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死期予見  作者: 本郷真人
第三章
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(2)

 8月7日。

 午前10時。八雲製作所には二人の刑事が聞き込みに来ていた。足立司警部と刑事である渡部斉紀巡査部長である。

「ニュースで既に知っている人もいるかと思いますが、一昨日、ここ八雲製鉄所の社員である安藤興介さんが何者かに殺されました。事件当日の安藤さんの様子などについて何か知っている人はいませんか?」

 渡部刑事は社員一人一人にそう尋ねていった。しばらくすると、第二営業部所属の望月薫に当たった。彼は安藤興介の直属の部下の一人である。

「安藤課長が殺されたなんて未だに信じられません。ついこないだまで一緒にこの職場で働いていたのに・・・。課長は周りからも慕われていましたし、これといって誰かに恨まれるような人ではありませんでした。」

「他の方々も同じようなことを言っていました。今回の被害者である安藤興介さんはいい人だったと。最近の彼の様子で、何か変わったことなどはありましたでしょうか?」

 渡部巡査部長の問いに対し、望月は少し悩んだ後、思い出したかのように口を開いた。

「関係ないとは思うのですが、この前、飲み会があったんですよ。部署などを問わないで、この会社のほとんどの社員が参加していました。安藤課長も参加していました。しかしその、なんて言うか、最後の方で少し不機嫌そうだったったんですよ。」

「不機嫌そう、とは?」

「課長は普段、感情を滅多に表に出さないんですけれど、その時はお酒も入っていたので日頃の鬱憤が少しだけ表に出ちゃっただけだと思いますよ。だから事件とは本当に関係ないと思いますよ。」

 この話題を最後に望月薫への聞き込みは終わった。望月薫への聞き込みが終わった後、ふと考えた渡部刑事は、念のため、飲み会の時の安藤興介の様子についても訪ねてみることにした。

「それに間違いは無いんですね。」

「はい、確かに安藤課長と女性の方が口論していました。」

 渡部巡査が飲み会の時の安藤の様子について聞き込みを続けていたら、一人の女性社員からこのような証言が取れた。

「その女性が誰だったかわかりますか。」

「うちの社員の人だとは思うのですが、誰だったかまでは・・・。何しろ飲み会にはほとんどの社員の方が参加していたので。」

「そうですか。」

 渡部巡査が落胆故にため息をついた時、二人の話を聞いていた一人の女性社員が混ざってきた。

「それ、たぶん経理部の遠藤さんだったと思いますよ。経理部で誰とも話さないでいつも一人だったので、逆に印象に残っていたんですよ。」

 第二営業部に所属している今井佳枝だった。

「その遠藤さんとはどのようなひとですか?」

「名前は遠藤明さんで、第二営業部の望月さんの同期で経理部に所属しています。飲み会の時なのですが、安藤課長と一緒にいるところを自分もたまたま見かけたんです。口論していたかはわからないのですが。」

「そうですか。ではその遠藤さんという人にも一応話を聞きたいのですが、本日遠藤明さんは出勤されていますか?もしそうでしたら彼女のところまで案内をして欲しいのですが良いでしょうか?」

「もちろん良いですよ。たぶんいるんじゃないですかね。」

 今井がそう言うと、渡部刑事は足立警部を呼び、遠藤明という女性のもとに案内してもらうことにした。


「はい。私が遠藤明です。」

 刑事二人に声を掛けられ、そう名乗った女性は心底面倒くさいといった様子だった。仕事中だったというのに、それを他者によって途中で中断させられたことに腹を立てているといった感じだった。

「急にお呼び立てしてすみません。自分は蔵岡警察の渡部といいます。」

「同じく蔵岡警察の足立です。ちょっとばかり貴方に聞きたいことがありましてねえ。お時間少しいいですか?」

 二人の刑事は自己紹介を済ませると、早速本題に移ろうとした。

「今忙しいので手短にお願いできますか?」

 遠藤が口を挟むと足立警部はちょっとむっとしたようになった。

「あまり時間は取らせないから。ちょっと社員食堂当たりにでも行って話しませんか?昼飯時でもないし、この時間だったら人はいないでしょう?」

 足立警部が少し強めにそう言うと、遠藤は渋々立ち上がり了承した。

「長くても10分程度でお願いします。こちらとしてもそんなに暇ではありませんので。」


 三人で食堂に着くと、渡部刑事が早速、遠藤に質問を開始した。

「この会社の安藤興介さん四五歳が八月五日に遺体で見つかったことはもうご存じですよね。テレビのニュースでも大々的に報道されていましたしね。死因は他殺で、その手口から我々はいまこの街を騒がせている連続猟奇殺人事件に関連しているものとして捜査しています。そして今日、安藤興介さんの最近の様子などについて彼の勤め先であるこの会社に聞き込みをして回っていたところなんですよ。その結果、事件の少し前にあった会社の飲み会であなたと安藤さんが何か言い争っていたとの情報がありましてね。その事について少し聞かせていただけませんか?」

