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蔵岡警察署内の駐車場にて、自身に割り当てられた覆面パトカーの中で渡部斉紀刑事は件の連続猟奇殺人事件の資料を整理していた。
「手がかりはほとんどと言っていいほど無く、殺害方法もバラバラ。唯一の共通点は被害者から検出されたテトロドトキシンのみ。」
事件の資料を一通りまとめ直した渡部刑事は一人の人物に電話をかけた。四コール後、相手が電話に出た。
「もしもし、久しぶりだな。元気だったか?ちょっと聞きたいことがあって電話したんだけど。」
「いや、そんなに久しぶりという程でもないでしょ。三ヶ月前に一緒に飲みに行ったばかりじゃないか。」
二人は電話越しに笑い合った。
渡部刑事が電話をかけたのは、彼の中学高校時代の同級生である花村のぼるだった。花村は現在、県立蔵岡北高校に生物の教諭として勤めていた。
「急な連絡で悪いんだけど、お前に聞きたいことがあったんだ。ふぐ毒としてよく知られているテトロドトキシンってそう簡単に入手できるものなのか?一応猛毒だから、俺の考えでは一般人に抽出することは難しいと思うだけど。」
「決して一般人には抽出できないってことはないんだ。ただ難しいだけなんだ。俺たちがまだ子どもの時にトリカブトを使った殺人事件があったのを覚えているかい?例の事件では、トリカブトの効果を遅らせるためにふぐ毒、つまりテトロドトキシンを併用させたそうだ。この毒薬を作ったのは、研究者でも何でもないごく普通の会社員だった。作るまでに相当な時間をかけたそうだけど。彼はその辺の書店に売っている数冊の本を参考にして、独学で毒薬を作ってしまったんだ。」
「つまり、その気になれば誰でも作れるという訳か。」
花村の回答に渡部刑事は考え込んだ。
「感謝するよ。少しは捜査が進展するかも知れない。」
「助けになれたならよかったよ。捜査頑張って。」
高校教諭の花村のぼるとの通話を終えると、渡部刑事は車のエンジンをかけた。
「難しいことではあるが、毒の抽出はやろうと思えば誰でもやれなくはない。となれば、次に向かうは港か。」
渡部刑事は今後の捜査方針を頭の中で決めると車のギアをドライブに入れた。しかし、その瞬間に彼が乗っている覆面パトカーの運転席の窓ガラスを誰かがノックした。それは遠藤明だった。




