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死期予見  作者: 本郷真人
第九章
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(5)

 10月8日午前9時。

 佐々木信彦警部補は、昨日出会った岩松節子と名乗る女性と一緒にいた。昨日、彼らは八雲製作所を訪れ、遠藤明という元社員についての話を尋ね回った。その後、佐々木警部補は過去に遠藤明という名前を蔵岡署のデータ室で夜遅くまで調べ続けた。

 佐々木警部補と岩松節子の両名は現在、待ち合わせをしていた喫茶店にいた。開店と同時に店内に入り、駐車場の様子がよく見える窓際の席に座っていた。

「岩松さんの言った通り、遠藤明という女性の周りにいる人は、事故に遭遇する確率が他の人よりも高いようですね。今の世の中、パソコン一つで何でも調べられます。しかし、遠藤明という人物が原因であるようには思えませんでした。どの事故、事件も偶然に偶然が重なって起きたような不思議なものでしたが、決まって現場に遠藤がいるわけでもない。確かに彼女は怪しいと感じます。昨日訪問した八雲製作所でも、花村によって焼き殺された社員の中に、遠藤の悪評のようなものを社内で流し、彼女が自主退職するに至った原因を作った人々もいました。しかし、花村のぼると遠藤の接点もさっぱりありませんでした。正直に言って、遠藤明の罪を立証することは今のところ不可能に近いと思います。何せ事件、事故に関わっているという確証が一つも無いのですから。」

「ええ、それはもう分かっていますよ。でも佐々木さんも思っているのでしょう?いくらなんでも出来すぎていると。」

「それはまあ。ここまで遠藤の都合よく、彼女の周りで死人が出ていましたので。でもそれだけです。本当にそれだけなんですよ。これを彼女の所為にするのは無理があります。」 

 そう言うと、佐々木警部補は頼んでいた温かいミルクティーに口を付けた。

「もしかしたら本当に遠藤明という人間は超能力でも持っているのかも知れないですね。」

 岩松は力なく笑って言った。

「まああり得ない話ですが、そうだとしたらさらに立証は難しいですね。なんせ人知を越えたものですからね。」

 佐々木警部補も岩松に笑い返した。昨日、出会ったばかりだというのに、二人の間には一種の信頼といった関係が生まれ始めていた。目的共有は団体行動を生じさせる。現在、彼ら二人は共通目的によって仲間意識を芽生えさせているのである。

「これからどうしますか?」

 岩松が佐々木警部補に尋ねた。

「遠藤が過去に起きた多くの事故死に関わっているということを立証する事は出来ません。例え数々の偶然を彼女が引き起こしていたとしても、私たちにはその術を知ることは出来ません。出来すぎてはいますが、過去の事故、事件に不可解な点は全くありませんでした。しかし、二年前に起きた連続猟奇殺人は別です。」 

「別、と言いますと?」

「花村のぼるの殺人動機は未だに不明のままです。単なる無差別殺人だったのか。あるいは何か殺害する理由があったのか。何にせよ、花村の動機に遠藤が絡んでいたとしたら、彼女を立件できます。」

「犯人の動機はまだ不明だったんですね。」

「はい。当の本人は渡部巡査部長によって殺されてしまいましたし、被害者同士にも関係性などは一切ありませんでした。しかし、これにもし第三者が関わっていたとしたら、話は違ってきます。もしも被害者達の接点が遠藤明という一人の人物によって結びつけられていたとしたら、これまでの不可解な点が全て払拭できるかも知れません。遠藤明という人物がどれほど事件に関わっているかはまだ分かりませんが、調べてみる価値はあると思います。」

 佐々木警部補は少し興奮しているようだった。そんな佐々木警部補の様子に岩松も気が付いていた。

「とりあえず、これから山口さん達と合流しましょう。現在、山口刑事と宮本刑事という二人の刑事が連続猟奇殺人事件の事件現場を回って、関係者達に話を聞いている最中なんです。二人とも優秀な刑事で、特に山口刑事は凄腕なんですよ。」

「それはなんとも頼もしいですね。」

 少し微笑んだ岩松を見て、佐々木警部補は自分の体温がわずかに上昇したことを感じた。

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