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メイド・フロム・ミー  作者: 志村達也
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1、ユニメモリーの完成

「……はあ、やらなくちゃ。今日で終わるんだから」

 啓太の人体実験の時間も終わり、いつもの作業に入った。頭にバイクのヘルメットのような機械を取り付け、布団の上に寝転がる。そして右側に付いているスイッチを押す。すると彼の意識は電脳の世界へと飛ばされる。


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 辿り着いた場所はいつもの家だった。目の前には自室の天井が見える。

 立ち上がり、自室の電気を点けた。鏡に今の自分が映る。少し肌にハリのある自分が、同じようにこちらを覗いていた。髪の毛もそこまで長くなく、現実の達也に比べてまだ少しは健康そうな姿だ。

 適当な服を取り出し着替える。おしゃれには興味が無いが好みはある。そのせいでいつも同じ様な格好ばかりしている。

靴下も履き、床に置かれていた鞄を持つ。そしておぼつかない足を無理矢理動かし、リビングに入って行った。

「おじいちゃん、おとうさん、おはよう」

先に起きてパソコンを見ながら朝食を食べていた達之助と啓太に挨拶をした。

「……」

「……」

 返しの挨拶は聞こえない。彼等にとって達也との会話は価値の無い物であり、自身達の研究の方が大切なのだろう。達也もそのことをわかっており、返事を期待せずになんとなく言っているに過ぎなかった。

 キッチンへ行き、食パンを一つ取り出す。そして焼きもせずにすぐ口の中に詰め込んだ。味はしない。というより、味を意識する気がない。ただ今日を生き抜くための燃料として消費しただけだった。

 パンを飲み込み、今度は何も言わずに家を飛び出した。

 家を出て近くの橋を渡り、その先にあるバス停に向かう。バス停にはすでにバスが停車しており、最後の人が乗ろうとしている瞬間だった。

「やば、」

 バスの存在に気付いて即座に足の力を入れ、走り出した。バス停までの距離はそう遠くない。そのおかげでギリギリではあるが何とか間に合った。

 バスに乗り、大学へ向かう。バスの中には同じ大学生らしき若者数名と、そして歩美がいた。

 目の彫りが深く、一瞬ハーフにも見える顔立ちをしている。身長は少し低い。しかしスタイルも含め、とても整った容姿をしていた。

「おーはよ! 達也」

 歩美は弾けた笑顔で挨拶をしてくる。

「おはよ!」

 達也は今日が始まってからやっと笑顔を作ることが出来た。

「今日の予定どんな感じ?」

 歩美が聞いてきた。

「午前中にゼミがあって午後は暇」

「お、私も午後暇! じゃあさ、デートしよ!」

「⁉︎」

 急に飛び出してきた「デート」という言葉に、達也は一瞬怯んでしまう。実際付き合っているし、デートに行くこと自体はおかしくもなんともない。が、バスの中で大きな声で切り出す話でもないだろう。

「よく恥ずかしげもなくこの場でデートとか言えるな」

「あ……」

 歩美はやっと察したのか、周りを軽く見渡したあと少し顔が赤くなった。歩美の中に常識が無かったわけでは無いらしい。

「まあ、良いよ。どこ行きたい?」

「やった! じゃあ今度こそ原宿の猫カフェ行きたい!」

「わかった。なんでわざわざ原宿なのかわからないけど」

「良いじゃん! ずっと行ってみたかったんだもん!」

「そうなんだ」

 歩美や大学の仲間といるときは笑顔を作れた。家族より、友達や恋人の方が大切な存在なのである。彼等との関係のように家族と接することが出来たら幸せだっただろうかと考える事もある。だがいつも答えは出ない。家族と幸せに過ごしている光景など、電子レベルの大きさも想像出来ない。


 歩美と会話をしていると、いつの間にかバスは大学前に到着ており、気づいた途端に急いで降りた。今日はいつも慌てなくてはいけない日らしい。

「じゃあ一時に校門前でね! 忘れないでよ!」

 達也は基本的に一日中予定を入れてしまっている。そのため一緒に出かけるということがほとんど出来ていなかった。二人の時間を作れたことに、歩美はよっぽど嬉しかったのだろう。

