を行っていた。普段、彼女は佐々木警部補と一緒に捜査に当たることが多いのだが、昨日、『協力者がいて、しばらく一緒に行動することになった。』と佐々木警部補から連絡をもらったため、この日は捜査資料をまとめたり、二年前の遺留品を調べたりなどの作業をしていたのである。

「ああ、そうだ。菅原刑事の言うとおりだ。ここで悩んでいたって仕方がないのに。とにかく二人を探さなくては。蔵岡警察署の警察官達と佐々木警部補達が外で必死になって捜索にあたっているから、三人はきっとすぐに見つかるはずだ。私たちも捜索に行かなくては。菅原刑事、蔵岡署の誰かに頼んでパトカーを一台貸してもらってきてほしい。」

「了解しました。すぐに頼んできます。」

 菅原刑事は前を向き始めた木下警部を見て少し安堵すると、すぐに行動しはじめた。


 同時刻。

 佐々木警部補はまだ岩松節子と一緒にいた。佐々木警部補は昼食を終えた後、何度も山口龍平刑事と宮本彰吾刑事に電話を掛けていた。しかし二人の携帯の電源がずっと切れたままだったため繋がることはなかった。そしてそれを不信に思った佐々木警部補はこれを木下警部に報告した。後にこの佐々木警部補の知らせが三人の刑事達の捜索に繋がることになった。木下警部に山口刑事達のことを報告した佐々木警部補は岩松節子と一緒に彼女が在籍していた高等学校を訪れ、遠藤明について彼女を知っている教職員達に尋ねて回った。その後、遠藤明が通っていた小学校や中学校にも二人は足を運んだ。しかし結果はどこも同じであった。遠藤明という人物を知っている者による彼女の評価は総じて『問題を一回も起こさないよい子であった。』というものだった。

「山口刑事と宮本刑事、そして玉橋刑事でしたっけ。連絡が全く取れないなんて、非常に心配ですね。」

 岩松節子は佐々木警部補が運転する覆面パトカーの助手席に乗っていた。彼女の言葉に佐々木警部補も同意した。

「ええ、三人ともこんなに連絡が付かなくなるなんて事は今まで一度もなかったんです。三人に何かあったとしか考えられません。しかし分からない。三人とも警察官です。それなりの訓練は積んでいます。そう簡単に誰かに捕まるとは思えない。宮本刑事と山口刑事に限っては二人とも男性で体格もそれなり。そして一緒に行動していたんです。これをどうにかするとしたら一人二人なんて数ではないはずです。犯人はもっといたはずです。」

「ええ、私もそう思います。二人とも警察官らしく一般人よりも体格は良いのにそう簡単に誰かに捕まるなんておかしいです。」

 岩松も佐々木警部補に同意した。その後二人はしばらくの間無言で過ごした。そして彼ら二人を乗せた覆面パトカーは、山口刑事、宮本刑事の両名が最期にいたとされる沖田満の自宅に到着した。

「ここは・・・。」

 パトカーから降りて沖田宅を見つめる岩松節子がつぶやいた。

「二年前に起きた猟奇殺人事件。ここは二番目の被害者である沖田満の自宅です。もしかして何かご存じでしたか?」

 岩松の様子を見た佐々木警部補が彼女に尋ねた。

「いえ、なんとなく見覚えがあるような気がしただけです。山口刑事と宮本刑事はこの場所を最後に行方が分からなくなったのですね。」

「はい。沖田満の母親に聞き込みを行ったそうなのですが、その後の足取りがつかめていません。とりあえず沖田の母親に二人の事を聞いてみます。」

 佐々木警部補はそう言うと、沖田宅のインターホンを鳴らした。その直後、沖田宅の玄関のドアが開き、三人の男が出てきた。それは蔵岡警察署の警察官達だった。

「お疲れ様です。確か佐々木警部補でしたよね?」

 沖田宅から出てきた一人の警察官が佐々木警部補に尋ねた。他の二人の警察官は沖田満の母親に礼をして別れの言葉を述べていた。

「はい、そうです。えっとあなたたちは?」

「木下警部に言われて山口龍平巡査部長と宮本彰吾巡査長の捜索を行っています。沖田夫人に二人のことを尋ねたのですが、その後の彼らの行く先は分かりませんでした。念のため沖田宅を少し見たのですが何の情報もありませんでした。」

「そうでしたか。二人は二年前の連続殺人事件について調べていました。山口刑事の普段の捜査のやり方からして、彼は第二の事件である沖田満殺害に焦点を置いて捜査していたのだと思います。」

