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午前10時。
佐々木信彦警部補は、玉橋里美刑事が滞在していたビジネスホテルを訪問していた。普段、特別チームのメンバーは同じホテルに滞在しているのだが、今回は長期滞在であったため、全員一緒のホテルを予約することが出来なかった。それ故、別々のホテルに泊まることになってしまったのである。
「すみません。今、玉橋里美さんは部屋にいますか?」
佐々木警部補は早速、ホテルのフロントで尋ねた。
「少々お待ちください。」
フロントにいた従業員は、すぐにパソコンで宿泊者を調べ始めた。
「申し訳ありません。玉橋様は昨日、日中にお出かけになってからまだ戻られていないみたいです。」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます。ちなみにどこへ行くとか聞いてはいないですよね。」
「はい。申し訳ありませんが、存じ上げておりません。」
佐々木警部は、玉橋刑事の行方に関してなんの手がかりも得られなかったが、念のため、そのことを木下警部に電話で報告した。警部への報告を終えると、彼は通常業務に戻ることにした。今日の彼の主な予定は、大勢の犠牲者を出した八雲製作所への聞き込みである。早速、彼は八雲製作に向けて出発しようとしたが、ホテルから出る時、誰かに呼び止められた。
「突然すみません。あの、その、先ほど玉橋里美さんのことをホテルフロントで聞いていましたよね?」
佐々木警部補を呼び止めたのは20代ぐらいの女性だった。
「ええ、そうです。申し訳ないのですが、あなたは誰ですか?玉橋さんについて何か知っているんですか?」
佐々木警部補の質問に対し、女性は少し口ごもり、警部補から目をそらして下を向いた。
「彼女に何かあったんですか?」
佐々木警部補が強い口調で女性を問い詰めると、女性は少し身体を震わせながら口を開いた。
「大変言いにくいのですが、彼女はもう亡くなっていると思います。」
「・・・どういうことですか?」
佐々木警部補は女性の発言に驚きながらもなんとか冷静さを保ちながら、再度女性に尋ねた。
「その人、今から一週間ぐらい前にあの女に会っているんです。」
「あの女とは?」
「遠藤明という名前の女です。遠藤の周りでは不自然なくらいにたくさんの人が死んでいるんです。私の友達も二人死にました。ある日、二人そろってトラックにはねられました。」
「トラックにはねられたって、そのトラックと遠藤という女性は、何か関係していたんですか?」
「いえ、警察からは全く無関係だと言われました。トラックを運転していた男は、事故の時、心臓発作を起こしていたらしく、遠藤との繋がりも一切ありませんでした。」
「それじゃあ、あなたのただの思い込みでは?」
「違うんです!本当にあの女の周りでは人が死ぬんです!」
「わかりました。お話は後日、署で聞きますので。」
そう言うと、佐々木警部補はその場を去ろうとしたが、その時、彼に話しかけた女性が声を出した。
「遠藤は八雲製作所の元社員で、バス放火事件の数日前に会社を解雇されているんです!偶然なんかじゃありません!彼女が一連の事件に関わっているんです!」
この女性の発言によって、佐々木警部の足が止まった。
「ちょっと待ってください。八雲製鉄所ですか?」
「はい。」
「そうだ。遠藤明という名前、なんですぐに思い出さなかったんだ!二年前の蔵岡市連続猟奇殺人事件の犯人、花村のぼるが最後に標的にしていた人物の名前だ!遠藤明という女性は、本当に八雲製鉄所を事件の前に解雇されていたんですか?」
「はい、二年前に矢木という女性警察官にも言ったのですが、その人、まともに取り合ってくれませんでした。私は、遠藤が解雇された腹いせに花村のぼるにやらせたのではないかと思ったんです。」
「矢木?もしかして矢木瞳か?」
佐々木警部補の頭の中でめまぐるしく様々な推測が飛び交った。事件は全て遠藤明という人物を通して繋がっていた?花村ぼるの単独犯ではなかったのか?矢木瞳巡査も何らかの形で事件に関わっていた?渡部斉紀巡査部長の存在は?彼の家族が殺された明確な原因は?
いくら考えても佐々木警部補は考えをまとめることが出来なかった。しかし、彼の頭の中で、唯一はっきりとしていることがあった。遠藤明は事件に関係している。それだけは確かに言えることだった。
「調べましょう、遠藤明のことを。丁度これらから八雲製作所に行くところでしたし。すみません。出来ればですが、八雲製作所に私と一緒に来ていただくことは可能でしょうか?」
「はい、むしろ喜んでいきたいですよ。私の話を聞いてくださって、本当にありがとうございます。こんな突拍子もない話、誰も聞いてはくれませんから。」
女性が少し笑みを浮かべてそう言うと、佐々木警部は、まだ女性の名前を聞いていなかったことを思い出した。
「すみませんが、お名前を教えていただけないでしょうか?まだ聞いていなかったと思いまして。」
「ああ、済みません。私の名前は岩松節子です。遠藤明は、私が高校生だった時のクラスメイトだったんです。」