「わかったよ。絶対忘れない!」

 達也もその気持ちは同じだ。それを伝える為にも、いつもより少し声を張って言葉を返した。

「よし、授業行くか」

「おい達也!」

 突然後ろから攻撃を受ける。その衝撃に一瞬倒れかけたが、右足を前に出しなんとか耐え抜いて見せた。

「何するんだよ大吾!」

 後ろを振り向くと、肩幅が広く全体的に筋肉質な男が立っていた。同じ大学に通っている一番の友達、大吾だ。どうやら後ろからタックルされたようである。

「それはこっちのセリフじゃい! バスの中でイチャつきやがってよ。その他大勢の気持ち考えろいや!」

 怒りに任せて喋っているせいか、言葉が変になっている。ただでさえ少しゴリラっぽい顔をしているのに、さらに変な顔になっている。

「なんだよその文章。それに俺に言われても……」

「仮にお前が悪くなくてもお前のせいにしてやる。あいつのことを悪く言いたくないからな! くそ! 幸せそうにしやがって!」

 大吾は歩美に好意を抱いていたが、手を引いていた。達也と両思いということを知っていたからだ。そのため達也達の幸せのことを願っているが、それと同時に抑えられないモヤモヤを抱えているのだろう。

「だからって今日つけてくんなよ?」

「するか! つか柔道の試合あっていけねーし……。てかだから今言葉でぶつけてるんだろーがよ!」

 本当に傍迷惑な怒りである。達也も呆れ果てて冷たい視線を送り続ける。

「はあ、もういいだろさ。ほれ、もう気が済むまで愚痴言い終わったんだからさっさと教室行くぞ」

「くそ! あ〜もう、こうなったらとことん言いまくってやる。なくなっても言い続ける! そしてお前を授業に遅刻させてやるガーハハハ!」

「遅刻してたまるか。そこでずっと言ってろ。俺は教室行く」

 達也は視線を外し、大吾のことを置いて進み始めた。

「あちょっ、待てよ! 冗談だろ一緒に行こうよ〜ね!」

「はいはい。さっさと行くよ」

「ホイッ」

 二人はいつものようにくだらない会話を楽しみながら教室の方へ歩いていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 こんな幸せもそういえばあったんだった。達也は改めてそう感じた。現実の達也、つまり今見ている達也の十九年後は、このように友達と過ごす時間というものを持ち合わせていなかった。ただ生きて、ただ苦しみながら作業をし続ける日々。改めて今、何故自分が生きているのか問いただしたくなった。

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「え、なんでもういんの?」

 校門前に辿り着いた歩美は第一声にこのような発言をした。

「それはこっちのセリフでもあると思うんだけど」

 教授の適当な時間配分のおかげで早く授業が終わってしまった達也は、待ち合わせ時間の三十分前から校門の前で待機していた。

「まだ十二時三十五分だよ?」

「だから、それはこっちのセリフでもあるんじゃない?」

「そんなに楽しみにしてたんだ〜。ふ〜ん」

 歩美はにやにやしながら達也の顔を覗く。少し面白くなり、同じように笑顔で返事をした。

「うんそうだよ」

「え⁉︎」

 あまりにも素直な返答が返ってきた為か、歩美は驚いていた。そしてそんな光景を見て達也は面白がった。からかおうとして返り討ちにあったときの歩美の表情ほど楽しいものはない(楽しみにしていたのは本当だが)。

「じゃ、行くか」

「う、うん」

 どうやらまだ恥じらいから抜け出せていないみたいだ。


 電車に乗り、原宿に向かう。電車の中はこれ以上誰も立ち入らせる気の無い程に混雑していた。二人は何とか隙間を作り、その間に入って吊革も摑まずに立っていた。

「そういや朝も聞いたけど、なんで原宿なの? 別にどこでも良くない?」

「え〜だってポイント貯まるから」

「ポイント? 行ったことあるの?」

「うん」

 達也の疑問に歩美は当たり前のように答えていく。

「朝『ずっと行ってみたかった』って言ってなかった?」

「“達也と”行ってみたかったって意味」

「ああ、成程」

 サラッと嬉しい発言をされたが、そんなことは気にせず会話を続けた。

「そういえば、何でこの大学入ったの?」

「いきなり何で?」

「何となく。本当に今更なんだけどさ、だって達也成績悪いじゃん」

「まあ確かに、成績悪いけど……」

 英語や国語の方が得意であり、数学や科学は苦手。しかし彼が通っている大学は理科大学。疑問を持たれるのも無理はない。

「理科大に入ったのは親からそうしろって言われたからだよ」

「親の意見で決めたの?」

「うん。行きたい大学は別にあったけど許してくれなくて」

 会話の中に「親」という単語が出てきてしまった途端、空気を冷たくしてしまった。彼女との時間は暗いものにしたくないのに。

「親なんて無視して行きたい大学行けばよかっただろうに」

「そう簡単にはいかないよ」

 歩美は達也と彼の家族の関係を知らない。自分の好きな選択をするということがいかに不可能であるのかを知らない。

「なんかな〜。まあ私は、達也に会えたから嬉しいけど」

 歩美は言葉を途切り、達也の顔をしたから覗き込む。

「ん?」


「達也には自分の好きなことをやってほしいよ。もっと自分勝手にね!」


 その言葉は過去も現実も、そしてきっとこれからも達也自身が望んでいる言葉であった。自分で好きなようにやりたいことをやる。きっとそれは一度死んで、優しい両親の元に生まれ変わるしかないのだろう。

