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遠藤明は平均的な女性であった。年齢24歳。身長は158センチ、体重は49キログラムであり、少々筋肉質な体つきをしていた。多めの黒髪を見切りのよいショートカットにし、切れ長の一重の目、少しあごが尖っており、どちらかというと中性的な顔立ちをしている。しかしこれといった特徴がない人物であった。
彼女は一人でいることが好きだった。そのため他人と関わることを極力避け、日々を過ごしてきた。それ故、仕事もとある企業の事務を担当し、それほど人と関わることがない部署に就いた。
彼女の日課は決まっていた。朝6時半に起床し、シャワーを浴びた後に朝食を食べ、その後しばらくしてから出勤する。そして時々残業がある日もあるが、19時には現在住んでいる、彼女が所有している古民家に帰宅する。そして22時に就寝。
実に規則正しいが、これといった面白味もない単純な日々である。しかし彼女はこれを気に入っていた。彼女は変わらないものが好きであり、イレギュラーな出来事が嫌いだからである。
ここまでの彼女についての説明を聞けば、ごく普通の平凡的なさとり世代の若者である。何の面白味のない日々を愛し、決まった生活を繰り返す。
しかし彼女には人には言えない秘密があった。普通の人々とは違うところがあった。
「明ちゃんは良い子ね。」
それが私の母親の口癖だった。
私は生まれてから今まで一度も両親に対して反抗的な発言や行動をしたことがなかった。別に親から好かれたいとか、良い子だと褒められたくてやらなかったわけではなかった。単純に面倒だったから。ただそれだけだった。
両親に逆らったことがないので、逆らったらどうなるかはわからないが、きっと面倒なことになる。それだけは直感でわかった。
私の父は家庭に無関心な男だった。朝早くから会社に行き、夜遅くに家に帰ってくる。土日もほとんど家にいることはなかった。そんな父であったが、私に対して愛情をもっていたということだけはなんとなく理解できた。父とは会話をした回数は少ないが、その会話の中で親の愛情というものは感じ取れた。
母は優しい人ではあったが、私に強く期待する人だった。そして多少ヒステリック気味な態度を取る事が多かった。私は母に反抗すれば面倒なことになると直感で悟っていた。
父と母は決して仲が悪いというわけではなかった。しかし、たまにどうしてこの二人は結婚したのだろうと思うところがあった。