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17、森を抜ける1

 「‥‥‥な‥‥い。」


 「‥‥きな‥‥い。」


 何か分からないが、遠くの方で声が聞こえる気がする、何の声かも分からないが、その声もだんだん遠くなっていき、声によって浮上してきた意識がまた、深い所まで落ちていく。


 ゴンッ!!


 「痛った〜〜!?」


 突如として、頭部に痛みが走り、落ちかけた意識が一気に浮上し、眼前で、怒った顔の母さんの姿が映し出される。


 「いつまで寝てるのよ、今日の早朝に出るって皆んなで決めたじゃない」


 「だからって強く殴りすぎだろ!、頭から鳴っちゃいけない音がなったけど!?」


 殴られた場所は、たんこぶになっており、結構な力で殴られたであろう事は、たんこぶの大きさが物語っていた。


 「大丈夫よ、それより準備出来てないのは、龍也だけよ?早く用意しなさい。」


 頭部のたんこぶに、まだ若干の痛みを感じつつ周りを見ると、全員荷物をまとめ用意が終わっている事が見て伺える。



 「‥‥‥え?、本当に俺だけやん!」


 「そうよ‥‥、40秒で支度しな!」


 「いや、無理だわ、俺◯ズーじゃないしw」


 「冗談よ、皆んな待ってるんだから早く用意しなさい」


  寝起きの頭をフル回転させ、迅速に出発の準備を行った。


 「終わったよ〜」


 「‥‥5分ね、パ◯ーなら、置いてかれてるわね」


 「そのネタもうよくない!?」


 「お兄ちゃん‥‥面白いネタは擦るものだよ!」


 「‥‥皆んな早く行かない?」


 こんなやり取りが続き出発時間が遅れる。


 「じゃあ、皆んな出発するぞ、忘れ物はないな?」


 「「「おー!」」」


 「‥‥‥気を引き締めて行くぞヤローども!!」


 「「「ヤーーー!!」」」


 「皆さん、大変ノリがよろしいのですね」


 どこかの蛮族の様な雄叫びと共に、龍也達の物語は進んでゆく。


 


➖➖➖➖➖➖➖ ➖➖➖➖➖➖➖



 「何も出なくね?」


 「「「何も出ない」ね」わね」な」

 

 龍也達は1時間ほど森の中を進んでいた。

 ただ、怖い位に順調に進む故に、逆にこちらから魔物を探す始末。


 「何もいね〜よ〜!」


 空気の澄んだ森の中で龍也の声が大きく響き渡る。


 「これじゃあ、レベル上げが出来ないね〜アオ?」


 ポヨ‥‥ポヨン‥‥‥。


 「‥‥‥あの〜何故そんなに落胆しているのですか?」


 安全に進んでいるというのに、何故か魔物必死に探している龍也達を不思議に思い首を傾げるナターシャ。


 「安全に進める方がいいと思うのですが‥‥」


 「確かにそうなんだけど、やっぱりレベルは上げれる時に上げといた方がいいと思うんだよね!!それに圧倒的に強い敵に出会ったら詰んじゃうでしょ?だから早めに強くなっておきたいな〜って思って!」