「ということは・・・。」

「はい。沖田満の関係者を洗っていたはずです。もしかしたらその中に二人の行方の手がかりになる情報を持っている人がいるかもしれません。とりあえず、私は今の状況を木下警部に報告します。皆さんは引き続き二人の捜索をお願いします。」

「分かりました。」

 佐々木警部補から指示を受けた蔵岡署の警察官達はすぐに行動に移り、彼の元から去って行った。去りゆく警察官達の後ろ姿を見つめる佐々木警部補の心の中は不安でいっぱいだった。もちろん仲間の捜索に協力してくれる蔵岡署の人間への感謝の気持ちはあった。しかし、それを自覚する余裕は今の警部補にはなかった。仲間が行方不明になってから時間が経ち、それに伴って警部補の不安も増大した。

「大丈夫ですか?」

 岩松節子が佐々木警部補の顔をうかがいながら彼に聞いた。

「ええ、すみません。なぜこんなことになったのか、もう訳も分からなくて。三人が本当に心配です。」

「きっと大丈夫ですよ。たくさんの警察の方が捜索しているのでしょう?なら必ず見つかるはずです。とりあえず、今の状況を木下警部に報告した方が良いのではないでしょうか?二人が最期に目撃された場所は必ず捜索に役立つはずですし。」

「そうですね。その通りですね。岩松さん、ありがとうございます。少々取り乱しておりました。まずは木下警部に二人の足取りを伝えましょう。そしてすぐに彼らの捜索に戻りましょう。」

「大丈夫そうなら良かったです。でも私は一般人なので付き合っても大丈夫でしょうか?」

「それなら大丈夫ですよ!岩松さんは協力者ですから!」

 岩松節子が自身の存在意義を問うた瞬間、佐々木警部は慌ててそれを是とした。正直に言うと仲間の捜索に関して岩松はいる必要がなく、佐々木警部補も岩松節子自身もその事実を認めているのだが、警部補はなぜか岩松のことを引き留めてしまった。おそらくこれには佐々木信彦自身の心情が大きく影響している。そして彼もそれを自覚していた。彼はたった二日間という短い期間であるというのに、その短時間を有しただけで自分が岩松を好いてしまっているという事実に気づいたのである。なぜ一昨日まで見ず知らずの人間であった彼女のことをここまで愛してしまったのか、それは佐々木警部補自身にもわからなかった。しかし今日、激動の今日の出来事により佐々木警部補の心は確実にすり減っていた。日々の出世競争、凶悪な事件と接するうちに彼の心はもろくなっていた。そんな時に見ず知らずの土地で起こった友人とも言えるべき仲間達の連続失踪事件である。彼の心に穴ができるのは彼を知る人間ならば誰でもわかることだった。そんな穴を埋めるように新たに現れた岩松節子という異性の人間。このように佐々木警部補が岩松節子を好いてしまうのに時間は要らなかったのである。

「わかりました。私が何かお役に立てることがありましたら。」

 岩松は佐々木警部補に笑みを浮かべていった。佐々木警部補は日が沈むにつれ低下した自信の体温が再び上昇するのを感じた。

「ありがとうございます。岩松さん。」

 佐々木警部補は心から感謝した。岩松節子という存在自体に対して。

 その後二人は失踪した特別チームのメンバー達の捜索に戻った。この後の捜索に参加した警察官の人数は、急であるというのに総勢四〇人に及んだ。いつものようにパトカーに乗り夜間パトロールに出ている蔵岡署の警察官、非番である警察官、大勢の警察官が捜索に参加した。この日、蔵岡市には無数のパトカーのサイレンの音が鳴り響いた。それは午前〇時になるまで続いた。午前〇時を過ぎてから警察官達はサイレンの音を消して捜索を続けた。誰もが仲間である三人の人間を必死になって探した。そしてこの大捜索は蔵岡警察署に掛ってきた一本の通報によって終了することになる。

 

 10月9日午前2時30分。

 一人の人間が市内にある公衆電話の一つから蔵岡警察署に一本の電話を掛けた。

「はい。蔵岡警察署です。事件ですか?事故ですか?」

 署内で電話番をしている30代の男性巡査部長が受話器を取り、通報者に尋ねた。

『事件です。三人の人間の遺体が湯野岬第二トンネルにありました。三人とも警察官のようです。』

 そう言うと通報者はすぐさま電話を切った。

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