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刑事達が遠藤明という女性を調べ始めてから5時間が経過しようとしていた。
足立警部は渡部刑事のもとにやってくると『何かわかったか』と彼に聞いた。二人の刑事達はどちらも気分が高揚しており、短時間で集めた情報だけで遠藤明という女性がどれ程おかしな人生を歩んできた人間なのか理解し始めていた。
「遠藤明、24歳独身。職業は八雲製作所の経理担当。犯罪歴は全くなし。交通違反も一度もなし。ここまでは全く問題が無い人間のように思えますが・・・。」
「こいつの周りでは人がよく死んでいる・・・だろ?」
「はい、その全員が事故や殺人などで死んでいます。しかしどれも彼女とは全くと言って良いほど無関係な死に方だったんです。」
渡部巡査はパソコンで足立警部にそれぞれの事案の内容見せながら説明していった。
「最初は彼女が中学一年生の時でした。両親が自宅で自殺しています。原因は借金だったようでして、遺書もしっかり残っていました。彼らの死亡時間に彼女は学生向けの旅行イベントに参加していたとのことでした。」
「これは完璧な自殺だろう。俺も当時の捜査資料をさっとみたが、不審点は一つも無かった。」
足立警部はパソコンに映し出されている当時の捜査資料を見ながら言った。
「問題はそれからこの女の周りでは立て続けに人が死んでいることだな。」
「ええ。この数時間のうちにわかっただけで彼女の両親以外に八人死んでいます。」
「さすがにこれは異常な数字だな。しかしどれも彼女と事件を結びつけることはできず、そしてどの被害者も言うならば運が悪くて死んでいる。事故死は七件だが、これは全て巻き込まれ事故だった。そして一件あった殺人では、犯人が被害者を人違いで殺してしまっているときた。これはさすがにおかしすぎるな。」
「はい。明らかに異常です。」
渡部巡査はパソコンを操作しながら古い順から遠藤明という女性の周りで死んだ人達の資料を映しながら説明した。
「まず今からちょうど10年前、つまり遠藤明の両親が自殺してから1年後に孤児となった彼女を引き取った叔母夫婦が死んでいます。どちらも事故死だったみたいです。最初に彼女の叔母である竹中久子さん40歳がここ蔵岡市の山中を運転中にトンネルの崩落事故に巻き込まれて死亡。これは結構有名なニュースになり、彼女を含めて合計6人が死亡しました。現在、この道は通行禁止になっています。そしてこの事件の数日後に久子さんの夫である竹中直樹さん42歳が電話ボックスを使用中、その電話ボックスに乗用車が衝突して死亡しました。この電話ボックスに衝突した車に乗っていた男性も同じく死亡しています。どちらの事件も捜査報告書の被害者遺族の欄に遠藤明の名前が載っていてヒットしました。余談ですが、彼女はこの二人の死によって億単位の保険金を受け取っていました。」
「俺はどっちの事故も知っていた。特にトンネルの崩落事故の方は蔵岡市民で知らない奴はいないだろう。まさかあの女がその二人の養子だったとは。」
「自分もこれを知ったときは驚きましたよ。」
パソコンで次の捜査資料を表示しながら渡部巡査は続けた。
「次の事件は蔵岡市内ではなくてその隣の市で起きました。今度は今から8年前、遠藤明が高校生になった時です。彼女の目の前で、彼女のクラスメイト二人がトラックにはねられて死亡しています。二人をひき殺したトラック運転手は事故当時に心臓発作を起こしていたらしく、二人をひき殺したときには既に心肺停止状態だったみたいでした。これは事故目撃者の中に遠藤明の名前が載っていないか調べていたところヒットしました。」
次の捜査資料を渡部巡査が出すと遊園地の写真が映し出された。
「そして先ほどの事件の次の年なのですが、遠藤明の高校の担任が殺害されました。犯人はその殺された教師とは全く接点がない会社員の男性で、当時この男はある一人の女性に対してストーカー行為をしていたのですが、その女性が近々結婚することを知ったため殺すことを決意したそうです。そして1週間前から計画してきた殺害決行日、その女性がよく着ている服を遠藤明の担任が着ており、それに気がつかずに背中をシースナイフで刺して殺害。刺した後に顔を確認してから人違いとわかったそうでして、この男、怖くなったとのことですぐに警察に自首しました。これで事件は解決しました。」
「何でこんなことがあの女の周りでだけ起こるんだ?」
足立警部が言うと渡部巡査も「うーん」と首をかしげた。しばらく二人の刑事は沈黙し、彼らの間には静かな時間が流れたが、そのような時間が続いても仕方がないので、渡部巡査長はパソコンで次の捜査資料を開いた。
「このあとなのですが、遠藤明が大学生の時です。彼女が所属していたサークルのメンバー三人がそれぞれ別の事故で死んでいます。一つ一つ見ていきます。まず一人目。遠藤が大学一年生の時に、実家に帰省する際に高速道路で玉突き事故に巻き込まれて死亡。三年生の時に二人がアルバイト先の工場で起こった火事に巻き込まれて死んでいます。これは遠藤明の名前をSNSサイトで検索したところ、彼女が所属していたサークルの名簿が出てきて、それらの事件も彼らのサークルがSNSに載せていたためにわかりました。死亡した三人の名前は載せていませんでしたが、最近の学生達って何でもかんでもSNSとかに載せたがって怖いですね。」
渡部巡査長はパソコンの画面をスクロールしながらそう言った。
全ての事件資料を読んだ二人の刑事達は、この遠藤明という女性の周りで起こった出来事においてどの事故、事件においても不審点が何一つ無いことに言いしれぬ違和感を抱いていた。確かに不審点は何一つと言って良いほど無く、また、死んだ全員が遠藤明という女性の知り合いや家族といった関係者だったというだけで、彼女と死亡者たちに起こったこととの接点などもさっぱり無かった。それ故、二人の刑事達にとってこの事実はとても不気味だったのである。
「もしもだ。もしもだぞ。あらかじめ事件とか事故が起こることをあの遠藤とかいう女が知っていたとする。そしてそこに被害者達を誘導していたとしたらどうする?」
足立警部は自らの推理が絶対にあり得ないことだと自覚していた。しかし、彼の口からはこのような発言が出てしまっていた。足立警部がすぐに自分の口から出ていた発言に気がつき、はっとしたように渡部巡査長の顔を見ると渡部はぽかんと口を半開きにして足立のことを見ていた。
「冗談だ。忘れてくれ。」
足立警部はそう言うと、「ちょっとたばこを吸ってくる」と言ってパソコンがある部屋から出て行った。
「最初から遠藤明は事件や事故があることを知っていた・・・?」
足立警部の言葉を繰り返してそうつぶやいた渡部巡査長は、あり得ないことだとは思いつつもこの足立の考察が頭の中から離れなかった。