「そうだな、したいな。自分の好きなように生きること」

「私と一緒にいることはそうじゃないの⁉︎」

 物思いに耽って言葉を発すると、すぐさま怒りの言葉が飛んできた。本当に良くも悪くも空気を壊す天才である。

「そうじゃないよ! というか情緒不安定だな、自分から言い出したんじゃん」

「なんてね〜。ただ浮かれてるだけだよ」

 達也の返事にすぐに表情を戻し、いつもの明るい歩美に戻った。

「浮かれたらそうなるの?」

「まあね」

「ちょっと怖い」

 謎の会話を続けていたらいつの間にか目的の駅に着いていた。

「早く行こ!」

「え、ちょ」

 今日は土曜日だ。人が多く波にすぐ拐われそうだというのに、歩美は当たり前のように掻き分けて前へ進んで行ってしまった。

「小柄なことが幸いしているというか災いしているというか……まあ、俺的には災いしかないんだけど。て、あ」

 変なことを考えているうちに、歩美のことを見失ってしまった。

「歩美! 何処いった?」

 名前を呼びながら探す。が一向に見当たらない。本当に災いしかなかった。

「おーい!」

 少し進んだ先で大きく伸ばされた腕を見つけた。

「歩美」

「ん!」

声に反応して腕が揺れる。呼ばれたときは掌を向けていたが、少し経つとしおれる。

「歩美!」

「んー!」

 また元気よく花咲く。小刻みに手を揺らし、自分の場所を主張していた。

「何処だ? こっちじゃないのか?」

「わざとでしょ!」

何となく面白がって見て見ぬフリをしていたらあっちから来てくれた。小柄なことが幸いしてくれることもあったようだ。

「見つかった」笑顔で歩美に近づく

「じゃないよ!」

 そして怒られてすぐに足元を蹴られた。

「イッタ!」

「見失わないでよ」

「こんな人が多い中で先に行かないでよ」

「それは……ごめんだけど」

 簡単に歩美のことを言い包めた。やられてしまった歩美は体を縮こめて、下を向く。その姿に達也の口元が綻ぶ。

「はい」

 達也の前に真っ直ぐ手が差し出された。

「ん? ……うん」

 そして達也はその手を握った。冷たい手。心が暖かい人は手が冷たいという話があるが、その考えでいくと歩美はとても心が温かい人なのだろう。

「手冷たいね」

「そうでしょ。私冷え症だからね。しっかり温めてよ!」

「うん……」

 もしその話が本当ならば、歩美の手を温められる自分は心が冷たい存在なのだろうか。

「あ! あそこだよあそこ!」

 歩美は嬉しそうにビルの四階を指差す。

「あ〜あれか。ほんとだ。猫見える」

「行こ!」

「……迷子にならないでね!」

「う〜るさい」

 歩美は少し駆け足になり、それに釣られて達也の足も早くなる。


「お〜久しぶりめんこ! あ! クロエ〜」

 どうやら本当にこの猫カフェが初めてではないようだ。一匹一匹の猫の名前まで把握している。絶対常連だ。

「ここ良くない? みんな本当に可愛いし、店内綺麗だし!」

「うん、確かに」

 猫カフェの内装はとても明るく綺麗で初めてでも居心地が良い。壁や床が木材でできているからか暖かみがあり、猫達も他で見たことがないほど安心しきっていた。

「あ、えっと」

 達也はここまで間近で猫を見るというのが初めてという事もあり、かなり緊張していた。

「何してるの? 達也」

 いつの間にか買っていたお菓子を猫にあげている歩美が尋ねてくる。

「ねえ、これ、どうすればいい?」

「ただ近づいて、撫でてあげればいいんだよ」

「……分かった」

 少し先にいた黄土色の猫に近づき、しゃがんで背中を撫でてみた。確か歩美に「めんこ」と呼ばれていた猫だ。

「意外と暖かくないんだな」

「何その感想、」

 歩美は笑い出した。他の客もいたし、何より猫を怖がらせないためか、声を殺すのに必死になっていた。

 めんこを撫で続けていると、軽く鳴き声をあげて達也に更に近づき、そのまま倒れて眠りについてしまった。

「めんこ、寝ちゃったね」

「うん」

