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死期予見  作者: 本郷真人
第二章
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(2)

 蔵岡市は、東北地方、日本海側にある人口13万人の都市である。20年前から他の町や村との合併を繰り返していたため、面積は東北地方の中でも上位に入る。

 都市の西側には日本海が拡がり、北、東、南それぞれには平均標高300メートルの山々が連なっている。いわば四方を海と山に囲まれた陸の孤島である。山々の麓からは広大な平野が広がっており、そこでは稲作をはじめとした農作業が盛んに行われている。

 市街地は都会の郊外のようであり、大きなビルなどはそれほど建っていない。その一方で大きな工場が幾つも建っている。

 このように蔵岡市は農業、工業共に栄え、田舎としてはそれなりに発展している地方都市であった。

そんな蔵岡市にある蔵岡警察署はこのところ巷で話題になっている連続猟奇殺人の対応に追われていた。県警本部から来た捜査第一課の刑事達が署内をうろつき、生活課や交通課、署内全ての部署で今回の事件は騒がれていた。

 蔵岡市はもともとこんな物騒な事件が起こるような都市ではなかった。人口も少なく、娯楽施設もそれほど多くはない。起きる事件といったら交通違反か窃盗がほとんどで、ましてや殺人事件などここ数年起きたことがなかった。そのため今回の事件が蔵岡市に与えた影響は非常に大きなものだったのである。


 二人の男が蔵岡警察署内の自動販売機が設置されている休憩スペースで話している。一人は若手の刑事である渡部斉紀巡査部長。年齢は30手前であり、最近刑事になったばかりであった。もう一人は中年の刑事である足立司警部。40代のベテラン警部であった。二人は渡部が刑事になった時からコンビを組んでおり、今回の事件も一緒に捜査していた。

「今回の事件なのですが、被害者の共通点や凶器、殺害方法といった規則性は全くありませんよね。どうして連続殺人とされたんですか?」

「猟奇殺人がこんな頻繁に立て続けに起きているんだ。誰だって同一犯を考えるだろうが。こんなことぐらいわかるだろ。」

 渡部刑事が質問をすると足立警部はいらいらしたようにそう吐き捨てた。

(この人はいつもいらいらしているが最近は一段とひどいなあ。まあ、この猟奇殺人事件が理由だろうけど。)

 渡部はため息をついた。今回の事件が起きてから、ただでさえ殺伐とした雰囲気の署内にはさらにピリピリとした緊張感が漂っており、彼は居心地の悪さを感じていた。

「いや、被害者全員から同じ薬物テトロドトキシンが検出されたから、連続殺人とされたんですよ。」

 二人の会話を盗み聞きしていた一人の男性刑事が足立警部にそう言ったが、彼はこれを無視した。

 しばらく渡部刑事と足立警部は二人で話をしていたが、そこに複数の足音が聞こえてきた。

「見ろ、本部のお偉いさん方だ。」

 足立警部の視線の先にはスーツを着た強面の男達が会議室に向かって歩いていた。彼らが歩くと廊下にいた署内の刑事達は道を譲っている。その光景を見て渡部は『お前らはモーセと海か』と言いたくなった。

「俺たち地方の警察は本部からきたお偉いさん方に尻尾を振る犬ってな。あいつらの命令を聞いてその通り動いて。ああ!考えているだけでイライラする!」

 足立の吐き捨てるような言葉に『イライラしてんのはいつものことだろ』と渡部は言ってしまいそうになったがぐっとこらえた。

(でも確かに俺たち地方の警察は、本部の奴らの犬だな。合同捜査とはいっても地方の警察は本部から派遣されてきた刑事達には絶対に逆らえない。)

 本部の刑事達にただの地方都市の警察官は逆らえない。彼らが命令したことをそのまま実行する。まるで地方の警察官は、指揮権というリードを持った本部の高官達に尻尾を振ってフリスビーという名の命令を待っている犬のように渡部には思えた。

(こんなことなら刑事にならずにずっと交番勤務だった方がストレスもたまんなくて気が楽だったかもな。)

 渡部刑事は純粋にそう思った。

「渡部、これから第二会議室で例の連続猟奇殺人の会議をするそうだ。今までの捜査資料をまとめたやつがディスクにあるから、念のためプレゼン用に別に作っといたやつと一緒に持ってきてくれ。」

 足立警部に言われ、渡部は嫌な顔一つせず補足資料を取りに行った。彼は感情を表に出さないことが得意だった。


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