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メイド・フロム・ミー  作者: 志村達也
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プロローグ

 薄暗い街の中、志村達也は一人歩いていた。仕事場では除け者扱いされながら一人で過ごし、家に帰ったら地獄以上のものが待っている。そんな生活を繰り返していた彼にとって、有象無象の一人、ただの背景の一人になれることはこれ以上ない幸せだった。

 天国に憧れていた。天国に行けば苦しむことはない。天国に行けば大切な人を大切に出来る。天国に行けたら、もし天国に行けたなら。

 だが、それは憧れでしかない。現実から逃れられるなら、地獄でさえ夢のような場所だろう。いつも死後の世界を夢見ていた。死に憧れていた。

「ここで死んでしまいたい」

 橋の上を歩きながらふと思った。いつかの思い出の場所。明るい色の鉄格子が夕日によって綺麗に色づけられたこの風景。この中で死ねたのなら、人生を少しでも綺麗に終わらせられるだろう。

達也は柵に手を掛ける。そしてその瞬間、手から全身に緊張が伝播していく。喉まで到達したら、痛いとしか言いようの無い音が出る。

「うああああああああああ! あああああああああ!」

 いつものことだ。自殺を試みた途端、恐怖に飲まれて行動が出来ない。死後の方が幸せとわかっていたとしても、「死への恐怖」という鎖がいつまでも体を縛り続ける。そして、もう一つの鎖が達也を家に向かって引っ張っていく。

「生きて、生きて帰らないと、早く帰らないと、おとうさんに怒られる……」


 家に着き、ドアを開ける。いつものように白衣を着た啓太が貧乏ゆすりをしながら待機していた。

「……ただいま」

「おい達也、何してたんだよ」

 達也を視界に入れた途端、啓太は猛烈な勢いで迫ってくる。

「! ご、ごめんなさい! おとうさん」

「ああ、本当だよ全く。今日もやりたいことが浮かんだんだ。作業の前に付き合ってくれよ!」

 また、始まる。地獄に逃げたくなる時間が。ここから逃げた方が幸せになれるということは達也自身もわかっている。だが、逃げ出せない。恐怖という鎖はどこまでも絡まりまくって、指一本さえ逃れることはできない。

「わかりました。すぐ準備します」

「頼む頼む! 今回はな、また新しい感覚を思いついたんだ! 実験台頼むぞ!」


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