 自分に少し体重を預け、すやすやと気持ちよさそうにしているめんこ。とても幸せそうな顔だった。見ているだけで勝手に顔の筋肉が緩んでいく。

「達也、なんかめっちゃ幸せそうな顔してるね」

「え? そう?」

「うん。猫好きだったの?」

「そうなのかも」

 猫が好きというのもあるが、どちらかといえば憧れを抱いたというのが本音である。

「よかった! 達也楽しんでくれていて!」

「……歩美は凄いね」

「何が?」

「いや、何でもない」

「何それ!」

 自分のことだけでなく、相手のことを考えることが出来る。そんな歩美は格好良い。歩美には恥ずかしくてそんなことは言えなかった。

「俺は幸せ……」

 自分が幸せだと言おうとして、途中で言葉が詰まった。頭に啓太と達之助の顔が浮かんだからだ。腕の動きがぎこちなくなる。めんこはそのことが不服だったのか、達也の元を離れて行ってしまった。

「あ、ごめん」

「気にする必要ないよ。猫は気まぐれだから」

「気まぐれか。良いな」

「……」

 なぜかいつも以上に感情の籠ったセリフになってしまった。それに少し動揺したのか、歩美も言葉を出せなくなってしまう。

「ねえ達也?」

「何?」

「達也は私といる時、自分の好きなようにいれてる?」

「⁉︎」

 突然の質問に驚いてしまった。まさかそこまで真面目な話が来るとは思ってもいなかった。

「いられてるよ」

「ほんとに?」

「本当。だから、こんなに素の表情が出せるんだよ」

「そっか。……私は全然もっと気まぐれになってくれて構わないよ。達也が望んでることを何でもするから」

「そんなこと言われなくても、歩美には自分の好きなように接してるから大丈夫」

 歩美は当たり前のようにこんな凄い言葉を吐く。考え方だけで言ったら男性より、他のどんな人より強い存在だろう。

「ありがとう」

「どういたしまして!」

 そしてまたすぐに少し脳天気で自由な歩美に戻った。二重人格とまでは言わないが、中々の変貌ぶりである。

「ふふ、」

 笑みを溢し、その場の勢いで歩美の頭に触れた。サラサラな髪の毛に触れるのが心地良い。そのまま手を動かし、頭を撫でる。

「本当にありがとう」

「んん、髪の毛ぐちゃぐちゃになる……」

「あごめん」我に返り、すぐに手を離す。

「いいよ。嬉しかったし!」

 本当に歩美は正直だ。こちら側が恥ずかしくなるくらいに。

 達也ははにかみながら、少し荒々しく歩美の頭を撫でた。

「もうこれ以上ぐちゃぐちゃにしないで!」

「ごめん」

 そっと手を離し、自分の膝下に手を持っていった。


 猫カフェで二十分程過ごした後、二人で落ち着ける場所を求めて歩き出した。

「この辺りって人多すぎてどこも入れないね」

 ただでさえ人が沢山集まりそうな場所だが、休日ということもあり、かなりの人口密度となっている。

 達也はまた勝手に何処かに行かないようにするため歩美の手を握った。

「お、今度はそっちから来たね」

「さっきも握ったのは俺だよ」

「握らせたのは私だから」

「そんな競い方したら決着つかない」

「確かに」

 二人は手を繋いだまま歩き出した。

 人が多く、どこまで歩いても満席になっている所ばかりだった。落ち着ける場所は見つからなさそうだ。

「もういっそのこと山手線乗ってもう少し居心地良い所行く?」

「じゃ巣鴨行こ」

「あ〜確かに。落ち着けそう。良いね」

「あ、でも駅まで戻るのめんどくさい」

「それくらい我慢しなよ」と言おうとしたが、達也は何となく黙っておいた。そのままの自由気ままにいる歩美を見ていたかった。

 ふと、本当に自分なんかが歩美の側にいて良いのだろうか? と疑問が浮かぶ。自分がいたところで、歩美を幸せにしてあげられるとは思えない。もしも歩美が啓太や達之助に会ってしまったらどうなるのか。考えるだけで絶望してしまう程だ。自分なんかより、大吾といた方が歩美は確実に幸せになれる。一緒でいて幸せになれるのは、自分だけ。

