幕間 オーエントの偉人
常夜の国『オーエント』の国民において建国者エリファスの名を知らぬ者はいない。それこそ、子供からお年寄りに至るまで誰もがその名を知っている。
そして、エリファスの妹に当たるテレアもまたその名を知らぬ者はいないと言っていいほどその名が知れ渡っている。
彼女の知名度が高いのは何も建国者の妹だからという理由だけでは無い。勿論、それもあるのだが彼女が残した功績の多さこそに起因する。
エリファスは最初ただの横穴であった場所に村を街をと発展させ、最終的に国を造るところまでに発展させたという点から伺い知ることができるように、彼女は開拓者としての才能に秀でていた。
では、妹のテレアの秀でた才能とは?
彼女の優れたものは才は内政を執り行うことに優れていたことである。その時代、ヴァンピールの者のほとんどは奴隷、それより不遇の扱いを受けていた。当然、教育らしいものは何一つ受けておらず、ひどい者だと言葉すらしゃべれない者がいたそうだ。当然、そのような者が集まれば諍いも頻繁に起こる。エリファスは後に軍・警察の前身となる自警団を結成し、妹であるテレアにその指揮を任して、治安を守っていた。
コレだけを聞くと妹のテレアの方が好戦的な印象を持つかもしれないが、実際は逆である。姉のエリファスの方が好戦的もとい破天荒な性格であり、それに見かねた妹のテレアが「姉さんに任せたら収まるものも収まりません!!」と言って決して争いに関わることに近付けさせなかったそうだ。妹の姉に対する認識が後の発展に大きく関わってくることになる。
オーエントは地下に出来た国である。地上に存在する国と違い何処にでも住もうと思えば住めるというお国柄ではない。安住の場所は自分たちの力で開拓しないと住むことも出来ない国柄だ。地下は広大だが多くの人が住める場所は地質や環境が要因となって限られてくる。現在オーエントでは12の都市と100以上の交通網によって形成されている。都市の数に対して交通網が多いのはそれだけ多くの失敗、要は人が住むのに適さない空間に繋がる道が多いことを示している。
そして、12都市のうち9都市の水源を支えているのがメリエル地下水脈である。この水脈を発見したときエリファスは歓喜したという。なぜなら、これでオーエントの更なる発展が見えてきたからである。
が、ここで問題が発生した。発見した地下水脈には先住民がいたのである。ドラゴンと引けを取らぬ巨躯に匠によって鍛え上げられて剣でも傷一つ付けられぬ鎧を纏った原生動物。後に都市亀と呼ばれるようになった地下水脈に住む巨大亀である。エリファスは発展の妨げになる巨大亀を殲滅すべきと考えたが自警団を指揮していたテレアはそれに猛然と反対した。彼女曰く「私達の都合で巨大亀を追い出すの余りに身勝手。それでは私たち(ヴァンピール)を虐げてきた人達と変わりが無いじゃないの」と。テレアは巨大亀と共存することを提案した。エリファスは渋々ながらもそれを受け入れ(というよりも武力に関することは妹に握られていたため、受け入れざる得なかったというのが実情だが)、巨大亀を生態を調査するのに十年程の歳月を要したという。それによって巨大亀とヴァンピールは共存が可能だということが明らかになり、また彼らの巨躯とその強大な力は国の発展に有用であることが判明し、現在では都市亀交通というオーエントの物流を担う重要な要となった。巨大亀の生態調査で明らかになったことだが気性こそ穏やかな彼らだが一度怒らせるとドラゴンよりも性質が悪く、エリファスの提案どおり不用意に手を出していたら発展が十年の遅れで済まなかったと言われている。この話をきっかけに『都市亀とテレア様』というおとぎ話(何故かエリファスが悪役の話)が生まれている。
たびたび意見の食い違いで衝突する姉妹であったが姉妹間の仲は悪くなく、むしろ良かったらしい。
エリファスは持ち前の指導力とカリスマ性で人を集め国土を発展させ、テレアは社会制度や法制度などに力を入れ、国を豊かにすることに貢献した。
彼女たち姉妹は政治的役目を終え、現役を退いた現在でも国民からの人気が高く、『猛る月はエリファス様、慈愛の太陽はテレア様』と姉妹の銀髪金髪の違いを言い含めた例えがいい広まってる程である。
それほどまでに人気がある彼女達だが政治的引退を表明した後の行方は誰にも知られていない。それは彼女達姉妹がそう望んだことであるし、もはや一国民でしかない彼女達の生活に支障を与えないようにと軍・警察、政財界が最大限の配慮を彼女達に施したのではないからかといわれている。
今回は幕間を利用して設定を軽く触れることにしました。しばしば名前が出てくるのに説明が皆無ってのも問題あるかなっと思ったので……。
ご意見・ご感想・誤字脱字のご指摘があれば、どんどん言って下さいね。お待ちしています。