 「‥‥‥なるほど、それは一理ありますね」


 「‥‥あ!、いい事思いついた!」


 何か思いついたのか突然、龍也が得意げな顔になる。


 「なんか良い方法思いついた?お兄ちゃん?」


 「おう!、ここで軽く手を切って、血の匂いに誘い出された魔物を倒すのはどうよ!」


 なんて事を言い出す龍也の頭を全員で引っ叩く。


 「痛ったーい!?、何で叩くのさ!!」


 「いや、お兄ちゃんどう考えてもそんな事したら魔物が、いっぱいきて、あっという間に殺されちゃうでしょうが!」


 「‥‥‥確かに!」


 よくよく思い返し別の方法で探す事にした龍也達は、それぞれ意見を出しあっていく。


 「料理作ってたら、やってこないかしら?」


 「う〜ん、人間じゃあるまいし、料理の匂いで誘き寄せることはできないんじゃないか?」


 「‥‥‥あの〜索敵魔法を使えばいいのでは?」


 「「「「それだ!」」」」


 全員がナターシャの案に賛同し索敵魔法を使って、魔物を探す事にした。


 「未来、確か気配感知のスキル使えたよな?」


 「ええ、ワイルドスネイクの探す時に、習得しといた事を忘れてたわ」


 「お母さんそれ、どれくらいの範囲探せるの?」


 「そうね〜‥‥大体半径1㎞位かしら?」


 「お〜!、結構範囲広いんだね!じゃあお母さんそれで魔物探してくれない?」


 「探すのは良いのだけど、脅威度は分からないわよ?」


 「大丈夫だよお母さん!、一匹だけなら、どうにかなるって!」


 「‥‥分かった、やってみるわ」


 未来は周囲に注意を払いつつスキルを使い、範囲内にいる魔物を察知していく。


 「‥‥‥いたわ、一匹だけだけど‥‥‥」


 未来はスキルに専念しながら、感知した魔物の不自然さに訝しげな顔になる。


 「どうしたの母さん?そんな険しい顔して?」


 未来の異変に気付いたのか、龍也が心配そうに声をかける。


 「大丈夫よ龍也‥‥ただ見つけた魔物が一向に動く気配がないから、少し変に思っただけよ」


 大丈夫と言いつつも何処か腑に落ちてない顔をしながら、答えた未来に皆んなの表情が引き締まる。


 「取り敢えず、全員でその魔物の所まで行ってみるのはどうでしょうか?」


 「うーん、確かに行ってみないと何も分からないし、ヤバそうなら全力で逃げればいいんじゃない?」


 「そうは言うけど妹よ、この前みたいな、蛇が出たら詰みだぞ?」


 「確かにそうだけど、どのみち魔物倒さないとレベル上がらないでしょ?」


 「‥‥確かに」


 結局、魔物を倒しに行くという方向で話しは纏まり、進もうとした矢先に真からの「ちょっと待った、龍也」という声に足を止め全員が振り返る。


 「魔物の所に行く前に、これだけは約束してくれ‥‥まず、格上でどうしよもない場合即座に逃げに徹すること、そして逃げるのも厳しいと感じた場合‥‥‥琴遥を連れて2人で真っ先に逃げる事だ、分かったか?」


 「!?、逃げるなら全員で逃げればいいじゃん!」

 

 「出来る事なら、そうしたいが異世界で、どうしよもない敵会う事なんざよくある話しだろ?、そうなったら父さんや母さんを切り捨てて、直ぐに逃げろ」


 神妙な表情でそんな事を言う父さんを見た龍也は途端に言いようのない不安に駆られる。


 「母さんはそれでいいの!?生き残るなら、全員で逃げた方がいいに決まってるじゃん!?」


 次第に不安が加速している龍也を未来が宥めるように頭を撫でる。


 「確かに、皆んなが生き残れる方が1番良いのだろうけど、現実はそんなに甘くはないんじゃないかしら、それに戦闘中にその一瞬の迷いから、手遅れになるかもしれない‥‥‥だから父さんは貴方にあえて今、伝えたいんじゃないかしら?、いざという時に迷って手遅れになる前に‥‥‥ナターシャちゃんもそれでいいわよね?」


 「‥‥‥はい」


 どちらが良いか聞いてきたものの、有無言わさないと瞳に気負いし絞り出すように、返事をした。

 ‥‥‥返事はしたものの怖い物は怖い、ましてや一度ワイルドスネイクに飲み込まれている。こんな経験は2度としたくないため、ナターシャは強い魔物が出ない事を心の中で全力で祈る。


 「ほら龍也、シャキッとしなさい。別に今すぐに逃げろと言っている訳ではないのよ?、ただもしもの話しをしているだけ、そうでしょ?」


 「‥‥‥分かった、父さんごめん」


 「大丈夫だ、父さんだって別に死にたい訳じゃないし、俺もお前の立場だったら、反論してたしな」


 内容が内容だけに、重苦しい空気になりはしたが、真の言葉で、龍也達はより一層警戒をしながら、魔物のいる方向に進む。






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