「とや!」

「うぇ!」

「話聞いてよ!」

 考え事をし過ぎて自分の殻に潜り込んでしまっていた。呼び起こすためのキックはかなりの力を持っているみたいだ。

「ごめんなんか言ってた?」

 言葉を無視してしまったのだと気付き聞き直す。すると歩美はすぐに視線を逸らし、小声で言い直した。

「……現金持ってないから電車賃貸してください」

「馬鹿なの?」

「うるさい」

 先程の猫カフェでやたらと猫のお菓子を買っていたので大丈夫なのか心配していたが、本当に危なかったようだ。

「まあ良いよ。そこまで遠くも無いし普通に払うよ」

「え! ありがとう!」

「凄いな。遠慮しないなんて日本人の風上にも置けないよ」

「凄いでしょ!」

 今のは褒め言葉だったのか、もしくはただ単純に歩美を貶しただけだったのかは定かではなかった。

「てかあれ? もう駅着いてたんだ」

 考え事をしていたせいで、駅の前まで来ていることに気付かなかった。元々駅からすぐのところをうろちょろしていただけだったこともあり、想像より早く着いていたようだ。

「どんだけ自分の世界に入ってたの? とゆーか駅に着いたから電車賃のこと思い出したに決まってるじゃん!」

「いやもう少し早く、というか猫のお菓子買うときに気付けよ」

「それは、……はい。すみません」

 本当に純粋で素直である。達也は彼女の素直な姿を見ながら何度もニヤニヤしてしまいそうな自分の顔を、歩美から遠ざけた。


「着いたー」

「って言う程移動してないでしょ」

 無事巣鴨に辿り着き、二人で辺りを見渡した。

「うん! やっぱり落ち着いてて良い雰囲気だ!」

「じゃ、カフェかどこか探すか」

「カフェなら商店街の中にあるよ」

 電車の中で話しながら携帯を触っていたが、その時に何があるか調べていたようだ。

「ならそこ行こう」

「うん!」

「もしかしてまた奢り?」

「現金が無いだけ! 多分今から行くとこはカード使えるから大丈夫!」

「りょーかい」

「電車賃が無い」というのは、ただ銀行から現金を下ろしていなかっただけだったらしい。どちらにしろ、歩美が用意周到な人ではないことは一目瞭然だが。

 そこから二人は横断歩道を渡り、商店街を目指して歩き出す。

「良いよねここ!」

「うん。流石『おばあちゃんの原宿』って言われるだけあるって感じ」

 若者二人が「デート」という形で行くにしては少し質素な所ではないかと考えていたが、行ってみたら考えを改めさせられた。元々達也は人が多いところがあまり得意ではない。その点この商店街は大渋滞が起こる程人が溢れていない。程良く人が歩いており、達也にとって居心地が良い場所であった。

「こういうところは変に変化せずにそのままの形で残っていて欲しいな」

「だね〜。あ! あれだよ!」

 歩美は人差し指で行き先を示してくれた。そこは所謂チェーン店の、少し値段が高そうなカフェだった。

「ちょっと高そう」

「いいじゃん! キツそうだったら私が奢るからさ!」

「奢れる財力あるなら電車賃分くらい下ろしときなよ」

 爪が甘かったり甘くなかったりする歩美にずっと振り回されているように思え、少し呆れが出てきたのだろう。ツッコミの毒が更に濃くなった。

「ほーいほい」

「はぁ、歩美が変な人に捕まる前に出会えて良かった」

「それは良かった」

「良かったじゃないよ」

 呆れ続ける事にも疲れ、達也は勝手に一人で歩き出しカフェの中に入って行った。その後を歩美は着いていく。

 カフェの中はタイミングが良かったのかいつもなのかはわからないが、達也が思っていたよりは空いていた。照明が薄暗く、ちょっと小洒落た感じのある内装。落ち着いて時間潰しが出来そうだ。

「私席取っとくね〜」

 レジもそこまで並んでいるわけではない。なのに何故わざわざ席をとっておくのかわからないが、それを言うのは面倒くさかったので言わなかった。

「え? 何にするか選んでからにして」

 歩美が関取に行こうとしている途中で、注文を聞いていないことに気付いた。

「ん〜じゃおまかせで」

「……了解」

 今回のことで、少なくとも今日はもう歩美の行動に呆れるのはやめようと誓った。

 取り敢えず一番安いコーヒーとケーキを二個ずつ買った。結局歩美が奢るわけではないどころでなく、自分が歩美の分も払っているが考えないようにした(電車賃を払えない程に現金を持っていないため、どちらにしろ後で割り勘も無理だろう)。