「その日安藤課長はひどく酔っ払っていて、近くにいた私に急に絡んできたんです。原因は私にはわかりませんが、その場で収まった些細なことですよ。」

 渡部巡査が遠藤に問いかけたところ、彼女はすぐにそう返答した。しかし、これに足立警部が口を挟んできた。

「些細なことですか。その場を見ていた人の話しじゃあ安藤さんは結構激高していたそうですよ。それに、周りの人の話だと彼はお酒には相当強かったとのことでした。本当は彼と何かあったのではないですか?」

 足立警部の問いかけに対し、遠藤は少しむっとしたような表情になったが、すぐに冷静に切り返した。

「何かあったとはどういう意味ですか?仮に何かあったとしても事件に何の関係があるんですか?」

「何の関係があるか、ですか。それを我々は調べているんですよ。貴方のその様子じゃあそんなに些細なことではなかったように思えますねえ。」

 足立警部の返答によって遠藤は徐々に苛ついてきたようだった。貧乏揺すりをして落ち着かなくなってきた。

「さっきからネチネチと何ですか?暇なあなたたちとは違って私は今忙しいのですが。こんなくだらないことをしていないで、早くその連続猟奇事件について調べたらどうです?ああ、なるほど。これが無駄な税金の使われ方ってやつですか。フフッ。」 

 この遠藤の発言は足立警部の逆鱗に触れてしまったようだった。

「何ですか、その態度は。目上の人には敬意を払うってことを知らないんですか?」

 渡部刑事が足立警部をなだめようと努めたが、彼はスイッチが入ったように停まらなくなってしまった。

「こっちはこの一連の事件のせいで最近まともに休みを取ることも出来ないんだ。それを税金の無駄遣いだと?自分が何を言っているのか理解できていないのか?少しでも手がかりがないか地道に聞き込みをしているのに、あんたはそれを馬鹿にしている。我々は市民の不安を一刻も早く取り除こうと頑張っているのに。」

「警部、少し落ち着いてください。警部が怒る気持ちは本当によくわかりますから。遠藤さん、貴方もなんてこと言うんですか。忙しいのに時間を取らせてしまったことは謝りますが、言って良いことと悪いことがありますよ。」

 足立警部を落ち着かせようとしながら渡部巡査がそう言うと、遠藤は自身の手首に付けている腕時計を視ながら「移動時間を合わせたら10分経ったので、自分はこれで失礼します。」と言って席を立とうとした。しかし、それを足立警部が立ちあがって止めた。

「何ですか?私は最初に10分と言いましたよね?だからもう仕事に戻りたいのですが。」

「まだ質問は終わっていない!あんた、本当はもしかして事件に関わっているんじゃないのか?」

「は?何を言ってるんですか?ちょっと上司ともめたくらいで連続殺人事件の犯人にするつもりですか?」

「じゃあ何でかたくなに安藤さんとの口論について言おうとしないんだ。警察を馬鹿にしたりとか全く別の話題に切り替えてさあ。やましいことがないなら普通はちゃんと答えると思うけどね。」

 この足立警部の発言に対して遠藤は強めな口調で返した。

「ああ、そっか。貴方みたいな人が冤罪事件を生む刑事ってやつですね。なるほど勉強になりました。」

 これがいけなかった。この遠藤の発言によって足立警部は完全に切れてしまった。

「ああ、よくわかったよ。間違いなくお前は連続殺人事件はともかく、安藤さんの殺人事件には完全に関わっている。」

「何を言っているんですか?さっきから私は関係ないって言っているじゃないですか。」

 遠藤がそう言ってももう遅かった。

「いや、関わっている。かたくなに安藤さんとのことを言わないし、何よりあんた、知人が死んだって聞いてもどうでも良いって顔をしている。変な連中の中によくいるような共感能力が欠如した人間にそっくりだ。俺は調べるぞ。あんたのことを徹底的に調べる。本当に事件とは完全に無関係だっていう確かな確証がわかるまでな。」

 そう言い残すと足立警部は渡部刑事を連れ、遠藤を一人残して食堂から出て行った。

「ああ、本当に面倒くさい。うざすぎる。」

 その彼女の独り言は刑事達の耳には聞こえなかった。


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