幕間 ヴァンピールの日常-その壱
常夜の国「オーエント」、この国で暮らしている住人のほとんどはヴァンピールと呼ばれる種族である。
ヴァンピール。遥か昔『失われし聖戦』の際、人工的に誕生した種族だ。不死身に近い身体能力と人間を遥かに凌ぐ戦闘能力、永久に近い寿命、成長期が過ぎると緩やかになる老化という特徴を持つ種族。神が人を造り出したように、人がヴァンピールを造り出した。ただし、争いを制するために。ヴァンピールは元々、戦闘兵器として生まれでた種族なのである。そのため、ヴァンピールの各々に備わっている能力は目的よって違ったものになっていた。
ヘシュム、局地制圧用に備えられた身体能力の高さは同じヴァンピールでも頭一つ抜けた身体能力である。
ノーン、戦局兵器として与えられた能力は高出力の魔術を扱うための高い魔力と精霊を使役するために親和性の高さである。
タルウィ、猫などの動物に化ける能力は敵地に自然紛れ込むための諜報活動を視野にいれたものである。
ドゥルグ、誘惑や幻術といった能力は戦闘支援や後方支援などのサポートに特筆した能力である。
ザリチェ、自身の肉体を霧に変える能力は戦闘は勿論、拠点防衛の戦力として考えられていた。
アズ、ヘシュム・ノーン・タルウィ・ドゥルグ・ザリチェ全ての能力を持つ。指揮官の役割として考えられた能力だが、実用段階で頓挫してしまい、この能力を持つ者は聖母エリファスを含めた極々僅かな数である。
これらの能力は戦闘兵器でなく、種族として生きている現在でも6つの系統という概念として受け入れられている。
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ザール地区に店舗を構えるスーパー「入り玉」。その日、月に一度の激安タイムサービスのある特売日である。スーパーの店員は間近に迫るタイムサービスに備えていく。
ピンポンパンポンっと店内にアナウンスが流れる。
『当店は3時より特売シールを貼った商品を1セルで販売します。お客様にお願いです。ヘシュムやノーンの能力でシールの付いた商品の争奪は控えてください。ドゥルグの能力でシール店員を誘惑や幻術による偽装は法律に触れる恐れがあります。絶対にしないでください。また、霧になってレジに割り込まれるのは他のお客様のご迷惑になります。絶対にお止めください』
マナーの悪いお客とスーパー店員の駆け引きは戦争さながらのものがある。ホント。
―――『ヴァンピールの日常-その壱』完