 受け取った後少し当たりを見渡し、奥の方に歩美がいるのを見つけた。少し俯き、もじもじしているように見える。

「お待たせ。これでい、」

「あのさ、」

 突然言葉を遮られ、達也は少し驚く。そして、何か不満を抱えさせるようなことをしてしまったかどうか考えた。達也自身中々にネガティブ思考の持ち主の為、思い当たる節が沢山ある。

「今日何の日か分かるよね」

「え……」

 本当に心当たりが無かった。ちなみに歩美の誕生日でも、付き合い始めた記念日などでもない。

 少し考えたが、最終的に諦めて聴くことにした。

「ごめん、何だったっけ?」

「もー! 絶対忘れてると思った! 今日達也の誕生日でしょ!」

「え、そうだっけ?」

「なんで当人が忘れてるわけ?」

 誕生日だから何かして貰うという文化の中で育っていなかったせいか、今日が誕生日ということを全く意識していなかった。

「逆に俺が覚えてなかったのによく知ってたね」

「だって学籍番号の最後四桁って誕生日じゃん」

「そうだったんだ……」

 結局は何故学籍番号を知っているのかという疑問が生まれたが、そっと何処かに捨てておいた。

「で、まあてか座って」

「忘れてた」

 歩美が珍しく真面目な雰囲気で話し出したので、すっかり忘れて立ち尽くしていた。

 正気を取り戻し、ケーキとコーヒーを机に置いて歩美の反対側の席に座る。

「あでさ。これ、」

 歩美は体を持ち上げ、腕を達也の首の後ろに持っていった。

「誕生日プレゼント」

 首元に、小さなリングが付いたネックレスがあった。シンプルなデザインだが、とても綺麗な形をしている。

「これ、良いね! ありがとう!」

 正直、達也には物の良し悪しは分からない。ただ、“歩美からプレゼントを貰えた”と言うことが単純に嬉しかった。

「どう?」

「すごく嬉しい! 初めて人からプレゼントを貰った」

 嬉しさを伝えることが初めてなせいで、達也はうまく言葉に出来ずに喜んでしまった。

「ふふっ、よかった!」

「本当にありがとう!」

「どういたしまして!」

 歩美は達也の反応を見て満足そうに頷いた。顔はほのかに赤くなっている。誕生日プレゼントが喜んで貰えるか心配していたのだろう。緊張が解けて、溜まっていた熱が表に出てきたようだ。

「てかケーキとコーヒー一番安いの選んだでしょ!」

「奢るって言いながら一人席に行っちゃった人が文句言うなよ。元からお金無いって言ってたのに」

「……こ、こう言うのは大抵男が奢るも、……ごめんなさい」

 珍しく途中まで何とか言い訳して対抗しようとしたが途中で諦め、素直に謝った。

「ははっ、どうせなら最後まで貫けよ」

「はははっ、ごめん!」

 二人は少し声を荒げて笑いあった。少し抑えていたとはいえ、これは達也にとって一番大きく笑った出来事だった。特別面白いことが起きたわけではない。だが、それでも彼にとって一番幸せな笑いだった。

「ぬるくなる前に食べちゃお!」

「そうだね!」

 そして、いつものように歩美の少しくだらない話を聞きながら二人の時間を楽しんだ。


 カフェでのひとときも済ませ、二人で外に出た。

「ふー。ご馳走様です!」

 結局この場は達也の奢りという形になった。最初は話が違うと少し不服だった。が、それ以上のお返しがあったことによって、もう全てがどうでも良くなっていた。

「じゃあ次どこ行く?」

「まだどこか行くの?」

「当たり前じゃん! 二人で遊べることなんてほとん」

 歩美が話している最中に電話が鳴り出した。達之助が掛けてきたようだ。

「ちょっと電話、ごめん」

「分かった、」

 暗い顔をした歩美から一旦離れ、達之助からの電話に出た。

「もしもし、いきなり何?」

『今日はもうやることが終わったかと思ってな。話したいことがある。今すぐ家に帰ってこい』

「……分かった」

『では、また家でな』

 こちら側の意思とは関係なくさっさと電話を切られた。無駄に会話を続ける気はないのだろう。

 達也は考えた。このまま家に帰らないでおこうかと。もしそうした場合、おそらく家に帰ったときに残酷な仕打ちを受けるだろう。

達之助に従って今からでもすぐ家に帰ったら。そしたらおそらくいつも通りの地獄以上の仕打ちを受ける。

数秒考えた後、達也は歩美のところへ戻っていった。

「ごめんお待たせ」

「ん、ほーい」

「で、何処に行くのか決まった?」

「ん〜そうだね! じゃあせっかくだし、もう少しこの商店街歩こう!」

「良いよ」

 達也は達之助から逃げる決断をした。今までは頼れる人もいなくて、ただずっと耐える日々を送ってきた。でも今は歩美や大吾がいる。さっきの命令を無視してずっと逃げ続けられれば、きっと自分は自由になれる。そう考えたのだった。


