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死期予見  作者: 本郷真人
第八章
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(4)

 10月3日午後4時。

 タカハシモーター本社から一人の人物が出てきた。遠藤明である。

 彼女は本日の午前昼前に玉橋里美という中年の女性刑事との面会の後、体調不良を訴えて会社を早退することになった。会社は彼女のことを心配し、自宅までのタクシー代の負担を申し出た。彼女はこのタカハシモーター本社までバスで通勤していた。しかし、地方都市である蔵岡市では、バスが往来する頻度は少なく、そのため彼女が会社を早退することになった時間にバスは走っていなかった。そこで、会社は彼女にタクシーを手配したのである。

 遠藤が会社の門前で数分待っていると、一台のタクシーがやって来た。タクシーは彼女の前に停車し、後部座席のドアが開いた。

「お待たせしました。タカハシモーターさんの社員の方ですよね。お電話を受けました蔵岡タクシーです。」

 遠藤がタクシーの後部座席に乗り込むと、運転手が彼女に声をかけてきた。

「お宅の住所を教えてください。」

「田沢村までお願いします。」

「分かりましたシートベルトをお願いしますね。」

 タクシー運転手は、遠藤がシートベルトを着用したことをミラー越しに確認すると、運転席と助手席の間に設置されているメーターの開始ボタンを押し、タクシーのアクセルを踏んだ。

 タクシーは法定速度ぎりぎりのスピードを常に維持しながら、蔵岡市内を駆け抜けていく。遠藤は車窓から簡素な住宅街やのどかな田園風景を眺めながら、一人静かに熟考していた。

(蔵岡市内において事故で死にそうな人物は、少なくとも一週間は出ないだろう。そして今後もすぐに出るとは限らない。いや、出ない確率の方が断然高いだろう。私が常套手段として用いる巻き込み殺人方法はそう簡単なものではない。幾度と繰り返し、長期間掛けてようやく達成することがほとんどだ。そう簡単に事故死や殺人が起きることはないのだから。本当に運が良い場合を除けば、非常に手間が掛かる殺害方法なのだから。)

 『さてどうしたものか』と遠藤は考える。再捜査に当たっている警察官は幸いにも本庁から来た少数だけだと彼女は推測した。彼らさえいなくなってしまえば、また穏やかで平和な日常が戻ってくることを彼女は確信していた。しかし、遠藤は落ち着いて考えてみてもなかなか良い方法を思いつくことができなかった。

 遠藤はイライラした様子で窓の外を見つめ続けた。そんなときだった。彼女を乗せたタクシーはある会社の前を横切った。

「あっ。」

 遠藤の口から自然と言葉が漏れた。彼女の目に映ったのは、以前、彼女が働いていた八雲製作所の本社だった。

 それを見た時、彼女の頭がめまぐるしく回転した。そして全てを解決することができる一つの可能性を導き出した。

(そうだ。そうだった!遺族だ。遺族を使えばいいじゃないか。復讐は人が殺人を犯す最もな動機だと、前に私自身が確信したことじゃないか。なんでこんな簡単な答えを思いつかなかったんだろう。)

 遠藤の表情が晴れやかなものになった。退職し、全てのストレスから解放された企業戦士のような顔になった。

(一番使えそうな奴は・・・今井だな。今井佳枝の家族だ。あいつは渡部斉紀に監禁されていたことになっているから、恨みとしては最適だろう。確か今井の葬式で、あいつの父親がすごい泣き方をしていたなあ。笑いそうになるのを我慢するのが大変だった。あいつの父親は、確か線香を上げに来た警察の人間に噛みついていたなあ。よし、使える。警察への復讐に燃える娘思いの心優しい父親。うん、いいね。新聞の見出しにも使えそうだ。)

「ふふ。」

 遠藤は小さく笑った。それを聞いていたタクシー運転手は、彼女に話しかけた。

「お客さん、何かいいことでもありましたか?」

 この運転手の問いに遠藤は穏やかな声で返答した。

「ええ、とても。まだまだ世の中も捨てたもんじゃないってことが分かりましたから。」

 遠藤は修学旅行を目前にした女子高校生のようにとても楽しそうだった。

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