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死期予見  作者: 本郷真人
第七章
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(4)

 佐々木信彦警部補と菅原千尋刑事の二人は蔵岡市連続猟奇殺人事件を担当した捜査官達に聞き込みを行っていた。2時間近くかかって10名以上の人物に事件のことを聞いたが、報告書に書いてあった事以上の情報を得ることはできなかった。

「署長はとても協力的だったけど、蔵岡署の全ての警察官が協力的というわけではなかったですね。」

 佐々木警部補が菅原刑事に言った。

「ええ、そうですね。やっぱり自分が捜査して解決した事件を再捜査されるというのは、あまりいい気持ちはしないでしょうからね。」

 菅原刑事は苦笑いしながら、先ほど会ってきた警察官達のことを思い出した。

 佐々木警部補と菅原刑事が事件を担当した警察官達に当時のことを聞いたところ、彼らは自分達の捜査に絶対の自信を持っており、報告書に書いてある通りのことを述べた。「他に報告書で述べた以外のことはなかったか。」と聞いたところ、彼らはあからさまに機嫌を悪くし、ぶっきらぼうな態度を取り始めた。

 結果、佐々木警部補と菅原刑事は何の進展も見込めないと判断し、それ故、事件の関係者への聞き込みに出かけた宮本彰吾刑事と山口龍平刑事の両名と合流し、彼らとともに捜査に当たることにした。

「早く捜査を終えて東京に戻りたいですね。」

 菅原刑事が佐々木警部補に言った。

「菅原さんは小さなお子様もいますし、それはそうですよね。今、何歳だったでしょうか?」

「今年で7歳になります。」

 菅原刑事は嬉しそうに言った。

「刑事という職業はなかなか家族との時間が取りづらいので、自分で決めた道とはいえ、やはり悩ましく思うときがあります。幸い、私の夫は専業主夫ですので、育児には何の問題も無いのですが。」

「旦那さん、専業主夫だったんですね。」

「ええ、料理も結構上手なんですよ。でも、私の父が少し古くさい考えを持っている人だったので、結婚は大変でした。」

「そうだったんですか。」

 菅原刑事の話を聞きながら、佐々木警部補は自分のことを振り返ってみた。

 佐々木警部補は小学生時代に観たとある刑事ドラマに影響を受け、警察官となった。ドラマに出てきた頭脳明晰な凄腕警部に憧れ、昇進試験に向けて勉学に励み、合格率わずか数パーセントの壁を打ち破ってようやく警部補になれた。30歳で警部補になれる人間は、全国に30万人近くいる警察官のうちたった数十人程度である。それ故、彼がどれほどの努力をしてきたかは想像に難くない。しかし、その分、彼は自分のためだけに使う時間というものをほとんど持つことはなかった。

(俺もこの事件の捜査が終わったら、プライベートの方も大事にしよう。ずっと独り身のままは少し気が引けるし。同じ独身の玉橋さんはそれをすごく楽しんでいるようだけど。)

 佐々木警部補と菅原刑事の思いは一つになった。事件を早期解決し、東京に戻ることである。

(ともあれ、事件に疑問を持つ限りはしっかりとそれが解決するまでとことんやるがな。)

 佐々木警部補は仕事には決して手を抜かない人間だった。いくら早期解決を望んだとしても、捜査の手を抜くことはしない人間だったのだ。


 玉橋里美刑事は、花村のぼるが最後の標的にしたとされている遠藤明という人物に聞き込みを行った捜査官の元を尋ねていた。この捜査官は玉橋刑事の捜査に非常に協力的であり、当時のことについて、彼女に詳しく話してくれた。

「ええ、事件のことなら今でも良く覚えていますよ。」

 遠藤明を尋ねた刑事は語り出した。

「花村のぼるが指名手配された後です。彼の自宅や彼が所有している物件の全てを調べることになりました。私は亡くなってしまった矢木瞳巡査と彼の自宅の捜索に当たりました。」

「矢木巡査とですか?花村のぼると渡部斉紀巡査部長が死亡した後に、花村の山小屋で亡くなった・・・。」

「はい、その矢木巡査です。」

 刑事は持ってきた矢木瞳巡査についての資料を玉橋刑事に手渡した。

「もう誰かから聞いていると思いますが、彼女は前の署長の一人娘でして、それ故彼女の主張は署内でも通りやすいと言われていました。花村のぼるの自宅への家宅捜索の時なのですが、彼女が自分も同行したいと言いましてね。それで花村の部屋を捜索するときに一緒に向かったんです。」

「なるほど。」

「今あなたにお渡しした資料は、矢木巡査が担当した事件や彼女が書いた報告書になります。」

 玉橋刑事は渡された資料の束を数枚めくった。

「それで、あなたは矢木巡査と一緒に花村の部屋を捜索したところ、遠藤明さんという人物の盗撮写真などが見つかったため、彼女のことを花村の次のターゲットであると判断したのですね。」

「はい、その通りです。遠藤という女性を写した写真が100枚以上見つかりましてね。それで彼女に念のため話を聞くことになったんです。もっとも、彼女のことを訪ねたのは花村のぼるが死亡した後だったんですけどね。」

「なぜ、花村害死んだ後に?」

「なぜって、それは忙しかったからですよ。」

 捜査官は「どうしてこんな当たり前のことを聞くんだ?」といった様子で玉橋刑事を見た。

「花村の捜索に蔵岡署のほとんどの警察官を使いました。彼のターゲットとなった女性については後回しとなったんです。でも、一応彼女の元に花村が現れるかもしれないと上に報告はしたんですよ。でも、彼女のことは別の捜査官が対応するので大丈夫だと言われました。」

「なるほど。そうだったんですか。」

 玉橋刑事はこの説明に納得していなかったが、そのままこの刑事に話の続きを促した。

「花村のぼるが死亡した後に、とりあえず遠藤明という女性の元を訪れました。自分が凶悪犯に盗撮されていたと知ってひどく動揺されていましたよ、彼女。それはそうですよね。怖くないはずがありませんから。でも、花村のことは会ったこともなくて全く知らないと言っていました。それ故、花村はただ無差別に被害者達を選んでいたに過ぎなかったと結論づけられた訳です。」

 事件の事を語った刑事は、長話をして喉が渇いたのか、持ってきた革製バックの中から水筒を取り出すと、飲み始めた。玉橋刑事はその様子を横目に見ながら、捜査手帳に彼の話をまとめて書いた。

「時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。ありがとうございました。」

 手帳にメモを書き終えた玉橋刑事が、説明してくれた刑事に礼を言った。

「いえ、お役に立てたなら幸いですよ。また何かありましたら、いつでも声をかけください。」

 その刑事は笑顔で玉橋刑事に言った。

「ちなみに、遠藤明さんを対応したという警察官の名前は分かりますか?」

「すみません。なぜかその警察官の名前は報告書のどこにも載っていませんでした。でも、まあいいじゃないですか。彼女は結局襲われなかったのですから。」

 事件を担当した刑事は笑顔でそう言った。

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