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(なんでこんなことしたんだよクソ野郎)

 過去の自分の行いを見て現実の達也は激しく非難した。もし素直にすぐ家に帰っていたとしても結末は変わらなかったかもしれない。もしかしたらさらに酷いものになっていたかもしれない。それでも自己非難の気持ちは治らなかった。

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 二人はその後ゆっくり商店街の中を歩いていった。

「あワンコ!」

 犬と散歩をしている人を見つけ、歩美は瞬時に反応する。

「猫カフェ行ってきたところなのに、犬に鞍替えしちゃうの?」

「犬も猫も好きなの!」

「はあ、」

「大体わざわざ犬猫に優劣をつける必要も無いでしょ? いろんなことで一番二番〜って競い合おうとするけど、そんなの気にしなくてもいいって思えないのは何でだろうね!」

 今までの歩美からは、あまり想像つかないような台詞が飛び出してきた。何故いつも唐突に知的になったりカッコ良くなったりするのだろうか。

「確かに。『一つ選べ』なんて結局は両方を選ぶ力が無い人が言う台詞なのかも知れないね」

「ナラ、アナタモ、ナカマダ」

「え?」

 突然すれ違った人によく分からないことを吐かれ、驚いて振り向こうとした。しかし体はうまく動いてくれず、達也はどんどん意識を失いバランス感覚を失って倒れていった。

「え、達也! たつ、」

 突然倒れ始めたことに驚いた歩美は何とか達也を支えようとしたが、動く前に何者かに押し倒された。

「あ、ゆ……」




 どのくらいの時間が経ったのかは分からない。長くとも一日は経っていないと思うが、かなり長い間意識を失っていたように感じる。

 そっと目を開ける。認識できた風景は、あまりにも見飽きた自室の天井だった。

「あれ、俺家に帰ったんだっけ?」

「ああ。俺が迎えに行ってね」

 いつの間にかベッドの横に啓太が座っていた。いや、いつの間にかと言うより、ずっと座っていたのに気付かなかったのだろう。

「全く、父さんに逆らうとか凄いな。僕だったら絶対に出来ないよ」

 啓太の父さん、つまり達之助に逆らった。意識が曖昧になっていたが、そのことを耳にした途端今までに感じたことがない程に背筋が凍る。熱帯雨林がいきなり氷河期になったかのように。

「俺が、おじいちゃんに、逆らった?」

 自分でやっておきながら、今更になって自分がやったことの恐ろしさに気付き、恐怖に飲まれていく。

「ああそうだ。父さんお怒りだぞ」

「ようやく目が覚めたか」

「あ、ああ、」

 達之助が部屋の中に入ってきた。ただでさえ凍っていた背中にさらに寒気が走る。

「どうして命令を無視した?」

「そ、それは、」

 恐怖に飲まれてうまく話すことも出来ない。今までも確かに達之助に対して恐怖を感じていたこともあったが、これ程までの恐怖では無かった。

「まあ良い。さっき埋め込んだ機械でお前に“恐怖”を植え付けたからな。もうこのようなことは起きないだろう」

「恐怖?」

「ああ。これからお前は俺と“死という概念”にとてつもない恐怖を覚えるようにした。もしも俺に逆らおうとしたり勝手に死のうとしたら、恐怖に飲まれ、出来なくなるようになる。勝手な行動をされたら困るからな」

 そう。これが達也に付けられた鎖。「死への恐怖」、「達之助、啓太への恐怖」という名の鎖は、勝手に達之助に付けられた物だった。

「なん、でこんなことを、した、ん、ですか?」

 恐怖に飲まれていき、今まで通りタメ口で話すことさえも恐ろしく感じるようになってしまった。

「決まっている。これからお前にやって貰わなければいけないことがあるからだ」

「やらなくちゃ、いけないこと?」

「そうだ。簡単に説明すると、“お前の記憶の確認”だな」

「……」

 達之助が何を言っているのか理解出来ず、達也は黙り込んでしまう。

「俺達は生まれてから今まで、ずっとお前のことを遠くから映像で撮り続けていた。その映像とお前の記憶が正しいのかを確認するのがお前の役目だ」

「それって、どういう……」

「物分かりが悪い奴だな!」

「ご、ごめんなさい!」

 いきなり大声で叫ばれた為、怯えてしまう。

「俺達は今まで脳の研究を行なっていき、その中で“記憶のゴミ箱”とも言うべき仕組みを見つけたのだ。そしてゴミ箱の中のゴミと大脳にある記憶を繋ぎ合わせることで、具体的な記憶を復活させることが出来ると気付いたんだよ!」

 ただでさえ恐怖に飲まれて思考回路が狂ってきているのに、先程から話が突拍子なさ過ぎて理解が追いつかない。

「記憶が正しいものかを確認する為、とある実験をしようと考えた。それが、“お前の十九年間を録画し、それと記憶のかき集めを比べて正しいかどうか確認する”ということであったわけだ」

「つまり、俺は『その映像と自分の記憶を見比べる』のが仕事、っていうことですか?」

 十九年間ずっと録画されていたと言うあまりにも驚愕的な話をされていたにもかかわらず、「これ以上おじいちゃんを怒らせたくない」という欲が勝っているせいで、そのことは考えられなかった。

「やっと理解したか。分かったのならさっさと始めるぞ。こっちだ」

 達之助はどこかに達也を案内しようとした。しかしその前にどうしても聞きたいことを思い出す。

「あ、歩美はどうして、ますか?」

「あ?」

 恐怖に耐えながら質問をしたが、そんな努力に関係なく強い口調が帰ってきた。

「!」振り返った達之助と目が合い、体が震える。

「あ〜あのクソアマか。あいつなら今病院だよ」

「……」

「お前を連れて帰るときにうっかり押し倒してしまったようでな。運悪く飛び出してきたバイクと衝突して、今は昏睡状態になっているらしいぞ」

「ごめんね達也〜」

「……」

 あまりの衝撃に、またもや言葉も発せなくなる。

「まあこれで良かっただろう。あんなクソガキのせいで反抗的な態度を取っていたのだしな。あれが無ければお前も作業に集中出来るだろ」

 殴りかかりたかった。拳に力を入れた。しかし達之助の顔を見た瞬間、その力は抜けていった。歩美のことに対して抱いた怒りより、達之助に対して抱いた恐怖が勝ってしまったのだ。

「そうだ。これがあったらあれのことを思い出して集中出来ないやも知れんしな。処分してやろう」

 達之助は達也の首に巻かれていたネックレスに手を伸ばし、思いっきり引っ張る。首が切られそうな勢いで引っ張られたが、負けたのはネックレスの方だった。

「あ、あぁ」

 千切れたネックレスは形を保つことも出来ず、床に散乱する。達也は俯き、形を失った何でもない何かを見つめた。

「あ? 文句でもあるのか?」

 達之助の言葉に体を震わせて反応する。

「……いえ、ありません」

 鎖に繋がれた達也には、もう歩美のことを考えることさえ許されなくなってしまったらしい。

「ねえねえ父さん! 僕も達也に怖がられるようにしてよ! 面白そう!」

「ああ。その方が都合良いだろうしな。分かった」

 その後も啓太と達之助は会話を続けていたが、全く耳には入ってこなかった。


 そこまで見届けた現代の達也は、メニュー画面を開き、電脳世界から抜け出した。


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 目を開くとまたあの天井だった。だがいつもと景色が違う。少し歪んで見える。

「終わった。やっと終わった。もう、終わりだ」

 今回見た記憶をもって、記録された十九年間の記憶の確認が全て終了した。コンピューターで照合した後の最終確認の為、全てを凝視する必要があったというわけではなかった。また録画映像との照らし合わせの為、視覚、聴覚以外のものの確認も要らなかった。そのおかげもあってか、達也が考えているよりも時間はかからなかったが、とはいっても十九年だ。録画されたのと同じだけの時間。それだけの時間を費やしてきた。費やさせられてきた。

「終わった、終わった。終わったんだよ!」

 自然と目が潤ってきた。久しぶりだった。絶望ではなく、ただの「嬉しい」と言う感情で涙を流したのは。それ程までに辛い作業であった。元々彼の十九歳までの記憶は毒親からの仕打ちの記憶、学校で疎外されていた記憶が大半を占めている。そんな辛い時間を再度経験させられる。これ程までに残酷なことはそうそう無いだろう。

「お父さんは、もう寝てるか。俺も、一旦寝よう」

 一気にこれまでの疲れが蘇ったのか、そのまま死に倒れるように眠りについた。頭に着けた機械を外すことも忘れて。

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